アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。

じゃくまる

ギルド受付嬢、アニスさんの場合

 一方その頃のアニスさん――。

「はぁ~。スピカちゃんがフィルちゃんを連れて外の世界へ旅に出ちゃったから、お姉さん暇すぎる……」
「すいませ~ん、依頼受けたいんですけど~?」
「はぁ~、連れて行ってほしかったなぁ~」
「聞こえてますか~? すいませ~ん!!」
「ちょっとアニス、忙しいんだから目の前の人くらい捌いてよ」
「あっ、いらっしゃいませ、こんにちわ。依頼の受付ですね」
 考え事をしている間にあたしの前には誰かが並んでいたようで、同僚にものすっごく睨まれて注意された。
 はぁ、今はスピカちゃんたちのことだけ考えていたいのに……。
 とりあえずさくさくっと処理を終えて時間でも作りますか。

「アニス君、なんだか上の空だな? 恋の悩みか?」
 ふと、低めの渋い声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはギルドマスターのリカルドさんが両腕を組んで立っていた。

「いえ、スピカちゃんが来なくて寂しいな~と」
 同僚に注意されてから小一時間ほど業務に集中すると、あっという間に暇な時間がやってくる。
 冒険者は多いけど、一旦依頼を受けるとしばらく帰ってこない。
 なので、受付に立っている間は暇な時間の方が多かったりする。
 手元で書類仕事も書類整理もさくさくっと終わらせるので、座るほどでもない。
 というか、座ると逆に眠くなるから困りものだ。
 そんな中ぼ~っとしている間ににリカルドさんがやってきたというわけだ。
 包み隠してもしょうがないので、不満をギルドマスターに吐露することにした。

「ほほう? どんな子なのか知らないが、アニス君が気に入るとは珍しいこともあるものだ。著名な冒険者だろうと靡きもしなかったくせにな」
 ギルドマスターは顎に手を当て、物珍しそうにあたしを見てくる。
 そんな風に言われるほど、他人に興味がないわけじゃないんだけどなぁ……。
 ただ言い寄られてもどうでもいいというか、知りたいと思わなかったのだ。
 今のところお気に入りとして挙げるなら、男性はアークトゥルス君で、女性はスピカちゃんだろう。
 二人は兄妹でもありパーティーメンバーでもあるので、一緒に行動していることが多い。
 最近は交友関係の問題で、別行動しているようだけど、スピカちゃんはアークトゥルス君と組む時は若干テンションが高いようにも思える。
 スピカちゃんの話によると、二人は義理の兄妹なんだとか。
 スピカちゃんの実妹はマイアちゃんっていう輝くような黒髪の小さな女の子だ。
 つまり、アークトゥルス君だけが養子ということになる。
 なんだか楽しいトラブルの予感がすると思わない!?

「そんなこと言われても、著名な冒険者の人たちは結構自分勝手ですし、敵も多いでしょう?」
「たしかにな。私も一介の冒険者からギルドマスターになったが、品行方正な高ランク冒険者は少ないといえる。大事なギルド職員たちを嫁にやるには考えさせられてしまうな」
 メルヴェイユの街のギルドマスターは職員に対して過保護な面がある。
 犯罪さえ犯さなければ、退職後にもちょくちょく仕事を出したりなど、色々と便宜を図ってくれる。
 
 カランカラン
 吊り下げられたベルの音が成り、訪問者が来たことを告げる。
 ふとドアの方向を見ると、場違いな全身鎧の聖堂騎士様が入って来たのだ。

「失礼。ここは騎士様が足を運ぶような場所ではないと思いますが?」
 すかさずギルドマスターが前に出て騎士様に対応した。
 ギルドマスターは歴戦の勇士だけあって、聖堂騎士の中にも憧れている人が多い。
 それに、大きな身体でずいっと前に出て迫って来たなら、誰でもびっくりするだろう。

「失礼した。私は四級聖堂騎士のフリートというものだ。リカルド殿、少しお話をさせてもらってもよいだろうか?」
 さすがはギルドマスターというべきか、騎士様は横柄な対応などせず丁寧に理由を説明しだした。
 ここだけの話、聖堂騎士の中には横柄な態度の人が多い。
 王城の騎士団を除けば、その次にトラブルが多いのも特徴といえる。
 ただし、それは六級聖堂騎士などの責任を伴わない成り上がりの者たちに限るとも言える。
 今回やってきたのは四級。
 ベテランの騎士で、各所の防衛などの任務を担う責任者たちでもあるのだ。
 その能力は高く、現在は汚染地帯との境界線に多く配置されている。

「四級……。ということは、外に出た冒険者たちについてですかな?」
 ギルドマスターは聖堂騎士の階級にも詳しい。
 なので、すぐさま用件を察したようだ。

「あぁ、その通りだ。貴殿たち冒険者ギルドの所属している異世界人冒険者のスピカについてなのだが……」
「スピカちゃんがどうしたんです!?」
「落ち着きなさい。まだ何も話していないじゃないか」
「はい……」
 スピカちゃんの話題が出た瞬間、思わず大きな声を出してしまった。
 聖堂騎士と言えば、犯罪者に対する逮捕権限を有している。
 一瞬事件に巻き込まれたのかと思い込んでしまったのだ。

「すまない。続けていただきたい」
「あ、あぁ。え~っと……、この度類稀なる能力により、広範囲の浄化が行われた。おおよそだが、百メルドくらいの範囲を上空まで浄化してしまったのだ。今回のことについて功績が大きいと判断し、私の権限で緊急的に特別報酬を支給することにした。たった今、王城に申請したところだ。申請が通ればこちらに追加報酬の形で支払われる予定なので、一応報告をと思ってな」
「…………」
 騎士様の言葉に、あたしは少し唖然としてしまった。
 浄化ができる職業というのはいくつかあるのは知っているし、微々たるものだけど浄化できる道具があることも知っている。
 たしかに、スピカちゃんの職業は浄化が行える職業だ。
 それでも、騎士様が慌てるほどの事態が起こるとは思えなかった。
 正直、びっくり。

「ええっと、その現場を確認できますかな?」
 ギルドマスターがやや困惑したように、騎士様に問いかける。

「あぁ。実際に現場を見た方が納得も出来よう。ただ業務もあるので明朝でもよろしいか?」
「えぇ、大丈夫です。さすがに今すぐは厳しかったので」
「はいっ、あたしも行きたいです!!」
 明朝確認しに行くと聞いたので、あたしはさっそく同行を申し出た。

「遊びに行くのではないぞ? わかっているのか?」
 ギルドマスターは渋い顔をしてそう言ってくる。
 別に遊びに行くつもりではない。
 スピカちゃんに会いには行きたいけどね。

「同行くらい問題ない。リカルド殿もそう渋い顔なさるな。では、明朝すぐにでもこちらに」
「えぇ、問題ありません」
「わかりました!」
 こうして明日、あたしたちは現場を確認することになった。


************


「うわぁ、なにこれ……」
 明朝、迎えに来た騎士様と一緒に件の汚染地帯にやってきた。
 東門方面の詰め所から出てすぐにだけど、見事な青空と青々とした木々、瑞々しい草が生えているのが見てとれた。
 えっ、ここ、汚染地帯よね!?

「なんともまぁ……。道の浄化などについては知っていたが、空までというのは初めてだな……」
 ギルドマスターも唖然とした表情でその光景を見ていた。
 でも、もっと気になるものがあるんですけど!?

「あの白いクリスタルなんです?」
「あれは浄化のクリスタルらしい。浄化の際の副産物として出来たのだとか」
 さすがの騎士様も苦笑気味だった。
 所々に白いクリスタルが設置されており、それが他に四か所。
 合計五か所に設置されていたのだ。

「あれはなんだ!? 昨日まではなかったぞ!?」
「家……? こんな場所に?」
 騎士様が驚いたような声を上げたので、その方向を見る。
 そこには丸太を重ねて作られたような家が存在していたのだ。
 あたしも驚いたけど、ギルドマスターもびっくりしている。

「怪しいな。調べるか」
 騎士様が恐る恐る近づいていく。

 すると――。

「ぬおっ!?」
 丸太の家に接近した途端、猛烈な勢いで騎士様が弾き飛ばされたのだ。

「なっ!? 結界だと!?」
 騎士様もびっくり。
 それはそうだと思う。
 こんな場所に結界で覆われた家があるのだから。

「家……、結界……。あっ、もしかして!」
 あたしは気が付いてしまったのだ。
 そう、あそこにいるのはスピカちゃんたちなのだと。
 そう考えたら、居ても立っても居られない。
 すぐさま駆け寄り、弾かれた場所の近くまで近づいていく。

「あっ、こら! アニス!!」
「大丈夫ですよ。えっと、何か書いてありますね? 『ご用の際は、押してください』」
 そこには木の看板が設置されていた。
 まるで何かを説明するかのように。

「押せばいいのか?」
「押しちゃいましょう!」
「押すのは貴殿らに任せる。私はいざという時の為に、いつでも動ける準備をしておこう」
 騎士様が即応態勢を整えるので、あたしたちは気兼ねなくボタンを押すことができる。

「ぴんぽ~ん」
 ボタンを押すと、不思議な音が鳴った。
 そして、しばらくすると、可愛らしい声が聞こえた。

『は~い、どちら様ですか?』
「何だ、どこから聞こえている!?」
「たぶんここかと」
「面妖な……」
『ありゃりゃ? こちらの世界の人ですね。今行きま~す』
 目の前の看板は、そう言うと、カチャリと音を立てて沈黙した。
 間違いない、あの可愛らしい声はスピカちゃんのものだ。

 しばらくすると、丸太の家に設置された扉が開き、中から可愛らしい少女が出てきた。

「あらら? 皆さんお揃いで、どうしたんですか?」
「なんにゃ~?」
 出てきたのは、青銀色の綺麗な輝く髪を持ち、ぴんと立った狐耳がキュートな少女だった。
 うん、つまりスピカちゃんだ。
 その脇部分からは猫耳少女がひょっこり顔を出している。
 なんでわざわざそんな狭い場所に頭を突っ込むのかな?
 猫獣人でもそんなことしないと思うけど……。

「え~っと、一回出るので、ちょっと待っててくださいね?」
 そう言うと、スピカちゃんたちは家の中に引き返していった。

「待ちますか」
「そうだな。女性をせっつくのは野暮というものだ」
 おじさん二人組は毒気の抜かれた表情をしつつ、黙って待つことにしたようだ。
 仕方ないので、あたしも待つことにしよう。

 それからしばらくして、スピカちゃんたちが出てきたので、いろいろ話を聞くことにした。

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