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じゃくまる

スピカとルーナと世界の真実

 ルーナを召喚してからボクたちは、外部へと出るための準備を始めた。
 特にボクは、フィルさんを集落へ連れて行くという仕事もあったので、一時的にルーナたちと別れてフィルさんを迎えに行った。
 それから、フィルさんと合流してから再度集落へとたどり着くと、フィルさんに認識できるかを確認した。

「フィルさん、この先に何か見える?」
 ボクの目の前には執事のルードヴィヒさんと集落の長のゴルドさんがいる。

「ん~、知らないイケオジ執事と普通のおじさんがいる」
 フィルさんは二人を指さしながらそう言った。
 当然二人は苦笑を浮かべているのはご愛敬。

「ようこそ、この世界の住人よ。本来ならば元素精霊以外と出会うことはなかっただろう。特殊な例ではあるものの、まぁよろしく頼みます」
「ようこそ、お初にお目にかかります。私はルードヴィヒ。スピカお嬢様の執事をしております。本日より我が主の同居人ということになりますので、ご挨拶させていただきました」
「……よろしく」
 人見知りなフィルさんは、ちょっと間が空いたものの辛うじてよろしくと言うことができた。
 ついでにぺこりと小さな体を折り曲げてお辞儀もしている。

「ご丁寧にどうも。ここは精霊の郷でもあります。まぁ名前はまだ決まっていないんですがね。そろそろ集落とか郷とか言うのをやめて、村とか街と名乗りたいものですな」
「それでは、私はお嬢様方の支度を手伝って参りますので、これで」
「あぁ、すまなかったね。そうそう、フィルさん。この場所のことはくれぐれも他言無用でお願いしますね。守れない場合は最悪許可の取り消しもありえますので」
「了解、誰にも言わない。口の堅さには自信がある」
 ゴルドさんの忠告に、真剣な顔をして頷くフィルさん。
 口が堅いというよりは、人見知りな上に無口だからうっかり漏らすこともなさそうだけどね。

「それでは、改めてようこそ。私たちは貴女を歓迎いたします」
 ゴルドさんは改めてフィルさんにそう言った。
 これでゴルドさんとの面通しは終わったから、あとは屋敷に行くだけだ。

「スピカ、お嬢様だった?」
 きょとんとした表情で、小首を傾げながらそう問いかけてくるフィルさん。
 このまま訂正しないでいると勝手に設定されそうなのでやんわりと修正しておく。

「違う違う。ゴルドさんの好意で大きな屋敷を手に入れられて、それでなんだよ」
 実際にボクはただのちび妖狐だからね。
 ボクたちはそんな話をしながら屋敷へと歩いていった。


**************


「ただいま~」
「お帰りなさいませ、お嬢様。そしていらっしゃいませ、フィル様」
「ん。よろしく」
 フィルさんは人見知りなので受け答えは最小限だったりする。
 これでも結構がんばってはいるようだ。

「おかえりなさいませ、スピカ様」
「おかえりにゃん」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
 奥からルーナと音緒、そしてミアが出てきた。

「そういえば、スピカ様は無名の書を手に入れましたか? メルヴェイユ様が置いていたはずなんですが……」
「ん? それって、これ?」
「えぇえぇ、そうですそうです。少しお借りしますね~」
 ボクが見せた無名の書と書かれた本を手に取ると、何やら手をかざしたりページをめくって確認したりしている。

「何してるの?」
 その行動が気になったのでとりあえず確認してみることに。
 するとルーナは「名前変えちゃいました」とにこやかな笑顔でそう言った。
 それを聞いて確認してみると、本のタイトルが『スピカ日誌』に変わっていたのだ。

「日誌!? ボク付けた覚えはないんだけど……」
「いえ、これはいわゆる伝記のようなものでして、勝手に記述されていきます。そもそも無名の書とは神の書というだけであって、その内容は様々なんです。もちろん危険な英知を記したものもあれば、次元の狭間に封じ込めた者について書かれたものなどあります。人間種では英雄と呼ばれる人間くらいしか、この手のものを触る機会はないでしょう。ちょっと聞かれても困るので、防音結界でスピカ様と私だけ隔離しますね」
 そう言うとルーナは軽く指を振り、そして一つのページを開いて見せた。

「これはスピカ様の家系図です。許可ある者と神の系譜に連なるものしか見ることはできませんが、スピカ様のルーツが記述されています。こんな風に個人のルーツから行動まで全容が勝手に記載されるのです。ただ、ちょっと見せられない情事なんかは省かれますよ? 伝記であって官能小説ではありませんので」
「なっ、何言ってるんだよ!? というか、ボクの知らない人の名前がある……」
 ルーナに言われて確認してみると、ボクの知らない名前がそこにあった。
 お婆ちゃんのお父さんとかはもちろん知らないけれど、一番近い親族である母方の祖父母については何も知らなかったのだ。

「メルお母さんって、メルヴェイユって名前だったんだ? あっちにいる時はいつもメルだったから知らなかった……。お婆ちゃんの名前がカーリー? お爺ちゃんの名前がカーライル? お母さんの妹はアニエスか。あれ?」
 そう言えば、いつも叔母さんはアニーって呼ばれてたっけ……。

「えぇ、ガーランドというのはカーリー様が昔作っていた国の名前なのです。このフィッツガルド連邦の一国の名前にも付けられていますね。カーライルはそのままカーライル様のお名前で、最後の国の名前はもちろんアニエス様からで、そんなアニエス様は私達の直属の上司でもあります。知りませんでしたか?」
「知らなかった……。えぇ? それって言っていいことなの!?」
「知らないのも無理はありません。メルヴェイユ様はあちらの世界ではメルという名前で住民登録されていますからね。一部の方はすでにご存じですが他には秘密になっていますし。スピカ様とミナ様にだけお伝えするならば問題ないとメルヴェイユ様から許可を頂いております。それと今回の一件についてですが、メルヴェイユ様はプレイヤー達の活躍に期待されているようですよ?」
 ルーナはウィンクのように片目を閉じると、唇に人差し指を当ててそう言った。
 内緒ですよ? ということのようだ。
 そんなこと言われたって困るんだけど!?

「ゲームって……」
「えぇ、ゲーム感覚で問題ありません。何度でも浄化にはトライできますし、皆さまが死ぬことはありません。一応最終手段も用意されていますので、失敗されたとしても大丈夫です。とまぁ、こんなこと言われると素直に楽しめないかもしれませんけど、メルヴェイユ様はこうおっしゃってました。『一生に一回くらい世界を救う冒険の主人公になるのも経験よ? 全力支援はできないし、自力で努力してもらうしかないけれどね』だそうです」
「お母さん……」
 どうやらお母さんは自分の子供たちが戦地に赴いているというのに依怙贔屓はしない方針のようだ。
 とはいえ、たまに何か置いていてくれることを考えると、自力で見つけられたら使っていいよ? ということなのだろうか。

「この世界に巣くった異界の神は妖種にしか倒せませんが、妖種だけの力では不可能なのです。人間種と力を合わせて、その上でこの世界の住人たちの協力を得れば必ず勝てると確信しています」
 お母さんが用意したレールの上を歩くだけだったら、きっとゲームは楽しめないと思う。
 強制的な使命が生まれてしまったわけだけど、アルケニアオンラインが嫌いになったわけじゃない。
 正直、異世界って結構楽しいし……。

「どうにかこうにかやってみるよ。でも、ボクはリアル優先だよ?」
「えぇ、平日は特に見張るようにと申しつけられております」
「ただの監視役じゃないか……」
 ルーナはお母さんの付けたお目付け役だったようだ。
 お母さん最低……。

「そう言わないでくださいませ。そんなわけで存分に楽しんでください。この世界を。浄化して解放していけばできることが増えるのですから。ただ、メルヴェイユ様は仰ってました。『人間種から英雄が出るならそれもいいと思うから、専用装備なんかも作っちゃおうかしら?』と。何に対してかはわかりませんけど、狙ってみるのもいいかもしれませんよ?」
 ルーナは囁くようにボクにそう言うのだった。
 ルーナってば、ちょっとずるくない?
 ルーナの存在自体がただのチートじゃん……。

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