アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。
屋敷での一時
精霊馬車で移動してしばらく、だんだんと見えてきたマタンガの郷。
行きは時間がかかったものの、帰りは奮発したせいか、ものすごく早く着くことができた。
そんなわけでボクたちは屋敷の前に到着、すぐに出迎えてくれたお婆ちゃんと執事のルードヴィヒさんたちと一緒に屋敷の中へと入っていった。
「よう帰って来たのぅ。妾は心配で心配で仕方なかったのじゃ」
さっそくお婆ちゃんが抱き着いてくる。
今回はなぜか小さいサイズになっており、ボクより少しだけ身長が高いくらいといった感じだ。
「お、お婆ちゃん。お風呂入らないと汚れがひどいよ? いったん離れてよ」
ボクは戦いが終わってからそのままの姿なのだ。
つまり今は薄汚れた狐というわけ。
そんなボクを抱きしめたまま、お婆ちゃんは一言こう言った。
「であれば間借りしているものも含め、同性同士で入ればよかろう。十人は入れるほどの大浴場じゃからのぅ。妾もそなたらがいない間にのんびり入っておったが、実に心地よかったぞ?」
ボクたちが戦っている間に、お婆ちゃんはのんびりしていたようだ。
召喚してあげればよかった!!
「クフフ、そう複雑そうな顔をするでない。今回の一件でいろいろ学ぶことがあったじゃろ? あやつのこと、そしてゴディアスのことじゃ。妾がおったらあやつらの痕跡も辿ることはできなかった上に、相手に覚えられるということもなかったじゃろう。それに、これじゃ」
お婆ちゃんがボクのポケットを指さす。
そこには黒い石が入っているはずだ。
インベントリに収納しようとしたものの、なぜか入れることができなかったので、仕方なくポケットにしまっていたものだった。
「これ?」
「そうじゃ。それはマガツの欠片じゃ。陰の力を宿した石で、あやつが力を与える時や操る時にそれを使うのじゃ。じゃが、マガツはマガツでも、あの面倒な女の力を感じるのぅ」
ボクが指に挟んで見せた黒い石。
陰の力を宿したその石は、たしかにマガツと関係していた。
それに、お婆ちゃんの言う「あの女」って……。
「もしかして、大禍津のこと?」
ボクがその名前を口に出すと、お婆ちゃんは一瞬とても怖い顔をした。
ボクは溜息を一つ吐いて、お婆ちゃんに声を掛ける。
「お婆ちゃん?」
「おぉ、すまぬ。あの女の名前が出るとどうものぅ。知っているということは、会ったのじゃな?」
お婆ちゃんは軽く謝罪すると、話を聞いてきた。
「スピカちゃん、私たちは先に荷物置いてくるね」
ボクたちの話が長くなると感じたリーンさんは、みんなを連れて部屋に荷物を置きに行く。
おそらくお風呂の用意もしてくるはずだ。
ボクは簡単に経緯を話していく。
話を聞くうちに、どんどんお婆ちゃんの顔色が悪くなっていくけど、やってしまったものは仕方ない。
「まぁ、大丈夫だったし、アドバイスも貰ったから二度目は余裕持って放つことができたよ」
「そ、そうか。妾のせいで大事な孫が大変なことになるところじゃった……」
「よしよし」
がっくりと肩を落とすお婆ちゃんの頭をボクはなんとなくなでる。
反省するかのようにぺたんと折りたたまれる狐耳と元気がなくなってしまった尻尾が、なでられる度にぴくぴくと動く。
「スピカの妖力は万全な状態で斬神を放つには、まだ足りぬ。じゃが、陰石に傷をつけるくらいは全力でやらなくてもできるのじゃ。妾はスピカにしっかり伝えなかったのじゃ……」
「でも、そのおかげかはわからないけど、大禍津に出会ったのは価値あることだったのかもね」
ボクの言葉に、悔しそうな表情をするお婆ちゃん。
きっとお婆ちゃんと大禍津はライバルなんだろうな。
「そんな顔しないでよ。大禍津もお婆ちゃんを意識しているみたいだったし、二人はケンカ友達なんだな~って、話を聞いてて思ったんだからさ」
「別に、妾とあやつはケンカ友達というわけではないのじゃ。じゃが、なんだかんだで張り合っていた記憶しかないのも確かじゃ」
そんなお婆ちゃんの話を聞いていると、「やっぱり仲良しなんじゃん?」と言いたくなるが、言ってしまうとまたへそを曲げかねないので言わないでおく。
それはそうと、そろそろお風呂に行かないとなぁ。
「そろそろお風呂に行くよ。お婆ちゃんはどうする?」
「妾も行くのじゃ!!」
お風呂という単語が出た瞬間、ばっと立ち上がり行くことを宣言するお婆ちゃん。
ボクはちょっと驚いて目を丸くしてしまう。
「び、びっくりしたぁ……」
「おぉ、すまぬ。孫娘と一緒のお風呂とかどう考えてもご褒美じゃろ?」
怪しい物言いをするものの、一緒に入りたいというお婆ちゃんの意思が、尻尾の振り方から伝わってくる。
それはもう、それだけで掃除ができるほどにブンブン振り回しているのだ。
「かしこまりました。お嬢様の服はこちらで洗濯させていただきます。着替えの服ですが、一般的な服とお嬢様がお持ちになられている装備、どちらになさいますか?」
ルードヴィヒさんがボクにそんな質問を投げかけてくる。
実は、屋敷の中には住人用の一般的な服が用意されているのだ。
最初からあるというわけではなく、最初に採寸された時があり、それから都度見合うものを用意しているようだ。
屋敷の執事に渡す生活資金は厳重に管理され、こういった服の準備などにも使われているらしい。
「う~ん。どっちがいいかな? お婆ちゃん」
「スピカの持ち物に、いわゆる巫女服というものがあったじゃろ? あれなどどうじゃ?」
尻尾をパタパタ振りながら、前のめりでそう提案してくる。
たしかにボクのインベントリには前に貰った巫女服とかそういうのはあるけど。
「えぇ~? 普通の服でいいじゃないかぁ。意味もなく着たくはないというか……」
ボクがそう言うと、可愛らしく頬を膨らませるお婆ちゃん。
年上ではあるものの、女性として確立しているため、その行動には品や可愛らしさが如実に現れている。
中性的な物から女性へと変わったボクには、未だにない魅力だと思う。
ちなみに巫女服一式は、過去にメルヴェイユの街の武蔵国屋敷の宮司さんから貰ったものだ。
白衣(しらぎぬ)に緋袴(ひばかま)、白木の下駄という名前の装備品だ。
そういえば御神体になるものについて終えていなかったっけ。
あれ? もしかして大禍津でクリアできないかな?
「巫女服は着てもいいけど、その代わり教えてほしいな。大禍津をご神体として祀る方法を」
「よいよい、着てくれるというのならば何でも答えよう。大禍津を祀りたいということは、厄除けをしたいということじゃな? 災い転じて福となすはあやつの口癖じゃからのぅ。その石を持ち、念じることで大禍津と繋がることができるじゃろう。その時に現身を何らかの形でもらうとよい。それを奉納し祀れば完了じゃ。どうやらこの世界の社の神も高天原と同じもののようじゃしのぅ」
「お婆ちゃんありがとう! さて、お風呂行こうか」
「うむ!」
有益な情報を教えてもらった見返りとして、あとで巫女服に着替えなければいけないボクだけど、頼まれごとの一つが解決するとあって、気持ちは軽かった。
お風呂に向かうボクの後ろを笑顔のお婆ちゃんと、メイドさんがくっついてくる。
「スピカちゃん、来た」
「うん、コノハちゃんもこれから?」
「そう。お姉ちゃんとかはもう中。早くいこ?」
基本的にコノハちゃんは表情に乏しい子だけど、よく見てみるとその表情には変化がみられるのだ。
今の表情には、嬉しいという感情が現れている。
その証拠に、猫耳がぴこぴこ動き、尻尾がやや激しく振られている。
「同性ではあるものの、もてもてじゃのぅ。妾の孫は愛され系じゃな」
「ちょ、やめてよ」
「愛され系? 愛してるし愛されてるという感じ?」
お婆ちゃんの妙な一言に、コノハちゃんが食いついてしまう。
この後、脱衣所でも同じことを言われ続ける、いじられ系なボクなのだった。
行きは時間がかかったものの、帰りは奮発したせいか、ものすごく早く着くことができた。
そんなわけでボクたちは屋敷の前に到着、すぐに出迎えてくれたお婆ちゃんと執事のルードヴィヒさんたちと一緒に屋敷の中へと入っていった。
「よう帰って来たのぅ。妾は心配で心配で仕方なかったのじゃ」
さっそくお婆ちゃんが抱き着いてくる。
今回はなぜか小さいサイズになっており、ボクより少しだけ身長が高いくらいといった感じだ。
「お、お婆ちゃん。お風呂入らないと汚れがひどいよ? いったん離れてよ」
ボクは戦いが終わってからそのままの姿なのだ。
つまり今は薄汚れた狐というわけ。
そんなボクを抱きしめたまま、お婆ちゃんは一言こう言った。
「であれば間借りしているものも含め、同性同士で入ればよかろう。十人は入れるほどの大浴場じゃからのぅ。妾もそなたらがいない間にのんびり入っておったが、実に心地よかったぞ?」
ボクたちが戦っている間に、お婆ちゃんはのんびりしていたようだ。
召喚してあげればよかった!!
「クフフ、そう複雑そうな顔をするでない。今回の一件でいろいろ学ぶことがあったじゃろ? あやつのこと、そしてゴディアスのことじゃ。妾がおったらあやつらの痕跡も辿ることはできなかった上に、相手に覚えられるということもなかったじゃろう。それに、これじゃ」
お婆ちゃんがボクのポケットを指さす。
そこには黒い石が入っているはずだ。
インベントリに収納しようとしたものの、なぜか入れることができなかったので、仕方なくポケットにしまっていたものだった。
「これ?」
「そうじゃ。それはマガツの欠片じゃ。陰の力を宿した石で、あやつが力を与える時や操る時にそれを使うのじゃ。じゃが、マガツはマガツでも、あの面倒な女の力を感じるのぅ」
ボクが指に挟んで見せた黒い石。
陰の力を宿したその石は、たしかにマガツと関係していた。
それに、お婆ちゃんの言う「あの女」って……。
「もしかして、大禍津のこと?」
ボクがその名前を口に出すと、お婆ちゃんは一瞬とても怖い顔をした。
ボクは溜息を一つ吐いて、お婆ちゃんに声を掛ける。
「お婆ちゃん?」
「おぉ、すまぬ。あの女の名前が出るとどうものぅ。知っているということは、会ったのじゃな?」
お婆ちゃんは軽く謝罪すると、話を聞いてきた。
「スピカちゃん、私たちは先に荷物置いてくるね」
ボクたちの話が長くなると感じたリーンさんは、みんなを連れて部屋に荷物を置きに行く。
おそらくお風呂の用意もしてくるはずだ。
ボクは簡単に経緯を話していく。
話を聞くうちに、どんどんお婆ちゃんの顔色が悪くなっていくけど、やってしまったものは仕方ない。
「まぁ、大丈夫だったし、アドバイスも貰ったから二度目は余裕持って放つことができたよ」
「そ、そうか。妾のせいで大事な孫が大変なことになるところじゃった……」
「よしよし」
がっくりと肩を落とすお婆ちゃんの頭をボクはなんとなくなでる。
反省するかのようにぺたんと折りたたまれる狐耳と元気がなくなってしまった尻尾が、なでられる度にぴくぴくと動く。
「スピカの妖力は万全な状態で斬神を放つには、まだ足りぬ。じゃが、陰石に傷をつけるくらいは全力でやらなくてもできるのじゃ。妾はスピカにしっかり伝えなかったのじゃ……」
「でも、そのおかげかはわからないけど、大禍津に出会ったのは価値あることだったのかもね」
ボクの言葉に、悔しそうな表情をするお婆ちゃん。
きっとお婆ちゃんと大禍津はライバルなんだろうな。
「そんな顔しないでよ。大禍津もお婆ちゃんを意識しているみたいだったし、二人はケンカ友達なんだな~って、話を聞いてて思ったんだからさ」
「別に、妾とあやつはケンカ友達というわけではないのじゃ。じゃが、なんだかんだで張り合っていた記憶しかないのも確かじゃ」
そんなお婆ちゃんの話を聞いていると、「やっぱり仲良しなんじゃん?」と言いたくなるが、言ってしまうとまたへそを曲げかねないので言わないでおく。
それはそうと、そろそろお風呂に行かないとなぁ。
「そろそろお風呂に行くよ。お婆ちゃんはどうする?」
「妾も行くのじゃ!!」
お風呂という単語が出た瞬間、ばっと立ち上がり行くことを宣言するお婆ちゃん。
ボクはちょっと驚いて目を丸くしてしまう。
「び、びっくりしたぁ……」
「おぉ、すまぬ。孫娘と一緒のお風呂とかどう考えてもご褒美じゃろ?」
怪しい物言いをするものの、一緒に入りたいというお婆ちゃんの意思が、尻尾の振り方から伝わってくる。
それはもう、それだけで掃除ができるほどにブンブン振り回しているのだ。
「かしこまりました。お嬢様の服はこちらで洗濯させていただきます。着替えの服ですが、一般的な服とお嬢様がお持ちになられている装備、どちらになさいますか?」
ルードヴィヒさんがボクにそんな質問を投げかけてくる。
実は、屋敷の中には住人用の一般的な服が用意されているのだ。
最初からあるというわけではなく、最初に採寸された時があり、それから都度見合うものを用意しているようだ。
屋敷の執事に渡す生活資金は厳重に管理され、こういった服の準備などにも使われているらしい。
「う~ん。どっちがいいかな? お婆ちゃん」
「スピカの持ち物に、いわゆる巫女服というものがあったじゃろ? あれなどどうじゃ?」
尻尾をパタパタ振りながら、前のめりでそう提案してくる。
たしかにボクのインベントリには前に貰った巫女服とかそういうのはあるけど。
「えぇ~? 普通の服でいいじゃないかぁ。意味もなく着たくはないというか……」
ボクがそう言うと、可愛らしく頬を膨らませるお婆ちゃん。
年上ではあるものの、女性として確立しているため、その行動には品や可愛らしさが如実に現れている。
中性的な物から女性へと変わったボクには、未だにない魅力だと思う。
ちなみに巫女服一式は、過去にメルヴェイユの街の武蔵国屋敷の宮司さんから貰ったものだ。
白衣(しらぎぬ)に緋袴(ひばかま)、白木の下駄という名前の装備品だ。
そういえば御神体になるものについて終えていなかったっけ。
あれ? もしかして大禍津でクリアできないかな?
「巫女服は着てもいいけど、その代わり教えてほしいな。大禍津をご神体として祀る方法を」
「よいよい、着てくれるというのならば何でも答えよう。大禍津を祀りたいということは、厄除けをしたいということじゃな? 災い転じて福となすはあやつの口癖じゃからのぅ。その石を持ち、念じることで大禍津と繋がることができるじゃろう。その時に現身を何らかの形でもらうとよい。それを奉納し祀れば完了じゃ。どうやらこの世界の社の神も高天原と同じもののようじゃしのぅ」
「お婆ちゃんありがとう! さて、お風呂行こうか」
「うむ!」
有益な情報を教えてもらった見返りとして、あとで巫女服に着替えなければいけないボクだけど、頼まれごとの一つが解決するとあって、気持ちは軽かった。
お風呂に向かうボクの後ろを笑顔のお婆ちゃんと、メイドさんがくっついてくる。
「スピカちゃん、来た」
「うん、コノハちゃんもこれから?」
「そう。お姉ちゃんとかはもう中。早くいこ?」
基本的にコノハちゃんは表情に乏しい子だけど、よく見てみるとその表情には変化がみられるのだ。
今の表情には、嬉しいという感情が現れている。
その証拠に、猫耳がぴこぴこ動き、尻尾がやや激しく振られている。
「同性ではあるものの、もてもてじゃのぅ。妾の孫は愛され系じゃな」
「ちょ、やめてよ」
「愛され系? 愛してるし愛されてるという感じ?」
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