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じゃくまる

ゴブリンたちの援軍とボクたちの奇策

 ゴブリンアーミー召喚術師の召喚した手下のゴブリンアーミーは五十以上いるのは確実だろう。
 ボクたちは今までと変わらない戦闘スタイルで、この波に真っ向から対抗した。

「いけぇ!! 押しつぶせ!!」

 前衛重戦士による【シールドバッシュ】と大楯による押し込みに何体ものゴブリンが吹き飛ばされ、そして潰されていく。
 重戦士は武器を持てば強いし、盾だけでも相手を倒すことができる。
 まさに動く要塞だった。
 ただ、自由に動きたいプレイヤーが多いので、役割が限定される重戦士は全体の人気としては低かった。
 それでもレイドには欠かせないし、通常ボス戦やダンジョン探索にはどうしても募集する必要があるため、一定の需要があるのは間違いないだろう。
 そういう人に頼られることが好きな人には向いている職だと思う。
 今回アモスさんはここにいないけど、あの人もそういう頼られるのが好きな人だと思う。

「やっぱりアモスも欲しいよなぁ。連絡は入れておいたんだけど、時間が出来次第来るって返事しか貰ってないんだよな」

 アーク兄は魔術で支援攻撃を行いながらアモスさんとのメッセージの履歴を見せてくれた。
 外部ツールとの連動でゲームにログインしていなくてもチャットに参加できるシステムがあるのは便利だと思う。
 そのおかげでテキストベースではあるものの、話が出来るのだ。
 問題点は端末を見なければいけないということだろうか……。
 視界の端に映るでもいいんだろうけど、そっちに集中しすぎて事故が起きそうで怖い。

「アモスさんは何をしてるの?」

「ん~、娘とデート」

「なるほど。それじゃすぐ帰ってこれないかもね」

「いや、まだ幼稚園児らしいし案外すぐ帰ってこれるかもしれないな。おっと、戦況が動きそうだ」

 ボクたちはレイド戦三回目ということもあり、後方からの支援には慣れ始めていた。
 おかげでだいぶ余裕を持って動くことが出来ている。

「おのれ、役立たずの下僕どもめ! 配下の召喚術師どものせいでもはや数は無意味か!! ならば……」

 今回のゴブリンアーミー召喚術師は良くしゃべる。
 むしろ今までの召喚術師はここまで流暢な言葉を話すことはなかった。
 
「『開け門よ、そしてかの地より援軍よ来たれ』」

 杖を掲げた召喚術師は、今までしなかった詠唱をここにきて唱え始める。
 杖を振るだけでは呼び出せない何かを呼ぶのか?

「ハッハッー、ゴブリンども、我らが来なければ敵も倒せぬか?」

 浅黒い肌の大男、エルフより短めの尖った耳、体に描かれた文様、髪の生えてない綺麗なスキンヘッド。
 筋骨隆々なその男は、どう見てもハイオークであった。

「ゴディアス様に頂いた召喚の力は素晴らしいものでございます。ですが、思ったよりも我が下僕どもが弱く事態を打開することができません。お力をお貸しいただければと思います」

「よかろう。その可能性について我らが将軍は言及されておられた。ここを潰すことで人間共の最後の砦に侵攻することができるようになるからな。力を貸そう」

「おるわおるわ、ゴミ共が。何ゆえ輸送隊長殿がやられたかはわからぬが、あの方も酔狂な方だからのぅ。手抜かりがあったに違いない」

 現れたハイオークは全部で二十人。
 そのすべてが重厚な鎧と戦斧、ハンマーなどを装備しており、ゴブリンアーミーなどと比べても圧倒的に戦力が高そうだった。

「石の力を再度使えるようになるにはどのくらいかかるか?」

「はっ、数えで1800ほどかと」

「随分時間がかかるようだのぅ? 一度限界まで使ったか?」

「はい、【ダークライトニング】を使用しました。威力はさすがというほかありませんな」

「理解した。ならば我らは時間を稼ごう。行くぞ!!」

 先頭のハイオークがそう言うと、一斉にハイオーク達が飛び出してきた。

「ハイオークだ! 前衛注意しろ! 神官は急いで回復援護にまわれ!!」

 ガンッと大きな金属のぶつかり合う音が辺りに響く。
 何人かの重戦士たちが押し戻され、耐えきれずに膝をつく人も出た。
 さすがはハイオーク、その攻撃力は人間種よりも圧倒的に高い。

「ちぃっ、吹き飛ばずに耐えるとは。異世界人とはかくも厄介なものか!」

「シャーマン、援護を!」

「【力の炎】」

「ふはは、これで我らの攻撃力も上がったわ。今度は吹き飛ばしてくれる! さぁゆくぞ!!」

 ハイオークシャーマンの魔術を受け、ハイオーク戦士たちの体が少し大きくなったように見える。
 どうやら攻撃力が上がったようだ。
 こちらの前衛はまだ攻撃をしのいでいる最中だというのに、相手はさらに強化されてしまう。
 このままではいけない……。

「アーク兄、このままじゃまずくない?」

「あぁ、戦力が圧倒的に不足している。なんとか数を減らしたいが、召喚術師もいる以上、減っても補充されるかもしれない。だから、とりあえずまずは、強化を担当しているシャーマンを狙う。奴らを倒して前衛の戦力を下げよう。幸いこっちには神官の数のいるし、復帰待ちの仲間もいる。新しいのがどんどん来なければ前衛が押し返してくれるはずだ」

「アーク君、わかったわ」

「アーク兄、了解だよ」

「了解」

 後衛にいるのは、ボクとリーンさん、そしてコノハちゃんだ。
 マイアは回復支援に向かっているし、カレンさんは前衛に加わっている。
 エレクトラとケラエノは重度の負傷で現在治療中だ。

「なら私にも任せるにゃ。私は実は術師には強いんだにゃ」

 ひっそりと側にいた盗賊の音緒。
 盗賊たちは遊撃はできても主力にはなれないため、積極的に攻撃には参加していない。
 ただ、デバフや持続ダメージを与えるのには適しているため、トリッキーな戦い方で全体を補助している。

「ふっふっふっ、吹き矢にゃ。沈黙毒をぬりぬり。にゃふふ」

 楽しそうに吹き矢の先端に毒を塗る音緒。
 この猫怖い……。

「いいかにゃ? シャーマンたちは全部で五人にゃ。前衛は十五人にゃ。相手に回復がいるかはさておいて、シャーマンさえ潰せればどうにかなると思わないかにゃ? それじゃみんな、私に触れるにゃ【ハインディング】」

 音緒の言葉を聞き、みんなで音緒に触れる。
 音緒がスキルを使うと、一瞬にして周囲の音が消えてしまった。

「放しちゃだめにゃ。触れ続けることで相手から見えなくなる仕掛けにゃ。普通の状態でこれが見えるのはダンジョンボスくらいで、あのレイドくらいならスキル使わない限り、ばっちし見えないにゃ」

 音緒の言葉通り、ボクたちは音緒に触れ続ける。
 音緒はゆっくりと、でも確実に敵陣をすり抜け、後方へと進んでいく。
 前衛は重戦士との戦いの為に飛び込んでいったようで、召喚術師付近にはシャーマンくらいしかいなかった。

「いいかにゃ? 後ろから吹き矢で攻撃するにゃ。沈黙毒はボスには効果時間が短いけど、ノーマルな敵には十分長く効くにゃ。ボスには五秒から十秒、それ以外は二十秒くらい続くにゃ」

 音緒は案外やり込んでいるらしく、レベルの割には色々と効果を知っていた。
 たぶんやり込んでたら楽しくなっちゃって、レベル上げよりも研究がメインになってしまったんだろう。

「にしても、召喚術師、座り込んで目を瞑ったまま動かないね?」

 ボクたちはそっと召喚術師たちの後方へと回る。
 召喚術師は黒い石の前で座り込み、瞑想しているようだった。
 そういえば、石の力がどうとか言っていたような。
 
「召喚術師の前にある石、召喚術師と魔力線が繋がっている。どうやら回復させているようだぞ」

「でも、変換効率悪そうね? 力の質が違うのかしら」

「えっ? 何その情報! どうやって知ったの!?」

「え? 当然だろ? 魔術師だぞ?」

「アーク君、それじゃわからないよ。魔術師は魔力の流れを見ることが出来るの。道士には道士の特殊な力があるようにね?」

「へぇ~!! すごい!! あわわ」

「ところでこれ、声漏れないのか?」

「大丈夫にゃ。見えない限り聞こえないにゃ。まぁこっちも聞こえないから対策されてても分からないんだけどにゃ」

 ボクは思わず驚いて声を上げてしまったけど、どうやら問題ないらしい。
 便利なのか不便なのかわからないスキルだよね。
【ハインディング】って。

「それじゃあ、準備するにゃ。コノハにゃんは麻痺毒を矢じりに塗ると良いにゃ」

「ありがと」

「猫同士仲良くするにゃ。狩りは猫の両分にゃ」

「うん」

 音緒がボクの方を向いて笑顔でコノハちゃんにそう言っていた。
 お願いだからこっち見ないで!
 ボクは尻尾がしぼんでいくのを感じていた。

「準備完了」

「もういいわよ」

「完了」

「ボクは特に出来ることないけど、属性だけは用意しておこうかな」

「スピカにゃんはあとでもいいにゃ。どうせ攻撃がメインになるからにゃ。それじゃ、行くにゃ」

 音緒の合図とともに、ボクたちはひっそりと【ハインディング】を解除した。
 瞬間、周りの音が聞こえ始める。

「よーく狙って、ここにゃ」

 小声でそう言いながら吹き矢を飛ばす音緒。
 その先には無防備にも背中を晒していたハイオークシャーマンたちの姿があった。

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