アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。
第2章 第28話 妖種コミュニティと屋敷のサロン
新たな活動拠点として提供された小さな洋館。
なんだか恵まれているけど、何で提供してもらえたのか不思議で仕方ない。
「でも、本来は購入するんですよね?」
「えぇ、本来はそうなります。ですが、絆の要塞を解放する手がかりを貴女方は手に入れてくださいました。ですのでこの程度惜しくはないのです。あとは絆の要塞を占拠したハイオークの将軍ゴディアスを倒すのみです。バラカスなどとは比べ物にならないほどの強敵ですので十分ご注意を」
ゴルドさんにそう尋ねると、嬉しそうに理由を話してくれた。
そして同時に、目標の一つであるゴディアス討伐について注意を促す。
どうやらバラカスに苦戦したボク達だけでは厳しい戦いになりそうだ。
「みんなの力を合わせないとだめそうだね。何人かは知り合いになったけど、それくらいじゃ全然足りないよね」
前回のバラカス討伐戦においては、百人単位での戦闘となった。
ハイオークは単体でも脅威で、プレイヤーが五人一組になってようやく倒せるほどだった。
それでも負傷者は出ており、完全勝利とはいかなかったのだ。
「う~ん。そういえば、『妖種コミュニティ』とかいうのがあるそうだよ? 見てみてもいいんじゃない?」
「ちらっと聞いただけなんですけど、『人間お断り』のコミュニティという話らしいですよ?」
エレクトラとケラエノが各々説明してくれた。
ちなみにボクはそんな話は聞いてないので、初耳だったりする。
「ボクだけ知らないのはショック……」
「スピカはしょうがないよ。そこまで社交的ってわけでも情報収集が得意ってわけでもないでしょ? そういうのはあたしら烏天狗にお任せってね!」
「適材適所、大事なのはお互いの仕事を全うすることです。それにコミュニティの発案者は烏天狗と聞いています」
二人はボクを慰めつつ、集めた情報を展開してくれた。
あとは開催場所だけど、ここの世界なのか掲示板なのかによる。
「場所って聞いてる?」
「場所なら、武蔵国のお屋敷のあるお社の中だそうです。ちょうど広めに作ってあるらしくて、弁慶さんに尋ねたら使用していいと言っていたとか」
「神様を祀る社だけど、祭事にも使ってるらしいからね。あたしらも借りられたら借りたいところだよ」
「みんなお社は遊び場じゃないんだよ。まったく……」
どうやら弁慶さんの屋敷の敷地内のお社が開催場所のようだ。
どうせだから、妖種の力を借りて戦いに挑む方がいいだろう。
「どんな妖種が集まりそうなの?」
「ええっと、多種族な烏天狗と鬼人族、妖狐族、猫又族は比較的多いです。実体のない子もいますけど、そういう子達はそもそもゲームできません。骨女さんとかぬらりひょんさんはほぼ単体種族なので、もし来れたとしても世界に一つだけの特別種族になりますね。人間界に興味ないのは海坊主さんとかでしょうか。河童さん達はそもそも長時間のゲームに向いてませんし、黒坊主さんとかはそもそもゲームできません。あとは青坊主さんくらいでしょうけど、特別種族になりそうですね。ええっと、まともにゲームできる妖種少なくないですか?」
「ボクに聞かれても困るけど、青坊主さんの一族は見たことあるけど、案外子だくさんだった気がするよ? まぁ、違和感ないのは狐猫烏鬼かぁ。構成的に強そうなメンツではあるよね」
妖種というのもなかなか困ったもので、人に混じって過ごすには人型で人間に近いほうが楽なんだけど、一部の妖種はどうやっても人間には見えない。
黒坊主さんとかは普通に夜道で出会うと、ホラーもいいところだしね……。
「まぁとりあえず一回行ってみないとですね。あっ、雪女の愛良(あいら)ちゃんがやるって言ってたっけ……。ということは雪女さんも居そうですね」
すっかり忘れていたけど、雪女の子も確かにいた。
なるほど、盲点だった。
「そもそも種族が選択出来てるか不明だけどね」
「その辺りは大丈夫なようだよ? 雪女に関しては分からないけど、一応猫も鬼もいたからさ」
「猫又と猫獣人の違いが尻尾くらいしかないですから、ほとんどわかりませんけどね」
猫又は気配を隠すのが上手いだけでなく、正体を隠すのも上手かったりする。
どうやらその特性はゲーム内でも再現されているようだ。
ということは適性職は盗賊とかそういう感じなのだろう。
「猫かぁ。猫といえば凛音かなぁ……」
「あ~。凛音かぁ」
「いっつもひどい目に遭わされてますよね」
「なになに? 凛音ちゃんの話!?」
猫という言葉で、ボクは一人の幼馴染を思い出した。
猫又の凛音、ショートボブの可愛らしい女の子なのだがいたずら好きで物を隠すのが上手かったりする。
少し大きめで好奇心旺盛そうな青い瞳、クリーム色の髪の毛をした小柄な女の子だ。
マスコットとして扱われるほか、男女分け隔てなく明るく接しているのでファンも多い。
当然男子にも人気で、何回か人間、妖種問わず告白されている。
ちなみに全部断ってるので、難攻不落の猫とすら言われている。
なお、マイアと凛音は仲が良く、マイア必殺の猫撫でスキルと猫じゃらしスキルに常に敗北している。
ボクは何回か尻尾を噛まれたけどね!!
「お姉ちゃんの場合尻尾をモフモフさせ過ぎだからじゃないかな? 猫じゃらしよりも興味引いてるよそれ」
そう言うと、ボクの尻尾を指さす。
ボクの尻尾に何の問題があるというんだ!
「こほん、お嬢様方。玄関先でのご歓談も大変結構なのですが、サロンでお寛ぎいただき、そこで続きをなさってはいかがでしょうか? さっそくお茶とお菓子を用意させますので」
執事のルードヴィヒさんがそう提案してきた。
若干申し訳なさそうに提案されたけど、悪いのはボク達だ。
「ありがとうございます、ルードヴィヒさん。みんなもいいよね?」
「うん、もちろん」
「サロン、どんな風になっているのか気になります」
「ねー、サロンってなに? お姉ちゃん」
ルードヴィヒさんの後に続いて歩き出すエレクトラ達。
マイアはボクの袖を引っ張り小首を傾げながら問いかけてきた。
「応接室とか談話室かな? リビングとはまた違った場所だよ」
ちなみにボク達の家にはないけど、エレクトラ達の家にはサロンが存在している。
主に社交場として活用されたり、商談の場として活用されているようだ。
「ふぅん。物知りなんだね。ちょっと尊敬」
マイアは嬉しそうにニコニコしている。
どうやら好感度が上がったらしい。
「凛音がゲームやったらボクまた追いかけられるのかなぁ……」
みんなの話に出てきた凛音はゲームも大好きで、ボクにもそういった話をよくしてきていた。
そんな凛音が新しいゲームに興味を引かれないはずがないのだ。
「凛音ちゃん来たら一緒に遊びたいなぁ」
「ボクは嫌だよ? また噛まれるし」
「モフモフなのが悪いんだよ。ううん、悪くないか。このモフモフめ!」
「こら、尻尾叩くな! もう!」
ボク達は冗談を言い合いながらみんなの後を追いかけた。
「こーら、玄関先で姉妹でいちゃついてないの。見てよこのサロン。すっごく素敵!」
目を輝かせてそう言うエレクトラはなんだか新鮮だ。
いつも変なところばかり見ているけど、アンティーク調に設えられたサロンは、まるで等身大のドールハウスか何かのようだった。
「アンティーク調って、ボクはドールハウスくらいしか見たことないんだよね。マイアが持ってるやつだけどね」
「あぁ、確かに! お母さんちょっと高かったって言ってたっけ」
マイアの持っているドールハウスはフランスで作られたもので、結構本格的だったりする。
もちろん、ボクは持ってない。
性別決まっていない時期に持ってたら変でしょ?
「あたしの家のサロンは洋風とは言っても、和洋折衷なのよねぇ」
「家自体が明治時期に建てた屋敷を改装したものですからね。名残は残るでしょう」
烏丸家のサロンはこことは違うらしい。
あるのは知っているけど、実際には見たことないんだよね。
行くと大体商談とかしていたりするから近づけなかったし。
「なんかお嬢様になった気分だよね!」
「お嬢様でしょ?」
「お嬢様じゃん」
「お嬢様に見えないお嬢様がエレクトラちゃん」
エレクトラの発言にケラエノ、ボク、マイアの順でツッコんでいく。
エレクトラは自分がお嬢様だという自覚が薄いようだった。
「それでは、今後のご相談なのですが……」
ボク達の話が終わったタイミングで、ゴルドさんが真剣な表情で話し始めた。
どうやら一筋縄ではいかないことがありそうだ。
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