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じゃくまる

第16話 要領のいい子と悪い子、無益な争いは損失しか生まない

 友達との狩りは楽しいけれど、自分が先輩だからって偉ぶってはいけない。
 これは、ボクが得た教訓の一つだ。

「ふぅ。マタンガもちょこちょこ狩れるようになってきたし、美影達もレベルが上がり始めたし、良いことばっかりだね」
 最初は油断していてへまをしたものの、ボク達は思いのほか順調に狩りが出来るようになっていた。
 何といっても、瑞樹が補助し美影が斬り込みボクが援護する。
 この連携が素晴らしく上手くいくのだ。
 仲が良い友達ということもあるし、良く知った幼馴染ということもあるせいか、色んなことが噛み合う感じがしてとても楽しい。

「ふふん、どうかな? ボクの援護は! 素晴らしいでしょ?」
 ちょっとだけ調子に乗ったボクは、美影達に薄い胸を張りながらそう言ったのだ。

「ちょっとスピカ! 後ろ後ろ!」
「ほえ?」
 それを見た美影はボクの後ろを指さしながら必死に何かをアピールしていた。
 ボクは訳も分からず振り向く――。

「へぶっ」
 直後振り向き切る前に背中にものすごい衝撃が走った。
 ボクはきれいに顔面から地面につっこむことになった。

「スピカ、大丈夫? 癒しの光あれ【治癒光】」
 慌てて駆け寄って来た瑞樹が治癒光で癒してくれる。

「えっ!? なになに!?」
「てぇい」
 ボクは回復されながら、自分の身に起きた事態を把握しようとした。
 すると、美影がその原因を刀で切り伏せた。

「もう、すぐ油断するんだから。小さいマタンガが縦回転しながらスピカの背中に突っ込んできたときはさすがに驚いたよ」
 何やらものすごいアクロバティックな動きをするマタンガがいたようだ。
 それがなぜボクの背中に突っ込んでくるんだよ……。

「もしかしてキノコに嫌われてるのかな? 確かにキノコは好きじゃないけどさ」
 お父さん達は美味しい美味しいというけど、ボクからすると味が薄いんだよね。
 まさか、マタンガ達はボクがキノコ嫌いだから狙ってくるんじゃないだろうね?

「いや、違うと思うよ? スピカはさっきから、進行方向でわざわざこっちを振り返ってふんぞり返ってるじゃない? まだマタンガ達がたくさんいるのに、隙見せてばかりいるからだよ」
「ぐぬぬ」
 美影の言うことはもっともかもしれない。
 ちょっと自分の援護が上手いからって、調子に乗ってふんぞり返った結果がこれだ。
 とはいえ、アーク兄達と一緒の時は活躍の場が少ないんだから、たまには威張りたい!

「胸を張って威張るのはいいんだけど、せめて安全な場所でやろうよ」
 美影が困ったようにそう言う。
 まさか美影に心配される日が来るなんて……。

「そう言う美影も、私といるときは威張ってること多いよね? お姉ちゃんなんだから! ってセリフも多いと思うけど」
 場所こそ安全だろうけど、やってることはボクと変わらなかったようだ。
 安心したよ、美影。
 それでこそボクの友達だ。

「それは言わない約束でしょ! スピカの前でお姉ちゃんを貶めるのはいけないと思うなぁ?」
 すでに他称妹に敗北している自称姉。
 もう瑞樹がお姉ちゃんでいいんじゃないかな?

「やっぱりさ、瑞樹がお姉ちゃんなんじゃないの? 美影は妹のほうがしっくりくるんだけど」
「なんですと!?」
 ボクの一言に、美影が激しく反応した。
 どうやら美影の逆鱗に触れたようだ。

「言って良いことと悪いことがあることをわからせてあげようかなぁ?」
「ふぅん。そんなこと言って、いっつも負けてるのは美影の方じゃないか」
「あたしは手加減してあげてるの! ほら、あたしってお姉ちゃんでしょ?」
「へ~んだ。お姉ちゃんらしさを見たこと一度もないんですけど? 負けるたびに歯ぎしりしてたのはどこの誰でしたっけね~?」
「よろしい、ならば決着を付けようか。負けた方が一日言うことを聞くでどう?」
「望むところだよ、あとで言い訳考えておきなよ?」
「はぁ……。どっちもどっちね。分かりました。私も参戦しましょう」
 何故か安全地帯じゃない森の中でいがみ合うボク達。
 だけど、一回火が付いたボク達は冷静ではなかったのでそんなことは気にしなかった。

「それじゃ、マタンガを五体先に倒した方が勝ちってことで!」
「いいけど、分散するのはなしだからね!」
「そんな危ないことするわけないでしょ? 純粋に攻撃しあって止めを刺したものがポイントゲットだよ」
「は~い、それじゃ始めますよ。よーいすたーと」
 瑞樹の合図でボク達は目に付くマタンガを攻撃し始めた。

「よっと、とりゃ!」
 美影が小さいマタンガ一体を一刀のもとに切り伏せた。
 あれ? 案外強くなってない?

「ぐぬぬ、負けてられないよね。そりゃっ」
 こっちに向かってきていた小さいマタンガに攻撃を仕掛ける。
 しかし、マタンガは身軽なようでボクの攻撃をあっさりとかわしてしまう。

「ちょっと、ちょこまかしないでよ!」
 マタンガに向かってそう叫ぶが、話が通じるわけもなくマタンガはどんどん攻撃を回避していく。

「な~んであたんないのさー! もう、分かったよ。【人化解除】」
 今は昼間なので能力値のアップはほとんどない。
 それでも負けたくない為、ボクは本来の姿である妖狐の姿になることにした。
 これで基礎能力に10%ほどボーナスが付くのだからやらない理由はない。
 でも、普段はこの姿見られたくないから人化してるんだけどね。

「ふふん、ドヤァ!」
 ボクは恥ずかしげもなく口に出してそう言うと、ちょこまか回避していた小さいマタンガに攻撃を当てることに成功する。

「身体が軽いからさっきより当てやすいなぁ。やっぱり戦闘時はこっちのほうがいいかな」
 ボクはさっそく二体目を探すことにした。

「えい! 【水弾】」
 少し離れた場所で瑞樹が水の弾丸を作り出し、小さめのマタンガ二体を駆逐していた。
 瑞樹つよっ!

「はぁっ!」
 美影が大きめのマタンガと対峙している。
 美影の一撃は段々と鋭くなっていく。
 ボクから見ても剣術が上達しているのがよくわかる。

「負けてられないよね。みっけ! お覚悟っ!!」
 美影の動きは段々と洗練されていき、美しさも感じられるようになっていく。
 そんな美影にボクはちょっとだけ嫉妬を覚え、近くにいたマタンガに向かってそのもやもやした気持ちを発散した。

 ボクの移動が思ったよりも速かったのか、逃げる間もなく両断される小さいマタンガ。
 これでやっと二体目だ。

「おおっしゃー!! 大きいの倒したああああ!!」
 美影のいた方向から大きな声が聞こえた。
 そちらの方向を見ると、一メートルほどの大きなマタンガを美影が一人で倒していた。
 えっ、何であんなの倒せるの!?

「美影、刀との相性いいね。術適性は低いのに」
 その様子を見ていた瑞樹がそのようにコメントした。

「やっぱりね、刀だな~! って思ってたんだよね。うんうん。サイコー!!」
 とても嬉しそうな美影に、ボクは思わずほっこりした気持ちになる。
 つまらないこと言って突っかかったのは大人げなかったかな。
 ボクは少し反省した。

「おめでとう、美影!」
「あっ、ありがとう、スピカ!!」
 大物狩りに成功した初心者の美影を、ボクは精いっぱい祝福した。
 感極まった美影は、ボクに駆け寄ってくるとそのまま抱き着いてきた。

「ちょっと! いきなりは恥ずかしいでしょ!?」
「あはは、ごめんごめん。う~ん、スピカいい匂い」
 美影と比べても小さめなボクは、美影に抱き着かれると逃げだす方法がない。
 それを知ってか知らずか、美影はボクの頭に顔を押し付けてきて匂いを嗅ぎ始めたのだ。

「はぁはぁ、おいしそうな匂い」
 だんだん怪しい言動をし始める美影。
 ちょっとやばそうな雰囲気だ……。

「ちょっ、もういいでしょ!? そろそろ離して?」
「だ~め」
 なおも離そうとしない美影とじたばたするボク。
 それを見かねたのか、瑞樹が近寄ってきて美影の頭を叩く。

「いい加減にしなさい!」
 ちょっと怒気を孕んだ瑞樹の声に、美影がびくりとする。

「あっ、ごめ」
 お怒りの瑞樹と小さくなって土下座する美影。
 姉と妹といった光景だが、妹と姉なのだというのだから皮肉なものだ。

「嫌がってるのに無理矢理しない! 分かったら謝ること!」
「どうもごめんなさい」
 ビシッとボクの方を指さし、謝るように促す瑞樹。
 美影は土下座をしたまま、深々と僕に頭を下げて謝った。

「あはは……。うん、大丈夫だから」
 その光景に、ボクは苦笑するしかなかった。

「もう勝負なんてどうでもよくなったね。十分狩れたし、戻ろうか?」
「そうだね~。あたしも疲れちゃった。三体狩れたけど、大物倒すだけでだいぶ消耗しちゃったからなぁ」
「そうなんだ? でもすごいね。ボクはまだ二体だよ。悔しいなぁ……」
 ボクと美影は街へと戻りながらそんな話をしていた。
 ところが、瑞樹だけはずっと黙ったままだった。

「瑞樹はどうだったの?」
「そうそう、無理しない程度でいいからさ。どのくらい狩れたの?」
 ボクと美影は瑞樹にそう尋ねる。
 瑞樹は、一度ぴたりと止まると、おもむろに口を開いた。

「えっと……。空気読めないとか言わないでね?」
 瑞樹が恐る恐るそう言う。
 そして――。

「七体」
「…………」
「…………」
 瑞樹の言葉に、ボクも美影も絶句してしまった。
 必死に頑張って競い合ってる中、瑞樹だけは淡々と狩りをこなしていたようだった。

「そういえば、瑞樹ってすごく要領よかったよね……」
「そうだね。知らない間に一位とか普通だったし」
 ボクと美影はお互いにそんな感想を口にし、以降、街に着くまで話すことはなかった。

「うぅ、ごめんなさあああい」
 少し後ろから、瑞樹のそんな声が聞こえた気がしたが、ボクも美影も空しい気持ちでいっぱいだった。

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