アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。

じゃくまる

第2章 第4話 お店開店。いらっしゃいませ、お席へどうぞ


 お昼ご飯を食べたボク達は、さっそく屋台の開店準備に取り掛かった。
 まずは席を並べて、机を拭いて掃除して――。

「席数あまりないんだね? でもボク達だけだからこの数も捌けるか怪しいけど」
 席は十席ほどが用意されている。
 まぁ、そもそもボク達の屋台に誰かがやってくることの方が珍しいだろう。

「木のコップは準備OKで、お皿も大丈夫。食器類は木製ばかりだね」
 メルヴェイユだけというわけではなさそうだが、主流な食器の材質は木製のようだ。

「木製品も趣があっていいよね? お姉ちゃん。それにこれ、漆?」
 用意された食器にはいくつか赤漆や黒漆の物が混ざっている。
 確か、同じような物を弁慶さんの所で見たような……。

「お、気が付いたか? 武蔵国からこっちに来ている弁慶さんの所で売られている漆器なんだ。この世界で見られるとは思わなくてね、ちょっと特別なものに使おうかと思ってたんだよ」
 漆器の数は多くないが、席の数だけはあるように見える。
 お椀タイプなので、お吸い物やみそ汁などを入れるのかな?

「日本でおなじみの調味料は弁慶さんの所にあったから、譲ってもらったんだよ。何やらスピカのことを気にしてたぞ?」
 アーク兄は色んな調味料を買い集めていたようだ。
 弁慶さんの所に味噌や醤油が置いてあるのは知らなかったけどね。

「弁慶さん達にはお世話になったから。最初にスキルを教えてもらいに行ってから、色々とお手伝いしたりしてね?
 あっ、今度祭事の手伝い頼まれてるんだった」
 弁慶さん達はボクが天狐であることを知っている。
 そのせいか、次回の祭事の時に、ボクに巫女をやってほしいと要請してきたのだ。
 巫女服とか、着たことないんだけど大丈夫かな……。

「あの人は怖い人かと思ったけど、すごく優しい人だったな。驚いたよ。おっと、そろそろ開店しなきゃ」
 アーク兄はそう言うと、すぐに木札を営業中のものに取り換えた。

「さ~て、最初の人が来るまでは待機だな」
 こうして、フェスティバルでボク達は初めて屋台出店をしたのだった。


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「スピカ、野菜炒めあがったよ!」
「はい、今すぐ!」
「マイア、焼き魚定食あがったよ!」
「はっ、はい!」
 あれから一時間ほどして初めての来客があった。
 そのお客さんは弁慶さん達だった。

「はっはっはっ、これは美味しい! アーク殿は腕がいい!」
 弁慶さんは野菜炒めを食べ、焼き魚定食を食べ、唐揚げを食べていた。
 大柄なせいかよく食べるのだ。

「山彦、この椀は我らの漆器か! 吸い物がより一層美味しく感じられるのぅ!」
「左門、お前は顔もでかいが声もでかい。周りの迷惑を考えたらどうだ。しかし、この焼き魚はうまいな」
 弁慶さん達が食べている野菜や魚、お肉はすべて市場で用意したものだ。
 実はメルヴェイユの街は海からそう遠くないので、比較的鮮度のいい魚介類も手に入れることが出来る。
 特に、一部のプレイヤーがそれに目を付け、インベントリ運搬法を開発したため、お刺身ですらいける鮮度の良さを実現したのだ。

「ほほう、刺身か! 久しく見たのぅ。しかし、こういう場所で食べるにはいささか度胸がいるというもの……」
 弁慶さんは躊躇いながらも、一口ゆっくりと口にする。

「ぬおっ!? なんだこの刺身は! 口に入れた瞬間溶けるように消えたぞ! 上手い。そして何より鮮度も良ければ腕もいい……。アーク殿、お主は一体……」
 弁慶さんはトロサーモンに似た魚を食べて驚いている。
 これにはボクもびっくりだ。

「ねぇ、アーク兄、あのお魚、どこから?」
 ボクはこっそりアーク兄に尋ねる。

「あぁ、釣り好きが高じて漁師の職業とスキルを得たプレイヤーがいてな。彼らが沖合で取って来たそうなんだ。海の方は汚染されていないようで、魚が上手いと言ってたから頼んでみたんだよ。そしたらこれが来たんだ」
 このゲームは比較的何でも出来るというのが売りのゲームだ。
 だからといって、ゲーム内で漁をするだろうか?
 本当に住むつもりなんじゃ……。

「料理については父さんが教えてくれたからね。長く生きてるだけあってあの人は何でも知ってるよなぁ」
 実はアーク兄の料理技術はお父さん直伝だ。
 何でも昔、料理を覚えるために板前のようなこともやっていたそうだ。
 ちなみに、表向きは40歳となっている。
 このあたりはすべてのプロフィールにそのように記載されているので、ボクも本当の年齢は知らされていない。

「絶対お父さん、年齢嘘ついてるよね」
「それは確実だと思うよ、お姉ちゃん」
 ボクはマイアとそんなことを話していた。

「おーい、注文いいかー?」
「あっ、は~い! いらっしゃいませ~」
 席数は少ないものの、徐々に埋まり始めていた。

「さて、妾も手伝うかのぅ」
 お婆ちゃんはそう言うと、厨房の方へと向かって行く。

「アークや、この辺りは受け持つゆえそっちを頼むのじゃ」
「了解、それじゃあすぐに」
 お婆ちゃんは接客をするのかと思いきや、調理の方へと回っていった。
 どうやら調理するのがアーク兄だけだから心配になったようだ。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「いらっしゃいませ! お席へどうぞ」
「「おかわり!!」」
「は~い、ただいま」
 少ない席はいつの間にか埋まり、外には待ちの列が出来始めていた。
 どうやらどこかで噂を聞き付けたようだ。

「料理あがったよ!」
「はい!」
 ボク達はしばらく忙しく駆け回りながら、注文を聞き、配膳を行い、会計を済ませ、清掃をし、行列待ちの人には差し入れをするのだった。
 ものすっごく忙しいけど、楽しいかもしれない。
 ボクはそんなことを考えていた。

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