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じゃくまる

第42話 ハイオーク村の戦後処理と残された痕跡

 
 バラカスは灰となり、20人のハイオーク反乱軍も鎮圧された。
 残念ながら全員戦死したようで、その遺体は灰となって消えてしまった。

「何で灰になるのかな?」
 灰となって消えていく死体を見つめながら、ボクはそんなことを考えていた。

「さてのぅ。じゃが、ほかのハイオーク達はそのようなことはないようじゃぞ? 見よ、墓があるじゃろ?」
 お婆ちゃんが指さす先、村の中には大きな墓のようなものが存在していた。

「あれがお墓? 村の中央にあるモニュメントかと思ったよ」
 ちょうど村のど真ん中に大きな彫像が置いてあるのだ。
 その周りには花がたくさん植えられている。

「ハイオークにはのぅ、死者に花を供えるという文化があるのじゃ。墓石などなく、花を一輪添えるのじゃ。あの彫像はハイオーク達の間で信仰されている、死後の世界の王じゃ」
 その彫像はハイオークと変わらない厳めしい顔をしている。
 鍾馗様に近い顔つきと言えばわかるだろうか。
 そんなような顔をしているのだ。

「魔除けの意味も込められておる。あれが守り神なのじゃ。生きる者と死後の世界へと旅立つ者のな」
 ハイオークの文化は重厚な石造りの建物が多く、マヤ文明やアステカ文明のような雰囲気を感じることが出来た。
 図鑑でしか見たことはないけれど、きっと現地もそんな雰囲気なのだろう。

「森の中の石造りの文明かぁ。雰囲気あるなぁ」
 ボクの横に来たアーク兄はそんな感想を口にした。

「アモスさんは?」
 アーク兄はさっきまでアモスさんと話していたはずだった。

「あぁ、リーダーを務めたとかで村長と話に行ったよ。ケイアン君だっけ? 彼を連れてね」
 ケイアン君もなんだかんだで逃げずに頑張って耐えたと思う。
 やっぱりハイオークって強いんだなぁ。

「それにしてもだ。バラカスは確かに強かったけど、手応えがなさすぎなかったか?」
 たしかに、アーク兄の言う通りかもしれない。
 一撃一撃は重く、アモスさんとの打ち合いは壮絶だったと思う。
 でも、いくら金属類を火で熔かしたからといっても、あっさりと倒されるとは思わなかった。

「何か原因があるのかな?」
 そんな原因に心当たりはない。
 ただ、想像以上に火の強化術が強かったとも考えられる。

「これ、賢人や。そなた、随分軽薄そうになりおって」
「げげ、お婆様」
 アーク兄はお婆ちゃんが苦手なようだ。
 ボクは小さかったからほとんど覚えてないけどね。

「まったく、少しは成長したかと思えば。そなたは落ち着きがなさすぎるのじゃ。よいか? 男たるもの――」
 お婆ちゃんのアーク兄に対するお小言が始まったので、ボクはそっと退散する。
 お婆ちゃんは家族想いだけど、お説教は長いのだ。

「お、いたか。スピカ」
「ん?」
 声を掛けられたので振り向くと、アモスさんがいた。

「アモスさんと……、ケイアン君?」
 アモスさんが大きくてあまり見えなかったけど、その隣にはケイアン君が一緒にいた。

「スピカお姉ちゃん、僕……!」
「ケイアン、やめなさい」
 ケイアン君が何かを言いかけた時、アモスさんとは違う人の声が聞こえてきた。

「これは村長殿」
「この方が村を救うきっかけになったお嬢さんですな。本当にありがとう」
 アモスさんが村長と呼んだ人は、壮年の大柄な男性だった。
 アモスさん以上の筋肉質で、ガッチガチだ。

「い、いえ。たまたまです」
 その巨体にボクは若干ビビってしまう。

「ハッハッハッ、ご謙遜を。しかし、妖狐族ですか。それも神系の……」
「えっ?」
「いえ、こちらのことです。お礼の方は後ほどメルヴェイユのほうに届けましょう」
 村長さんの一言が気になりはしたものの、なんだかはぐらかされてしまったので聞かなかったことにした。
 こういう時、大抵は首を突っ込むと良いことがないのだ。
 ボクはこういう時にトラブルに遭う機会が多いんだよね……。

「ありがとうございます。それじゃ、ボクはそろそろ帰ります。ケイアン君、ばいばい」
 面倒事に巻き込まれる前に、ボクは退散することにした。
 ちょうどアーク兄達も帰るつもりのようなので、一緒に帰ろうと思う。

「あぁ、またおいでください」
「帰っちゃうの……?」
 ケイアン君が寂し気な表情を見せる。

「まぁ、またそのうちくるかもしれないし、その時また話そうね」
 ボクはそれだけ言うと、ケイアン君の頭を撫でる。

「ぼ、僕は子供じゃない! また、来てね!」
 一緒ん悲しげだったものの、笑顔でケイアン君が手を振ってくれた。

「アモスさん達も帰りですか?」
 ちょうどアーク兄に合流しようとした時、アモスさん達も帰り始めているのが見えた。

「あぁ。達成報酬は運営からメールで渡されるらしい。なので、ここにいつまでもいる理由はないからな」
 どうやらこの場で得られる報酬はないらしい。
 ならすぐに帰る人がいるのも当然か。

「だが、メルヴェイユでちょっとしたお祭りをやるようで、みんなそれ目的ですぐに帰るらしい」
 メルヴェイユでは何かお祭りの準備が始まっているようだ。
 今回の件はメルヴェイユでも知ってるのだろうか?

「そうなんですね。ボクも後で見てみなきゃ。ありがとう、アモスさん!」
 ボクはアモスさんにお礼を言うと、アーク兄のところに行く。

「アーク兄、帰る?」
 お説教のせいか、疲れた顔をしているアーク兄は、ボクに力なく微笑みかけると、軽く頭を撫でてくる。

「わっ、ちょっと!?」
 軽く抗議をしておくことは忘れない。

「いやぁ。スピカはお婆様のようにはならないでな」
 どうやら相当しぼられたようだ。 
 ご愁傷様です。

「お婆ちゃんも帰る?」
 後ろにいたお婆ちゃんに一緒に帰るか問いかけると、お婆ちゃんは首を横に振る。

「妾は少し調べたいことがあるのじゃ。あとで向かうから向こうについたら召喚でもしておくれ」
 お婆ちゃんはそう言うと、灰のある方向へと歩いていった。

「それじゃ、帰ろう」
 ボク達はさっそくメルヴェイユへと向かって歩き出した。


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「ふむ。やけに簡単に滅んだかと思えば、そういうことじゃったか」
 妾はバラカスの死に方に疑問を感じていた。
 少なくとも、あれはアンデッドといってもおかしくない死に方だった。

「灰の中に……、あった。これは……」
 灰の中に手を入れると、小さな塊にぶつかった。
 取り出してみたそれは、黒い何かの塊だった。

「これは……。そうか。あやつめ、こんな場所に逃げ込んでおったか」
 メルヴェイユがこの世界を救えなかった理由がようやくわかった。
 まさかこんな場所に逃げ込んでいたとは予想だにしなかった。

「妾が高天原へ昇る時、打ち滅ぼしたと思ったあやつがまだ生きておったとは驚きじゃ。この世界を汚染した者はあやつじゃったか」
 今度こそ尻尾を掴んで逃がすまい。
 首を洗って待っているがいい『禍津』よ。

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