アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。
第27話 月と月天狐
スライムのミアは、そのレベルからは想像できないほど強かった。
たぶん進化した種だからなのだろう。
スライムの精霊って言っていたのも伊達じゃないのかもしれないとボクは思っていた。
「それなりに奥に来たけど、時間大丈夫?」
前を歩くコノハちゃんが後方のボク達に声を掛ける。
「システム時間はまだ11時だね。アルケニア時間は、あれ? もう19時!?」
そう言えば、洞窟に出発した時点でアルケニアはお昼頃だったっけ。
現実はまだお昼の11時なので時間に余裕はある。
ただ、アルケニアは夜になるので外の魔物は一部が入れ替わっているだろう。
「もうこっちは夜だったんですね。ということは、夜行性の魔物や動物が出てくる時間ですね。休む時は休憩所を設置して休みますか」
ボク達はのんびり採集と採掘を行いながら、そして時に通りすがりの人に挨拶しながら奥へと進んでいる。
ここに来て結構な量の銅鉱石類と薬草が手に入っている。
瓶詰の泉の水も一応は入手したけど、使いどころあるのかな?
この泉の水は、洞窟外に持ち出すとあっという間に劣化するという不思議な水なのだ。
「ん~、夜かぁ。なんだか調子がいいなぁ」
夜になってきたせいか、ボクの身体は不思議と調子が良い。
アンデッドとかこんな感じなんだろうか?
それにちょっとウズウズするっ!
「ダンジョンブラウンウルフが5頭接近中、迎撃します」
早速弓に矢をつがえたコノハちゃんが第一射を放つ。
「ギャウンッ」
眉間を撃ち抜かれたダンジョンブラウンウルフはぐらりとよろめくと倒れて動かなくなる。
相変わらずの射撃の腕だ。
「4頭抜けました」
「どんまい、大丈夫」
少し広めの通路だからか、1頭が犠牲になっている間に4頭が後ろのボク達に迫ってくる。
食べやすいと思ったんだろうけど、そうはいかないよ。
「ご主人様、お下がりを。【アクアブレード】」
ミアがボクを後方へと引っ張る。
同時にミアの水魔術が発動、4本の水刃がダンジョンブラウンウルフに襲い掛かる。
「ガフッ」
「ギャンッ」
1頭は首を切り裂き、1頭は両足を切断され転がる。
残る2頭は迫る水刃を仲間を犠牲にして難を逃れていた。
「かしこいやつ!」
「ご主人様、避けてください!!」
ボクが悔し紛れにそう言うと、ミアが慌ててボクに回避するよう伝えてきた。
一足飛びであっという間にボク達の間に飛び込んでくる。
「仲間を踏み台にした!?」
ボクは驚きつつも、迎撃準備を整える。
「ガァウッ」
「くっ、惜しかったね! 簡単になんて食べさせてあげるもんか!!」
術を発動する寸前、加速するように飛び込んできたダンジョンブラウンウルフを寸でのところでやり過ごす。
夜になってから妙に体が動くので、危険な状態でも何とかしのぐことが出来た。
「さぁ、罪を贖ってもらおうじゃないか! 夜のボクに楯突いたことを後悔してもらうよ!」
ボクは不思議と気分が高揚していた。
今なら何でもできる、そんな気分だ。
「【天狐流刀術・一閃両断】」
気分の良いボクは身体が動くままに刀を抜き放つ。
今のボクには使いたい技が分かる。
何かに突き動かされるようにボクは刀術を繰り出していた。
「ガッ」
ボクの刀術を受けたダンジョンブラウンウルフは、反対側の壁にまで吹き飛ばされると、その中身を真っ二つの身体からまき散らして絶命した。
「ふん、ボクに楯突く悪いワンコにはお仕置きさ。さて、次のワンコはどこだい?」
ボクはただただ気分が良かった。
そして、楯突く愚か者を徹底的に打ちのめしたかった。
「スピカちゃん? その姿は……」
ふと見ると、コノハちゃんが少しだけ怯えたようにボクを見ていた。
「ご主人様……、少々やりすぎです」
ミアが咎めるような視線でボクを見ている。
なぜボクはそんな目で見られているんだろう?
「二人とも、何言ってるんだい? ボクは敵を倒した。ただそれだけじゃないか?」
ボクが怒られる理由はない、そう思っていた。
すると、コノハちゃんが手鏡を取り出してボクに向けて掲げる。
そこに映っていたのは、月のように輝く銀色の長い髪、銀色の狐耳と尻尾付けた、紅く光る眼をしたボクの姿だった。
「あれ? いつの間に?」
ボクは妖狐になった覚えはない。
でも、その姿は妖狐そのものだった。
「わからない。でも、たぶん種族のせい」
コノハちゃんはそう言う。
ボクはハッとして自分のスキルの一部を確認した。
【月の恩寵】という表示がやけに目についた。
「これ、どんなスキルなんだろ?」
ボクは慌てて確認することにした。
【月の恩寵】
・月天狐が月天狐である理由。
・月の出ている夜間の能力が20%向上、夜間の自然回復率が上昇、月の満ち欠けにより能力が増大。
・注意:【月の恩寵】は親和性が低いうちは制御が難しく攻撃的になり暴走しやすくなります。夜間戦闘を行わなければ回避可能。
詳細を開くと、そのように記載されていた。
ボクが、暴走した……?
下手をすればコノハちゃん達を巻き込んだかもしれないのだ。
ボクはその事実に気が付いて眩暈を感じてしまった。
あっ、だめだ。
足元がぐらつく……。
「そん、な……」
「スピカちゃん? スピカちゃん!」
「ご主人様!? コノハ様、安全な場所で休憩……」
そこでボクの意識は途絶えた。
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