異世界転移して魔王を倒す命運を背負わされたけど、山田太郎は平凡になりたい。

雨猫

プロローグ


僕は昔から根っからの『非凡体質』である。
成績も普通、運動も普通、ルックスも……名前でさえも山田太郎と言う平凡さ。
なのに、僕に降りかかる事はいつもいつも平凡とはかけ離れていた。



「おーい山田!一緒に帰ろうぜ!」

僕を呼び止めたのは小学校から仲の良いアキラ。

「実はテストで赤点ばっか取って補修受けてたんだよ…キッツいわぁ」

アキラはお調子者で、他人の不幸を笑い飛ばす天才でもある。
こいつの笑顔には何度も救われてきた。

「そういや山田、あの花坂さんがお前のこと探してたらしいぜ。何したんだ?」

花坂さんとは学年一の美少女と言われている女子生徒だ。
なんでも入学初日に13人から告白されてそれを全部振ったらしい。

高校へ入学してから早2週間。
何事もない学生生活は送れなさそうだ…。



次の日の放課後、僕はあろうことか花坂さんに学校の屋上へ呼び出された。
いくら非凡体質とは言え、僕も年頃の男子。
学年一の美少女に呼び出されてワクワクしないわけはなかった。
しかし、これから非凡なことが待ち受けていると思うと気が乗らない気持ちもある。

「あなたが山田太郎くん?」

花坂里菜。彼女の第一声であった。
目の前にすると、他に見たことのない整った容姿に唖然としてしまう。
彼女は、凛々しい姿勢で僕に話しかけてきた。

「僕が山田太郎です」

緊張のあまり声が震えてしまったのが分かった。
仕方ないだろう。それくらい可愛いのだ。

あまりの可愛さに今までの人生をふと忘れてしまうほどであった。
しかし、次に言われた言葉に、僕はいつもの非凡体質を思い出すこととなる。

「じゃあ早速なのだけれど、死んで?」

「え?」

バン!!!

唐突なことで頭が追いつかなかった。
一瞬だけ、今までに味わったことのない鋭い痛みが僕に押し寄せた。

花坂里菜は今何をした?

拳銃を取り出して、

僕に向けて、

僕を殺した?

じゃあ何故僕は今考えることが出来る?

じゃあ何故僕は痛みを感じていない?

あれ?僕は、山田太郎はどうなった?

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