最後まで

ドロイド

通知

先日私は大人の仲間入りになった。それは酒が飲める。結婚がやりやすくなる。好きなことがやりやすいなど、良いことがある。しかし、良いことだけではなく嫌なことがある。それは責任感が持たされること。期待というプレッシャー。子供ではない苦しみ。色々な良いこと嫌なことが誰しもある。それはそれぞれ人によって良いこと、嫌なことを思うものが違う。
 だが、そんな嫌なことでも誰も共通し、一番と言えるほど嫌なことがその時はあった。責任や不安やプレッシャーなどではない。それは「赤い手紙」が自宅に届く時だ。その赤い手紙は端から端まで赤く、タイトルのところに「おめでとうございます」という言葉が堂々と書かれている。その手紙がポストに入れられてその手紙に気づいた時、私は言葉を失い全身の力が一気に抜けた。それを見た両親は今までになかったぐらいの笑顔を私に向けた。そして一言。「おめでとう」それはあまりにも不気味のようにも、苦しんでいるようにも感じた。到底笑っているとは思えない俺はその笑顔に対して、「明日準備するからもう寝るね。」と両親に微笑み、寝室の扉を静かに開ける。同じ時刻に私の妻は台所で、親と私のやりとりを遠くで見て一切顔を変えず、朝の支度を用意した。私はそれに対して何も言えず、朝を迎える。

朝を迎えると5歳の私の息子が飛びついてきた。飛びついた勢いで後ろに手を伸ばさないと倒れそうだ。どうしたと息子に問いかけ、息子が顔をゆっくりこちらに向ける。息子の目の下は林檎のように赤く腫れていた。その顔を見て私は赤く腫れているなぁと口にし小さい救急箱を探す。私は違う、そうじゃない、私が導人みちとに言ってあげるべき言葉ではない。そんな言葉を導人みちとは望んでいるのか…と私は思いながら、タンスの上に置いてある所にある救急箱を見つけ、手を伸ばした。180cmもある私に導人みちとはがっしりと蜜柑みかんと同じくらいの大きさの手を使い私の膝あたりを掴む。
「おいおい、そんなに掴んだらお父さん動けないよ。」
と、私は導人みちとの手をどけようとした。しかし、
「だって、お父様死んじゃうかもしれないんでしょ。」
と、導人みちとは涙目になりながら私に言う。それに対して私は何も言えない気持ちになった。正直、どう返したら良いのかわからなくなった。でも、そういう運命なんだと私は思い、導人の肩に手を当て同じ視線で私は言おうとする。しかし、何も言えない。言葉が一切出ようとしない。しかし、何か言わなければならないと思った。
「お父さんは死なない。だから、導人。お父さんが家に戻るまでまでお母さんを守る男になってくれ。」
この発言を私が口に出すことはいけないことだ。それは一体何故か。それは希望を持たせるからだ。希望は生きる力であり、未来を進む力。希望は持たせても別に構わない。国にとっても希望というものを持たせても別に損はない。いや、むしろ得をする。
 しかし、私は導人にそれを望まなかった。なぜなら、現実は残酷だからだ。赤い紙に従ってそのまま進めばに行けば何がなんでも簡単には家には帰れない。それに拒否すれば地獄が待っている。それにすぐに言っても、死ぬ運命をたどる道が待っている可能性が高い。だから私は導人に希望を持たせることはいけないのだ。だが、私は導人の父親だ。導人は私の息子だ。今絶望を持たせてるのも許されない。だが、絶望より希望の方がマシだと思い、私は言った。この時は今でも思う。本当にこれで合っているのかと。

コメント

コメントを書く

「戦記」の人気作品

書籍化作品