美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい

平山安芸

超入門編!基礎から学ぶフットサル!



「やっと晴れたあああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
「あたしの天下だあああああああああああああああああああああっ!!!!」
「うっさお前ら」


 テニスコートに二人の絶叫が響き渡った。


 相変わらず、分厚い雲に覆われて太陽の光は確認できない。
 その割に湿度は高く、じめじめとした気候はどうしたって歓迎できない。帰りたい。


 水曜日。いよいよフットサル部(仮)の初となる練習が行われるわけである。


 えらいハイテンションの二人とは対照的に、肝心の俺はというと、足取りは決して軽くは無かった。
 やたらと`詳しい`峯岸綾乃との出来事が、脳裏に引っ掛かって離れないのだ。


 そんなこと気にしていても、なにも解決しないことは分かり切っていた。
 勿論、動き出したところで何も変わらないのも、分かっていたけれど。




「わぁ~~比奈ちゃんのウェア超可愛い~~っ! もしかして、これのために新しく買ったのっ?」
「うん、廣瀬くんにも選んでもらったんだ」
「なぬぅっ!? おいハル、なに比奈ちゃんと勝手にデートしてるんじゃコラぁっ!」


 言い掛かりである。別に俺のものでもお前のものでも無いから安心しろ。


「楠美さんは、体操着だよね。そりゃそっか」
「生憎運動着は持ち合わせが無いので……」
「今度、一緒に買いに行きましょっ! 私も選んであげるからっ!」
「いえ、比奈と同じものを買いますから。結構です」
「えっ。あ、うん。そっか」


 長瀬渾身のコミュニケーションを軽々と踏みにじる楠美であった。泣くぞコイツ。


 特にスポーツに縁が無かった楠美は、やはり学校指定の体操着しか持っていなかったようで。
 しかし、エグイな。コイツ、小柄な癖におっぱいだけは長瀬とタメ張れるくらいあるから。
 歩くたびにゆっさゆっさと揺れている。青少年には毒だ。


 この二人、自分の凶暴性について自覚しているのだろうか。
 こんなのと一緒に体育の授業受けるとか、軽く拷問だろ。並んで立ったら尚更に。




「……なに? 私になんか付いてる?」
「えっ。あん、まぁ、付いてるっちゃ付いてるけど」
「はっ? どゆこと?」 
「なんでもねーっす」


 わざわざ口に出すことも無いだろう。寿命が縮む。




「ところで、この気温、どうにかならないのですか」
「そりゃもう夏も近いんだからさぁ~、暑くもなるっしょ。だーいじょうぶ、くすみんも全力で頑張れば、暑さなんて忘れちゃうからっ!」
「うっ、腕を掴まないでください、暑苦しい……」


 その割に、ほとんど抵抗はしない楠美であった。
 根が根なんだな。うん。そういうことにしておこう。




「とりあえず今日は、基本的なルールを勉強して軽く身体を動かす程度にしましょっか」
「……それ、なに」
「『超入門編!基礎から学ぶフットサル!』だよ」
「いやタイトルを聞いたんじゃなくて」
「私もそんなにルールよく分かってないし、まぁ最初はこっからよね」


 実際にプレーするまで何日掛けるつもりだ。




「なになに……『フットサルはボールが外に出た場合、スローインではなくキックインで再開される』、ほんほんほん」
「手じゃなくて、足で、ってこと?」
「そ。長瀬、もっと分かりやすいように説明しろよ」
「あ、そっか。ごめんごめん」


 このチームの一番の難点は経験者と初心者の技術、知識がかけ離れ過ぎていることに尽きる。
 初心者コンビに基礎を叩き込むのは当然だが、そうなると文句を垂れる奴がそこに一人いるもので。




「これ、ボール蹴るまで長いなぁ……やっぱその辺はさ、習うより慣れよ! でいーんじゃない?」
「まっ、そうだな。金澤の言うよう……」
「ミ、ズ、キっ!」
「………瑞希の言うように、取りあえずボール蹴らないと始まらないだろ」
「そーそー♪ じゃー早速ゲームしよー!」


 満足げに頷いた彼女は、ボールを手に取ってピッチに蹴り出し、そのまま進んでいく。




「…………なんだよ」
「ばかっ、変態」
「えぇ」


 対照的に、不機嫌そうに小さく呟いた長瀬はくるりと向きを変え、初心者ズとなにやら話し始める。


 え、その、なんだ。俺が金澤を名前で呼んだことに対してなにか文句でもあるのか。
 だとしたら、それは俺のせいだというのか。不服だ。実に不満だ。


 ええい、なんだ。とにかく、ボールに触れている時間すら短い連中なのだから。
 まずは扱いに慣れる。そこから始めなければ。




「あ、つってもよハル。この人数でゲームはちょっと辛くね?」
「分かってんなら言い出すなよ……そりゃ奇数なんだから、ゲームは難しいわな」
「じゃあパス回しで良いんじゃない? 鳥かごやろ鳥かご」
「トリカゴ……それはどういうものですか?」
「あ、うん。説明するね。ハルト、アンタ鬼」
「えー」


 長瀬の指示で、五人が俺を囲うように円を作る。面倒やな、俺これ嫌いなんだよ。


 さっきからやたら俺に対して厳しい長瀬だったが、俺を囲うように集まると随分嬉しそうだった。
 あれだ。きっと一人でやってる時間が長すぎて、鳥かごなんて久しぶりなんだろうな。
 可哀そうに。せめてもの反撃だ、精いっぱい馬鹿にしてやる。




「こうやって、鬼役の人を囲んでね。このサークルを崩さないように、パスを繋ぐの。それだけっ!」
「タッチいくつまで?」
「んー。初心者ばっかだし、3とかで良いんじゃない? 私とアンタと、ハルトは2で」
「いや、ダイレクトオンリーで行こうっ! それくらいしないと鈍っちゃうって」


 金澤の一声により、連中はダイレクトパスのみだけとなったらしい。
 意外と難しいぞ、それ。特にこんな場所だと。


 足元の技術に自信のある金澤は良いけど。
 どちらかといえばシューターの長瀬は、細かいところでの繋ぎはあまり得意ではないのだろう。


 まぁ、それは良いとして。俺はここで、どのような選択をするのが正解なのだろうか。
 初心者たちにパス練習をさせたいなら最適な練習だし、なんなら俺がずっと鬼でも構わないが。
 それはそれで、長瀬に文句でも言われそうだ。




「本気で行っていいの、これ」
「好きにすれば? 私はアンタら全力でぶっ潰すけどね」
「……さっきから当たり強くね?」
「さぁー、なんでだろうねっ!」


 澄ました顔で横に立っていた倉畑にヒョイっとパスを出す。
 コイツ、もしかしなくても俺を変えさせない気か…なにがそんなに不満だというのか。


 名前や呼び方なんて、気にするまでもない。
 俺からすれば、名字でも名前でも差なんて無いに等しいのだから。




「わわっ……えと、3タッチって、今ので1回っ?」
「そうそうっ、落ち着いてちゃんと見れば、空いてるところあるでしょ?」
「琴音ちゃん、パスっ!」
「っ……えいっ」
「おっ、いいじゃんくすみーん! 敢えて2タッチとかイシキ高いよー!」
「いや、急いで蹴っただけなんですけど……」




 喉かな風景だった。俺だけ置いてきぼりな気が、しないでもないけど。







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