美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい

平山安芸

むぎゅっ



 昼休み。


 この学校に転校してから、初めて全ての授業を席に座ったまま終える。
 と言っても、別にノートや教科書を開いていたわけではない。ひたすらに、惰眠。


 変わったことと言えば、クラスメートや担当の教師にエライ驚かれたことぐらい。
 特に担任は、俺がHRに出席していると思っていなかったのか、普通に名前を呼び飛ばした。
 流石にその扱いは酷過ぎるだろ。因果応報だけど。


 昼食はいつも、中庭のベンチに座ってパンを齧りつつスマホを流し見している。
 が、それが出来るのは誰もいない時間からベンチを占領しているからであり、教室からのスタートでは既に先約で埋まっているわけで。


 適当にここで食べるかとサンドイッチの封を開けようとしたところ、長瀬に呼び止められた。


「ハルトっ。土曜の約束、忘れたわけじゃないわよね?」


 教室がどよめく。
 それもその筈。普段、教室で倉畑くらいしか会話相手がいない`あの`長瀬愛莉が。
 これまで全く接点の無かった俺に突然話し掛けたのだから、まぁまぁの事件である。


「……ここで話し掛けんなよ」
「いいでしょ、別に。色々と聞きたいことあるし。賭けも私の勝ちだかんね」


 賭け、とは例の「点を多く取った方が昼飯奢り」というあれだろうか。
 いや、普通に忘れていた。嫌だな。お金そんな持ってないんだけど。


 さっさと教室を出て行ってしまう長瀬を追い掛け、席を立つ。
 皆の視線が、長瀬よりも俺に向いているのは振り向かずとも分かった。
 こんなことで注目を集めたくなかったのに。5限から俺は、男子生徒の敵になるわけだな。なるほど。




「倉畑、行こうぜ。長瀬がおらんと暇だろ」
「えー、酷くない言い方。行くけど」


 ついでにもう一騒ぎさせておこう。
 クラスで一二を争う美少女を連れて教室を離れる俺。
 うーん。カッコいい。まぁ命は今日限りだな。




 山嵜ヤマサキ高校の食堂は、本館の地下にあり結構な規模を誇る代物である。
 俺はと言うと、今まで一度も利用したことが無かった。ぼっちで食堂とかそんなメンタルは無い。


 予想通り、人でごった返していた。ホンマ居辛い。長瀬が来たことでなんか妙に注目されてるし。
 こんな視線のなか食べるご飯はさぞ不味いことだろう。




「結構混んでるし、購買の野菜炒め弁当でいいから。はい、いってらっしゃい」
「はいはい」


 おつかいへ。必ず復讐してやる。
 食堂のメニューの他にも、弁当や総菜パンを取り扱っている購買部へ。
 こちらはあまり混み合っていないのでサクサク購入。
 ついでに他の奴らの分もと、雑にラスクも買っておく。まぁ、三人分くらい出せないこともない。


 …………いや、五人分か。それに、席を確保する必要も無さそうだな。




「なに普通に後着けてんだよ」
「……偵察です」


 近くの自動販売機の後ろから、ひょっこり顔を出すクレイジーサイコレズこと楠美琴音。
 恐らく授業が終わり次第、倉畑の様子を見に行って、食堂に向かう俺たちを発見したのだろう。


「お帰り。あれ、楠美さん?」
「…………あぁ、長瀬さんじゃないですか。お久しぶりですね」
「なに、知り合いなのお前ら」
「うん。一年のときにクラスが一緒だったの」


 知らんかった。俺のいないところで既に関係があったのか。まぁ悪いこた無いけど。


「っていうか、もしかしてハルトが誘ったのって」
「長瀬さんもまさか、フットサル部の」
「うん、私がハルト誘ったの。え、でも楠美さんスポーツとか…………あ、なるほど。比奈ちゃんか」
「分かっちゃうのかよ」


 どうやら楠美が倉畑にご執心なのは、この学校じゃ割と常識らしい。
 何だかんだ、元々関係のある人間が揃ったってわけだな。




「まぁ、分かりました。長瀬さんがいるのなら、迂闊に比奈に手を出すことも出来ないでしょう」
「だから俺を何だと思ってるんだよ」
「そういうことなので、長瀬さん。あまり力にはなれませんが、どうぞ宜しくお願いします」
「うんうん、よろしくね。一年のときちょっとしか話せなかったから、なんか嬉しいかも」
「……私とですか?」
「うん。だって楠美さん、可愛いし!」
「は、はぁ……」


 手厚く楠美の両手を握る。いまいちピンと来ていないようだ。
 倉畑関連を除いてあまり他人に興味が無い様子だし、自分の容姿にもさほど関心が無いのだろう。
 しかし、モノの見事に美少女ばかり集まったな。俺、いらんだろこれ。




「ねぇ、廣瀬くん」
「ん、どした」
「さっきから、凄いこっちに手を振ってる子がいるんだけど……」


 倉畑の視線の先に振り向いてみると。
 うん。いや、分かってたけどね。さっきからめちゃ名前呼ばれてるし。




「ハルぅーっ! こっちこっち! 席取っといたよーん!」
「うるせぇ……」


 食堂の端の席からこちらに向かって大声で呼び掛けている、金髪ショートのギャル風美少女。
 まぁ、やっぱり金澤瑞希であった。頼むから声を出すな。関心を呼ぶな。




「……金澤さん、だよね? あの子もフットサル部なの?」
「おう、なんか入った。なんや倉畑、知ってんのか」
「だって金澤さん、学校じゃ凄い有名人だし。あんな金髪で目立つ子、他に居ないよ」


 確かにあれだけ派手な容姿で年中バカ騒ぎしてたら目立つわな。俺、知らなかったけど。


「改めて俺と長瀬の交友関係の狭さが浮き彫りになるな」
「私を巻き込むなっつうの!」


 自覚しろ。お前は立派な陰キャだ。
 それも自分より大人しい奴には強気で行ける、より性質の悪いタイプの。




「いやー、長瀬がご飯奢らせるって話、ちょっと聞こえてたからさ。ここで待っていたわけなのだよ、ワトスンくん! はいはい、みんな座って座って~」


 勝手に主導権奪いやがって。いや、コイツといたら嫌が応にもそうなるか。実に不愉快だが。


「これ、みんなフットサル部なんでしょ? 揃いも揃って可愛い子ばっかり連れてきちゃって、見掛けによらずハルってモテる感じ?」
「あー、うん。そうそう、モテモテ。ナンパしたら100%成功するから俺」
「……廣瀬くんが押されてる……」


 勘弁しろ。いくら俺でもコイツの相手はやり切れん。


「さてさて、全員席に着いたところで自己紹介たーいむ! あ、金澤瑞希でーす。2年A組で、フットサル経験は結構あるよーん」
「……長瀬愛莉でーす」


 機嫌治せって。いくら金澤苦手だからって。


「倉畑比奈です。スポーツは全然初心者で……えと、瑞希ちゃんって呼んでもいいかな?」
「もっちろん! うわ~超可愛いじゃん、もうこれはあたしのハーレムだよね、ハル」
「知らんがな」
「あ、もう一人はくすみんだよね? こないだ振りじゃ~ん元気してた?」
「あ、はい…………特に不自由は」


 楠美が完全に制圧されている。人によって得意不得意はあるものだな。勉強になるわ。
 ていうかくすみんて。相変わらず俺に限らず雑なあだ名付けてやがる。
 絶対お前しか呼んでないだろそれ。


「あたし、くすみんと一緒に風紀委員やっててさー。よく勉強とか見て貰ってるんよね」
「それは、貴方が風紀委員の立場を無くすような成績ばかり取るから仕方なく見ているだけでっ」
「はいはい、分かってる分かってる。相変わらずツンデレだな~~!」
「むぎゅっ」


 隣に座らせたのが悪かったか、楠美の頭をガッチリとホールドする金澤。
 どうにもコミュニケーションにパッション要素が多すぎる。コイツ。
 つうか風紀委員やってるのかよ。どう考えても乱してる側だろお前。




「ご飯、食べない? っていうかみんな持ってるの? 私お弁当なんだけど」
「うん? あたしはさっき買ったパンだけど」
「私はお弁当だよ」
「私もです…………あのっ、そろそろ放して頂けると」
「おっとしつれー」


 いよいよ食堂に集まった理由が無くなりそうだけど、まぁいいか。


 五人中三人がお弁当ということで、女性陣はそれぞれ中身を見ながらトークを始めてしまった。
 正確には、俺と長瀬以外。長瀬は微妙に絡めているようで絡めていないし、俺は蚊帳の外である。


 より分かりやすく言うと、金澤が喋りまくって二人が相槌を打ち、俺らは論外である。




「しっかし面白い面子になったな~。まさかハル以外みんな女子とは」
「……こんなに早く集まるなんて予想外だったけどね」
「お、なに? もうちょっとハルと二人で一緒にいたかった感じ~?」
「なっ――――ばっ、馬鹿なこと言ってんじゃにゃいわよっ!」
「ブホェッッ!!」




 真横の長瀬から思いっきりぶん殴られ、口に含んでいたトマトとレタスが飛び散る。


 嗚呼、駄目だ。
 これ、心と身体が持たねえ。



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