美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい

平山安芸

逆になんかアレ



 何度かの試合とチーム替えを行い、2時間弱の個人フットサルが終了。
 結局、金澤の計らいで俺と彼女はそれ以降、ずっと同じチームでプレーしていた。


 で、長瀬はグループ分けの段階で計算を失敗し、ついぞ同じチームになることは無かった。
 シンプルに馬鹿。算数も出来ないのね。貴方。


 金澤のプレーのキレは時間を追うごとに増し、ついぞ俺の助けを借りることも無く。
 他の参加者たちの心をズタズタに引き裂いた。ボールを奪われたシーンなど皆無である。


 一方、長瀬も怒りに身を任せたというか、更に荒々しさを増したプレーで相手を翻弄。
 完全に二人のゴールショーと化してしまったコートには、ネットの乾いた音と拍手だけが響き渡っていた。


 で、俺。


 最初のゴールシーン以外は、特に目立ったプレーをするわけでも無く。
 後方でボールを回しながら、金澤に預けるという、淡々とした仕事をこなすに終始。


 感触は、まぁ、悪くない。
 思っていたより左脚はしっかり動くし、技術的なミスも想定より少なかった。
 けれど、モヤモヤした感覚が左胸の奥に残っているのも、隠し切れない事実であった。


 俺がやりたいのは、こんな無難なプレーじゃない。
 けれど、脳が。身体が拒絶していた。これ以上、無理はするなと。
 そこから先は、お前の積み重ねて来たものを否定するだけの時間だと。誰かが囁いていた。


 楽しかった? それはまぁ、うん。楽しかった。
 けど、それと同じくらいイライラしていた。
 彼女たちの活躍が、千切れそうな糸をなんとか緩めていた。結局、俺は何も出来なかったのだ。




「ハルト、助けてッッ!!」


 帰り支度を終えフロントに出ると、ほぼ同じタイミングで長瀬と金澤も現れた。
 が、表情は対照的だ。長瀬は俺を見つけるや否や、一目散にこちらへ掛け寄って来る。


「無理無理ムリッ! コイツ、変態ッ! ていうかヤバイ! コミュ力おかしいっ!」


 ほとんどしがみ付いている。体重を掛けるな。俺は滑り棒か。
 あと試合中もだけど、おっぱい当たるから近付くのやめて。気付いて。


「けーっ。ちょーっとおっぱい揉んだくらいですーぐ顔赤くしちゃって、初心ですなぁ~」
「普通、初対面相手にそういうことしないわよッ!」
「なんだ、もう仲良くなったのか」
「アンタ目ェ付いてるのッッ!?」


 女の子同士のふれあいは尊いものだ。誰かが言った。否定もしない。


 金澤も似たような帰り道だったので、駅まで並んで歩き彼女の話を聞いてみる。
 無論、俺が真ん中。長瀬は依然として彼女から距離を置いている。もはや拒否反応。


 陽も沈み、暗い夜道を女の子二人と並んで歩くという、信じ難い状況。
 多少なりともドキドキしている自分がいた。
 でも、相手が相手だし。うーん。素直に喜べぬ。




「あたしっ、中学までスペインにおったんよ。パパンが現地の人でさ。そこでフットサル始めたんよね」
「へぇ。本場やな」
「でも親が離婚しちゃってな、高校入るタイミングで日本に戻ってきたんよ」


 あまり軽々しく対応できないことを、さも「お腹空いた」みたいなノリで暴露される。
 彼女が気にしないのなら構わないが、こう、なんだ。軽いな。全てにおいてコイツは。


「向こうは男女混合のチームだったけど、日本だとそういうのも少ないじゃん? だからチームとか入らないで、適当に個サルで無双噛ましてたってワケ」
「まぁ、確かに上手いけど」
「結局ハルの実力はなんとな~くしか分からんかったなー。最初に一人交わしたのはエグかったけど」
「そっ、そうよ! 私だけ張り切っちゃって、馬鹿みたいじゃない!」


 なんとか会話に混ざろうとする長瀬さんだったが、その台詞が既に馬鹿っぽいぞ。


「まぁ、久々やったし……今日は試運転っていうか」
「ふーん……あ、で、なんだっけ。フットサル部だっけ」
「えっ……ほ、本当に入るの……?」


 かなり怯えた様子で距離を取る長瀬。なにをそんなに恐れているんだお前は。ただの陽キャだろ。


「もっちろん! いや、あたしも友達とか誘ってそういうのやろーとか言ってたんだけどね? なかなか釣れなくて、探してたところなんよ。超ナイスタイミング」
「…………はるとぉー……」
「諦めろ。人見知りを直すええ機会や」


 その気になれば仲良くなれそうな気がしないでもないが。
 根本的に合うはずがないと感じてるのだろう。可哀そうに。


 え、俺はどうなのかって。
 今んところ、倉畑を除いて誰とも合致してませんけど。性格とか。ノリとか。助けて。




「つうわけで、これからよろしくね、ハルっ。あ、ついでに長瀬も」
「ついで!?」
「だって長瀬、会話振っても面白くないんだもん。プレーはヤバいけど、中身は凡人だよね」
「なっ……!? たっ、たった一日でなにが分かるってのよっ!?」
「いや、俺も思ってる。まだ会って三日くらいやけど」
「死ねッ!!!!」
「ブへ゛ッッッ!!!!」


 背負っていたまぁまぁサイズのあるリュックサックをブン投げられる。無論、直撃。
 地面に突っ伏す俺を気遣いもせず、長瀬はずっと先まで走ってこちらを振り返った。




「ばーかばーかばーかばーかバーカばーかばーかばーか、馬鹿っ、馬ー鹿、バカッ!!!! 死ね馬鹿ハルトッッ!!!!」


 何回言うねん。


 そのままサヨナラも言わず、彼女は駅に向かって走り去ってしまった。
 お前、えぇ。なにそれ。




「…………なんか、あたしが知ってる人と違う気がするんだけど」
「あれが本性や……」
「……立てる?」
「なんとか」


 立ち上がって前を見据えた頃には、消え掛けたも相まり、既に長瀬の姿は見えなくなっていた。
 必然的に、金澤と二人きり。辞めて欲しい。俺だって別に得意やないでこんなん。


「……うん、やっぱ面白いわ。二人とも」
「あ、そう」
「少なくともハルは、あたしの話ちゃんと聞いてくれるし、良い子良い子」
「頭撫でんな。つーか、んなことねえだろ。こんな雑に返す奴そうおらんて」
「それでいーんだよ。みんな適当に合わせて、あとは知らんぷり。だからそれくらいが丁度いいよ。長瀬も、あれくらい反発してくれる方が新鮮で逆になんかアレ」


 アレってなんだよ。抽象的過ぎるだろ。


 彼女の表情は暗くてよく分からなかったけれど。
 そのシャープな瞳はどこか、愁いを孕んでいるようにも見える。


 言葉の意味をすべて理解は出来なくとも、なんとなく、言いたいことは伝わる。
 彼女もまた、俺や長瀬と根本的に似たような何かを持っている。
 そんな気は、しないでもない。あくまで予感だけど。




「フットサル部、今どんくらいいるの?」
「お前含めて、4人やな」
「ミ、ズ、キっ!」
「…………瑞希含めて4人です。はい」
「そっか。じゃ、あと一人で試合できるね。早く集めないと」
「……だな」


 不思議な感覚だ。今日出会ったばかりなのに、もう何十年も付き合いがあるような。
 長瀬にしてもそんな風に思える瞬間がたまにある。よく分からないけど。




「あ、そーいえばハルって、どっかのチームでやってたりしたの? つうかサッカー部入ればいーのに」
「やだよ、真っ平御免だね。二度と戻るか、あんな場所」
「戻る?」


 あぁ、やらかした。


 まぁ、別に言ってもいいんだけど。
 金澤に関しては、話したところで「ふーん」で終わらせてくれる気遣いがあるだろうし。


 でも、なぁ。言いたくないよなぁ。こんなつまらない、挫折の話なんて。


 俺がやっているのは、フットサルであって、サッカーではないのだ。
 だから、こんな話は。この部活には、この空間には必要無い。




「悪いな、今日。何本もパス通るチャンスあったんに、出せなくて」
「うん? いや、別にそれは良いけど、どしたの急に」
「……なんでもね。じゃ、俺こっちだから」
「おー。家、駅近なんね。うらやま。あ、せっかくだしご飯食べよーよ」
「金が無い。じゃ、またな」
「情緒不安定かってのっ!? あーもう、はいはい。また学校でね、ばいばい、ハル」


 彼女に背を向けながら、雑に手を振って曲がり角を進む。
 ごめんて。金澤。俺もせっかくなら、飯くらい付き合いたかったけど。


 なんというか、耐え切れなかったのだ。


 前しか見えてない彼女たちを嘲るように、後ろばかり見ている自分とか。
 間違いなく「見えていた」のに、届かなかった、届く気がしなかった左脚への不甲斐なさとか。


 やっぱり、どう足掻いてもこうなる運命なのだ。
 彼女たちは始まったばかりなのに、俺は終わりへと歩いている。


 どうしようもない現実だった。



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