暗黒騎士物語

根崎タケル

森の中での戦い3

 青く澄み渡る空に巨大な竜と蛇が交差する。
 竜に乗るのは歌と芸術の神アルフォス。
 蛇に乗るのは蛇の王子ダハーク。
 両者とも互いの陣営を代表する神であり、戦士でもある。
 その2柱の神は森の上で対峙する。

「さあ、蛇の王子。もっと踊ろうじゃないか」

 白い聖竜ヴァルジニアスに乗るアルフォスはそう言ってダハークを挑発する。

「ぬかせ!! その美しい顔に風穴を開けてやる!!」

 赤黒い魔蛇ムシュフシュに乗るダハークは手に持つピサールの毒槍を振るう。
 ピサールの毒槍は伸縮自在の槍であり、遥か遠くまで槍の穂先を伸ばす事が出来る。
 しかし、動きは直線なので距離があると簡単に見切られてしまう。
 
「次は僕の番だよ」

 アルフォスは魔法で氷の矢を複数作ると遠くから矢を放つ。
 放たれた矢は5本。
 その全てが槍と違い、複雑な曲線を空に描きながらダハークに迫る。

(ぐっ! 躱せねえ!)

 ダハークは瞬時にピサールの毒槍を戻すと矢を打ち落とすべき構える。
 3本の矢は落とすが2本の矢は落とせず、ダハークとムシュフシュを貫く。
 ダハークとムシュフシュは高い再生能力ですぐに傷を癒す。
 しかし、そのために魔力を減らしてしまう。
 命中させるために魔力を使っているためか威力は高くない。
 しかし、それでもダハークの動きを鈍くさせるには十分である。

「アルフォス! 逃げ回ってねえで! 正面から戦え! いつからそんな臆病になった!?」
「ははは、悪いけどその手には乗らないよ。君の息は臭いからね。遠くから戦わせてもらうよ」

 アルフォスは笑いながら手を振って答える。

(くそ! どういう事だ! 何故前と同じように正面から戦わねえ! 奴に何があった!?)

 ダハークは歯軋りする。
 ダハークは過去にアルフォスと戦い敗れた事がある。
 なすすべもなく、完敗であり、ダハークにとって苦い思い出だ。
 その時のアルフォスは剣で近づいて戦っていた。
 近接で戦い、嘲るように剣を振るい、傲慢な笑みを浮かべ、ダハークを打ち負かした。
 ダハークはそんなアルフォスに勝つために修行を積んだのである。
 しかし、今回のアルフォスは遠くから矢を射かけるだけで近づいてこない。
 笑っているが、前のような驕りは感じられない。
 確実に勝利を得ようと油断なく行動している。

(この広い場所じゃ奴を捕らえられねえ!!)

 ダハークは前と同じように剣で戦ってくると予想して修行を積んでいたため、戦い方を変えたアルフォスに対処することができなかった。
 ダハークは首を傾げる。
 過去に会ったアルフォスとはまるで違う。
 前に戦ってから今までの間に何かがあったようである。
 しかし、そんな事をいつまでも考えている余裕はない。
 ダハークはムシュフシュに指示して毒雲の量を増やす。
 ムシュフシュは毒雲に乗る事で空を飛ぶことができ、また周囲に広げる事で守りにも使える。
 今回毒雲を増やしたのはアルフォスの攻撃から身を守るためだ。
 そして、この行動はダハークにとって屈辱であった。
 なぜなら、相手に勝つ事よりも負けないようにするための動きだからだ。
 ヴァルジニアスの光のブレスが毒雲を消そうと放たれる。
 その度にムシュフシュは毒雲を増やす。
 攻める事は難しい。
 周囲では配下達が戦っている。
 戦況は良くない。
 すぐにも総崩れになりそうである。
 それでも、持ちこたえているのは相手であるエリオスの男神達の多くが本気で戦ってないからだ。
 真面目に戦っているのは戦神トールズとその配下ぐらいである。
 しかし、それでも配下の数は多くなく苦戦している。

(くそ! ここまでか! そもそも、引き付けるのがボティスの計略! うまくやれよ、ボティス!)

 ダハークは再び歯軋りをするのだった



 エリオスの麓に広がる樹海の木々は大きく巨大な柱が何本もならんでいるようであった。
 その木々は枝を広げ緑の屋根を作る。
 しかし、今その木々が黒く枯れようとしていた。
 原因は蛇女が連れて来た巨大多頭蛇ヒュドラである。
 ヒュドラは毒を吐き、木々を枯らしながら進む。
 そのヒュドラをクーナとシロネは協力して止めようとする。

「なんでこんな巨大なヒュドラいるのよ!」

 シロネが文句を言いながらヒュドラの首の一本を切り落とす。
 しかし、すぐに首は再生されて元に戻る。
 ヒュドラは強力な魔物だ。
 猛毒を持ち、力も強い。
 だが、何よりもその再生力が脅威であった。
 火を使えばその再生力を封じる事はできるが、目の前のヒュドラは通常よりもはるかに大きく、下手に火を使えば森に被害でるだろう。
 クーナとしては森がどうなろうと気にしない。 
 しかし、クロキがそれを望まないので森に被害出ないようしているのだ。

「シロネ! 人間共は離れたぞ!」
「良かった! まさか貴女が協力してくれるとは思わなかったわ!」

 シロネはヒュドラから目を離さずに言う。
 シロネがヒュドラと戦っている間、その被害が及ばないようにクーナは人間の女性達を魔法の盾で守っていたのだ。
 ナオが駆けつけ緑人グリーンマンの協力もあり、何とかヒュドラから引き離す事が出来た。
 後はヒュドラを倒すだけである。
 
(ふん、協力だと笑わせるな、シロネ。元々ドワーフとエルフに協力するのはクーナの役目だぞ。勘違いするな!)

 そもそも、シロネ達がここに来ることをクーナは知らなかった。
 だけど、ここに来ているのなら役に立ってもらおうとクーナは思う。
 現にシロネやその仲間達は蛇女達にとって想定外だったらしく、慌てている。
 人間達を助けたのはシロネ達を有効に活用するためだ。
 もっとも、だからと言って共闘がしたいわけではない。
 それはシロネも同じのようだ。
 互いに相手を嫌っている。

(まあ良い。クロキのためだ。今は共に戦ってやるぞ、シロネ)

 クーナは鎌を構える。
 相手はヒュドラだけではなく、蛇女達もいる。
 しかし、不本意だがシロネと共に戦うのなら簡単に蹴散らせるだろうとクーナは思う。

(問題は蛇女達が何を企んでいるかだぞ)

 クーナは思考を巡らせる。
 狙いはドワーフの里で間違いないはずであった。
 クーナがそこを離れたのはクロキを里に集中させるためである。
 クロキがエルフ達や森の様子を気にしていたため、その心配を取り除くべく、クーナが動いたのである。
 
(こいつらを追い払ったら、急いで戻るべきかもしれないぞ)

 クーナはクロキのいる方角を見てそう思う。
  



 
 戦乙女ニーアは魔法の映像で戦況を見る。
 森の上ではアルフォス率いる聖騎士達が戦っている。
 歌と芸術の神であると同時に最強の聖騎士でもあるアルフォスは蛇の王子ダハークと一騎打ちの最中だ。 戦いは今の所アルフォスが優勢である。
 ただ、以前と比べて慎重に戦っているためか決着はついていない。
 しかし、負ける様子はない。
 そのうち撃退できるだろう。 

「ニーア隊長。チユキ達が来てくれてよかったです。まさかあんな巨大ヒュドラを連れて来ているとは……。想定外でした」
 
 ニーアと同じ戦乙女のソグンが報告する。
 上位の巨大ヒュドラは強力であり、天使でも対処は難しい。
 下手をすると森に大きな被害が出るところであった。
 しかし、チユキ達のおかげで最小の被害で済みそうであった。
 
「本当にそうね。天上の御方の手を煩わせなくて良かったわ」

 ニーアは魔法の映像を見る。
 エリオスの若い男神である彼らほとんどは自身の空船で地上から連れて来た人間の美女達と遊んでいる。
 戦いをする姿ではなく、高みの見物だ。
 強敵は蛇の王子だけであり、アルフォスが抑えているから、問題はなく、彼らが戦わなくても勝つことはできるだろう。
 もっとも、ニーアの主であるレーナは別の感情を抱くに違いなかった。
 ニーアは地上を見る。
 地上ではエルフとドワーフ達がオーク達を打ち破り、追い払っているのが見える。
 手助けする必要はなさそうであった。
 
「でもソグン、油断はできないわ。奴らの狙いは凶獣の復活。エリオスの天宮や地上のエルフの都を狙ったのは陽動のはずよ」
「なるほど、では隊長は奴らの狙いはあくまでドワーフの里だと思っているわけですね。でも、あそこの守りは固いですよ」

 ソグンは笑って言う。
 確かにその通りであった。
 ドワーフの里の守りは固い。
 エルフ達にゴーレムを貸しても、それでもかなりの数が残っているはずである。
 おそらくオークとゴブリンの全軍が向かっても防げるだろう。
 蛇の王子ダハークが向かったらさすがに危ないかもしれないが、アルフォス達がいるので向かう事はない。
 狼達が向かったようだが、オークやゴブリンよりも数が少ないので、脅威ではない。
 心配する事はないはずであった。

(しかし、それだと奴らの行動が不自然だ。わからない? 何を考えているのだろう?)

 ニーアは言い知れぬ不安を感じるのだった。
 


◆黒髪の賢者チユキ

 チユキはボティスと名乗った蛇女と戦う。
 
「中々やるようですね。黒髪の女チユキ」
「そちらもね」

 チユキはボティスに答える。
 ボティスは強いが、戦闘は不向きなようであり、チユキの方が優勢であった。
 出て来たのはチユキ達の存在が予想外で、やむを得ずといった感じである。

「さて、貴方の動きから、どうやら私の意図に気付いているわけではないようですね。少し安心しました」
「へえ、どんな意図があったのかしら」
「ふふふ。それはもうすぐわかります。光の勇者がこちらに来ていないのは間違いない。それが確認できました」

 ボティスは笑う。

(確かにレイジ君は来ていないわ。でもそれがどうしたの?)

 戦況はチユキ達が優勢であり、レイジがいなくても勝てるだろう。
 チユキは首を傾げる。

「さて、そろそろ魔法が発動します。見ていなさい」

 ボティスがそう言った時だった。
 チユキは強力な魔力の波動を感じる。

「魔法の結界!?」

 チユキが魔力を感じた方を見ると、巨大な紫色に輝くドームがある場所を覆っている。
 その方角にはドワーフの集落があったはずであった。

「その通りですよ。黒髪の賢者チユキ。これで、しばらくあの中には誰も入れません」
「どういう事?」
「すでに毒は入り込んでいます。凶獣の復活はもうすぐですよ」

 ボティスは勝ちを確信したかのように笑うのだった。

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 ちょっと展開を変えたので、アルフォス対ダハーク戦です。
 展開を変えると更新が遅くなります……。
 才能が欲しい。

 ちなみにアルフォスが戦い方を変えたのはクロキの影響だったりします(*'▽')

 ノベルバのおススメに転スラが出て来ました。
 実はまだ読んだことがなかったりします……。

コメント

  • cyber

    更新お疲れ様です。
    眠気覚ましが足りない
    黒木は死神との戦いの後に強くなり、アルフォスの氷に似た薔薇園の魔法まで作ってくれたので、次回黒木が勝つと思った。

    1
  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。

    自分の地域では、夜間涼しくなりましたが、日中との気温の高低差が激しくなり、体調を崩しやすくもなりました。

    アルフォスとダハークの戦い、ありがとうございます!
    油断しないアルフォスって、ホントに最強ですね。次はクロキも勝てないかも……。

    0
  • 根崎タケル

    更新です。

    暑さが少し和らいだ気がします。
    眠気覚ましが足りない様。誤字報告ありがとうございます。
    修正しました。

    1
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