暗黒騎士物語

根崎タケル

聖騎士VS死神

 クロキ達と別れたクーナはワルキアの地を進む。

「ちっ! しつこい奴らだぞ!」

 クーナは逃げながら奥歯を噛み締める。
 クーナは隠れるのが得意ではない。
 隠密の得意なティベルと離れてしまったので、簡単に見つかったのだ。
 それでも、今の所捕まっていないのは蝶の力によるところが大きい。
 
(ティベルを連れてくるべきだったか? いや、それだとクロキが危ない……)

 クーナはそんな事を考える。
 クロキも一緒だとティベルを連れていけるが、ザルキシスの配下の中には探知に優れた者もいる。
 もし、見つかり戦闘になればクロキが危険である。
 また、ティベルの危険感知は安全に脱出する進路を見つける事ができるわけではない。
 周囲が現在位置より危険なら、村から出ない方が良いとティベルは言うだろう。
 しかし、何時までもあの村にいるわけにはいかない。
 そのため、クーナはクロキ達と別れ単独行動をしているのである。
 進むクーナの前に幽鬼の騎士スペクターナイト達が現れる。
 クーナはそれを大鎌で斬り裂いていく。
 先程から敵の数が多い。
 どうやら、周囲の亡者達が集まって来ているようであった。
 
「そこで、止まってもらおうか!!」
「ザルキシスか……。早かったな」

 頭上で声を掛けられクーナは上を見る。
 そこにはザルキシスとその配下の亡者達が空を浮かんでいる。

「逃げられると思うな! 冥魂の宝珠ソウルオーブを返せ!」

 ザルキシスは怒りの声を出す。

「馬鹿か、返せと言われて返すわけがないぞ」
「ならば、捕らえて吐かせるまでよ。暗黒騎士は一緒ではないようだな。まあ、どちらにしても同じことよ、さあお前達その娘を捕らえよ」

 ザルキシスが言うと亡者達がクーナを取り囲むように動き始める。

「さあ、大人しくしろ! 我らの主君がお前をお望みだ!」

 幽鬼の騎士スペクターナイト達を先頭に亡者達がクーナに迫る。

「クーナに触れるな! クーナはクロキの物だ! お前達に触れさせるものか!」

 クーナは魔法の盾を周囲に展開して、亡者達を押し返す。
 亡者達は何とか盾を破ろうとするが、びくともしない。

「お前達ごときに破れるものか。このまま逃げさせてもらうぞ」
 
 クーナは魔法の盾を展開したまま移動しようとする。

「何をしている! 馬鹿者が!」
「何!?」

 クーナは慌てて複数の魔法の盾を新たに展開する。
 その直後ザルキシスから飛んで来た何かが、瞬時に5つの魔法盾を打ち貫きクーナを吹き飛ばす。
 飛んで来た何かはザルキシスの腕へと戻る。
 捻じ曲がった剣が伸びてクーナを攻撃したようであった。

(まずいぞ。間違いなくクーナよりも強い……)

 クーナは一瞬で魔法の盾を破壊された事で心の中で慌てる。
 何とか直撃を免れたが、このままでは無防備なので再び魔法の盾を作る。
 このままでは逃げるのは難しい、転移魔法は阻害されている。
 蝶で逃げようにも、転移の距離が短いので、逃げる事は難しい。
 このままではやがて捕らわれるだろう。
 亡者達が近づいてくる。

「ぎゃああああ!」
「ぐううううう!」

 突然悲鳴を上げ、先頭の亡者達が消える。
 一瞬で仲間達が消え去ったので、亡者達が動揺する。

(どうやら間に会ったようだぞ)

 クーナは矢が飛んで来た方向を見る。
 そこには白い竜が飛んでいて、その上に男が立っている。

「大丈夫かな? 姫君?」

 白い竜に乗った男が笑う。

「ぐっ! お前はアルフォス? それにレーナか!?」

 ザルキシスが驚きの声を出す。
 矢を放ったのは白麗の聖騎士アルフォスであった。
 そして、その後ろには天馬ペガサスに乗ったレーナと天使の軍団いる。
 クーナは闇雲に動いていたわけではない。
 クーナはレーナと繋がっている。
 だから、アルフォス達が動いている事に気付いていたのだ。
 レーナはアルフォスを動かし、クーナの脱出を手伝わせる。
 直接クロキを助けた方が早いが、アルフォスの性格を考えたら承知するわけがない。
 部下の天使を助けたからと言って、力を失ったクロキを見逃したりはしないだろう。
 だから、面倒臭いやり方を取らざるを得なかった。

「アルフォス! クーナを助けろ! 美女を助けるのがお前の使命だろう!?」

 クーナが叫ぶとアルフォスは「にっ」と笑う。

「もちろんだよ! 姫君! 任せたまえ!」

 そう言ってアルフォスは弓を構える。
 性格はともかくアルフォスならザルキシスと渡り合えそうであった。
 だから、クーナはアルフォスに押し付ける。

「アルフォス様!? なぜ、あの女を助けるのですか!?」

 アルフォスの側の女天使が言う。

「よくわからないけど、暗黒騎士は君を助けたそうじゃないか? 暗黒騎士が僕の部下を助けたのに、僕が彼女を助けないのは負けた気がするとは思わないかい?」

 アルフォスは連続で矢を放ちながら答える。
 その言葉から、クーナはクロキが助けた天使達が無事アルフォスと合流できた事を知る。

「礼は言わないぞ、アルフォス! こちらもお前の部下を助けたのだからな!」

 アルフォスに向かって叫ぶ。
 クーナは助けられて当然の存在だ。
 だから、こいつに感謝することはない。

「わかっているさ! 姫君! ザルキシスは僕に任せてくれたまえ! さあ行くよ、ヴァルジニアス! 害虫駆除の時間だ!」

 アルフォスが言うと白い竜ヴァルジニアスが咆え、天使達が攻撃体勢を取る。

「なめるな! 若造があ!」

 ザルキシスの怒りの咆哮。
 聖騎士と死神の戦いが始まる。
 しかし、そんな事はクーナにはどうでも良い。
 アルフォスがザルキシスを引き付けている間にヘルカートの所に向かう。

(待っていろ、クロキ!)

 クーナは急いでその場を離れるのであった。





 レーナの目の前でクーナが離れていく。
 亡者達の何割かが追いかけているが、あの程度なら振り切れるはずであった。
 ザルキシスと死の御子がこちらを見ている。
 
「アルフォス。ザルキシスは強敵だと聞いているわ。大丈夫なの?」

 かつての争いの時、レーナとアルフォスは直接ザルキシスと戦った事はなかった。
 しかし、その強さは聞いている。
  
「さあね、やってみるしかないよ。レーナ。君は死の御子をお願いするよ」
「わかったわ」

 レーナはザルキシスの側にいる者達を見る。
 死の御子で最強のザファラーダはいないみたいなので、倒せなくてもアルフォスとザルキシスの戦いの邪魔をさせるつもりはない。

「さあ、行くよ! みんな! ザルキシスを倒すんだ!」
 

 ◆

 クロキがこの村に来てからかなりの時間が経過する。
 村の外は少し騒がしい。
 どうやら、この地に侵入した人間をまた捕えて来たようであった。
 彼等はなぜか殺さず。捕えただけに止めている。
 後で助けに行くべきかもしれない。
 ティベルの話ではこの村の大人達の一部は捕えた者達の世話をするために、領主の城へ行っているらしい。
 そのため、子ども達の監視が緩くなっている。
 おかげでウェンディがこの廃屋に頻繁に来る事ができる。
 ウェンディは頻繁にここに来てクロキの話を聞きたがる。
 しかし、今日は遅いような気がする。

「クロキ様~。大変です~」

 ティベルが叫びながら戻って来る。
 彼女はウェンディと一緒にいたはずだ。

「どうしたの? ティベル? ウェンディは一緒ではないの?」

 ティベルはウェンディの協力で、この村の事を調べていた。
 ここに戻る時は一緒に来る事が多い。

「それが~。クロキ様~。あの下僕の人間が連れ去られたのです~」
「ええっ!? ウェンディが!?」

 ティベルの言う下僕の人間とはウェンディの事だ。
 すごく懐いているのに下僕扱いは可哀そうだとクロキは思うが、今はそんな事を言っている場合ではない。

「どういう事だろう? もしかして、ウェンディは危険な状況になっているんじゃ?」
「いえクロキ様~。あの下僕はどうでも良いです~。ただ、食事の調達が難しくなったのですよ~」

 ティベルの悲しそうな言葉を聞いてクロキはこけそうになる。
 ティベルにとってウェンディの身よりも、食事の方が心配なのだろう。

「……そうだね。大変だね。ところでティベル。ウェンディはどこに連れて行かれたのかわかる?」

 クロキは身を起こしてティベルに聞く。

「はい。それならわかりますです~。クロキ様~。他のチビ人間達と一緒に城へ連れて行かれたです~」
「他の子ども達も?」
「はいです~。全員連れて行かれたです~。これから食事が手に入りにくくなるですう~」

 他のチビ人間とは迷子の家の子供達の事だ。
 それが全員も連れて行かれた。

(どういう事だろう? ウェンディが連れ去られるなんて。嫌な予感がする)

 クロキは状況を考える。 

「動いた方が良いかもしれないな……」

 クロキは窓の外から城を見る。
 城は相変わらず不気味だ。確実に亡者共が巣食っているだろう。

「動く? もしかして、下僕を助けに行くのですか? えー! それは駄目ですよ~。クロキ様~。まだお体が回復していないのですよ~」

 ティベルはクロキの周りを飛び回り慌てる。
 確かにティベルの言う通りであった。
 体はまだ回復していない。
 見捨てるのが正しいかもしれないともクロキは考える。
 だけど、これぐらいで駄目だと思うのなら、最初からレイジと戦ったりしない。
 そもそも、常に万全な状態で戦えるわけがない。
 
(戦いか……。あの時からだな、決意をしたのは)

 クロキはこの世界でレイジと戦った時の事を思い出す。
 あれがクロキのこの世界での生き方を決めたと言って良い。
 行きつく先は破滅かもしれない。
 しかし、戦うべき時に逃げて生き延びても、それで生きて何になるというのだろう。
 もちろん、無駄な戦いはするべきではない。
 だけど、あのウェンディという少女を見捨てるべきではないとクロキの心が訴えているのだ。

「ごめんね、ティベル。ここで退いてはいけないんだ。だけど、出来る限り、無謀な事はしない。約束するよ」
「うう~。そうですか~。わかりました~。おともするです~」
「ありがとうティベル。それじゃあ行こうか」
 
 クロキはティベルを連れて行動をすることにするのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★

 更新しました。
 短いです。休み明けの木金土が忙しくて潰れました…(´;ω;`)ウゥゥ

 アルフォスVSザルキシスも書くべきかもしれませんが……。
 良い戦闘シーンが思い浮かばなかったりします(´;ω;`)ウゥゥ

コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    更新お疲れ様です。

    とうとう大型連休も終わりましたが、先生も通常業務に戻られたのでしょうか?

    なろう版と違ってアルフォスと一緒にレーナがいましたね。
    しかし、レーナがペガサスに騎乗しているとは。
    そんなイメージは無かったですね。アルフォスの竜に同乗しているくらいはあると思いましたが。
    まぁ、白い竜よりもレーナは黒い竜に乗る方が意外と映える気もします。


    修正報告です。

    なぜ、を助けるのですか!?

    “を”の前にクーナを指すであろう言葉が抜けてます。
    あいつ、あの女、彼女と候補はありますが、天使は魔王側の神を何と呼称するのでしょうね。


    「他のチビ人間も?」

    「他の子供達も?」

    クロキは“チビ人間”なんて言葉づかいしないかと。

    0
  • 根崎タケル

    更新しました。
    ノベルバユーザー417318様誤字報告ありがとうございます。
    修正しました。

    0
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