暗黒騎士物語

根崎タケル

特訓

 朝になり、クロキはシロネ達と共にアリアディア共和国の郊外へと向かった。
 街道から外れているのでクロキ達以外に人はいない。
 それでも念のために結界を張って外からの干渉を防ぐ事にした。
 どこぞの物好きが街道から外れて近くに来る可能性もあるからだ。
 結界の中は外から魔法で見る事も出来ず、誰かが入って来たらすぐに気付く事ができる。
 魔物が近くにいない事も確認済であり、練習する環境は整ったというべきだろう。
 クロキは少し顔を反らしキョウカと向き合う。
 近くにはシロネとカヤとレーナとリジェナがいる。

「よろしくお願いしますわ、クロキさん」

 キョウカが意気込むとお辞儀をする。
 今は名もなき鉄仮面の戦士なのだが、面倒くさいので訂正はしない。

「ええと、その……。こちらこそ、よろしくお願いします」

 クロキもお辞儀をする。
 キョウカは現在レオタードのような服を着ている。
 ぴったりと張り付いた衣装のためか、キョウカの体の線がはっきりとわかる。
 スタイルが良いので、かなりエロい恰好になっている。
 そのためクロキはキョウカをまともに見れずにいる。
 横を見るとシロネとカヤから厳しい視線を向けられている。
 またレーナからも不機嫌そうな視線を向けられているのをクロキは感じていた。

(そんな視線を向けられても、こんなのエロい目で見てまうやん)

 クロキはシロネ達にそう抗議をしたくなる。
 当のキョウカは特に恰好を気にしている様子はない。

「それでは、クロキさん。どのような特訓をするのですか?」
「ええと……」

 クロキは考える。
 正直に言ってどうすれば良いのかわからないのだ。
 クロキは安易な気持ちで引き受けた事を後悔する。
 見たところキョウカは魔法を使う時に力を入れすぎている。
 そのため魔法が暴発するのだ。
 しかし、力を入れすぎないようにと言ったところで出来るのなら苦労はしない。
 それが出来ないからキョウカは魔法が使えないのだ。

(自分に出来る事があるのだろうか?)

 クロキはそう思うと初めてキョウカの顔を正面から見る。
 そこで気付くキョウカの目が真剣である事に、本人はすごく真剣なのだ。
 その目を見た瞬間クロキの中からいやらしい気持ちが消えていく。

(相手は真剣な思いをしているのに、不純な気持ちを持っていたらだめだ。自分にどこまで出来るかはわからない。だけど、練習に付き合う事はできる)

 クロキは気持ちを切り替える。
 教えられる事はない。
 だけど、キョウカの魔法の練習に付き合う事は出来る。
 後はキョウカ自身が魔法を使う感覚を身に付けるしかない。
 そう考えたのだ。
 魔法が暴発する事から、キョウカはまともに練習をした事がない様子である。
 だから、その練習にとことん付き合う事にしたのである。

「じゃあまずはあそこにある岩に攻撃魔法を使ってみて」

 クロキは少し離れた場所にある岩を指さす。

「はい。わかりましたわ」

 キョウカは意識を集中して魔法を使おうとする。
 しかし、相変わらず力が入り過ぎている。
 
「魔法消去!」

 クロキは暴発する寸前でキョウカの魔法を打ち消す。

「あ、ありがとうございます。クロキさん」
「気にしなくて良いよ。暴発しそうになったら、自分がその魔法を打ち消す。だから安心して魔法を使って欲しい」
「はい!」

 キョウカは再び返事をすると魔法を使おうとする。
 クロキとキョウカの特訓が始まったのだった。 



  
 シロネから少し離れた場所で鉄仮面を被ったクロキとキョウカが向き合っている。
 クロキは少し顔を反らしているが、その視線がキョウカの胸元に向いている事をシロネは見逃さない。

「ねえ、カヤさん。キョウカさんのあの格好はどうなの?」

 シロネはキョウカを指さす。
 キョウカはレオタードのようなものを着ている。
 スタイルが良いため、かなりエロティックだ。
 シロネとしてはクロキには見せたくない。 

「私としては体の線を隠す道着を勧めたのですが、お嬢様がお気に召さず、やむなくあのような格好になりました」

 カヤが溜息を吐く。
 カヤとしても不本意らしい。
 ちなみにカヤが勧めたのはだぶだぶの柔道着のような服だ。
 あまりにもダサい服だったのでキョウカが拒否してしまった。
 レオタードのような服は過去に運動着として作らせた1つで、カヤもまさか使うとは思っていなかったのである。
 ちなみに持ち込んだのは新たに来た侍女達だ。
 彼女達が持ち運ぶものを選別した結果、あのレオタードも含まれていたのである。

「私もあの格好は良いとは思えません」

 側にいたレーナが不機嫌そうな声を出す。
 ヴェールを被っているのでシロネからは表情はわからない。
 だけど、険しい顔をしているみたいだ。
 レーナとしてはクロキにキョウカを近づけたくないようだ。

(まあ、レーナから見たらクロキは敵だものね。レイジ君を助けるために仕方なく現状を受け入れているんだよね)

 シロネはそう判断する。
 しかし、シロネもクロキとキョウカが近付く事に、何かもやもやした気持ちが生まれていた。
 特にクロキがキョウカにいやらしい視線を向けるとなぜか怒りがこみ上げてくるのだ。
 レイジが他の女性と仲良くしても何も感じないにも関わらずだ。

「あれ?」
「あら?」

 突然シロネとレーナが驚きの声を出す。
 
「どうなされたのですか?」

 カヤが不思議そうにシロネを見る。
 
「雰囲気が変わったわね」

 答えたのはレーナだ。
 その言葉にシロネも頷く。
 突然クロキの雰囲気が変わったのだ。

「旦那様が修行をなさっている時と同じ感じがします」

 リジェナが言う。
 リジェナも気付いたみたいであった。

「そうだね。どうしたんだろう? 急に真面目な雰囲気になった」

 シロネはクロキ達を見る。
 キョウカが魔法を使い、暴発しそうになったのをクロキが魔法で消去する。
 魔法消去はシロネ達の中ではチユキだけが使う事が出来る。
 クロキも同じ魔法が使えるようであった。

「これなら、思う存分に魔法の練習が出来ますね」

 カヤが言うとおりである。
 シロネ達の目の前で2人は練習を始める。
 その雰囲気は真剣であった。
 
「これは、どう考えたら良いかわからないわね」

 レーナが少し溜息を吐く。
 その声から不機嫌な感じは消えてしまった。
 シロネにはレーナの内心はわからない。だけど、シロネもなぜかもやもやした気持ちが少しだけ和らぐような感じがした。
 練習は始まったばかりだった。



 シズフェ達は自由都市テセシアに戻るために再び河船に乗る。
 時刻はとうに昼を過ぎている。
 夜になるまでにテセシアに辿り着かなくては危険だった。
 リザードマンは人間が夜に弱い事を知っている。
 だから、主に夜に活動する事が多いようなのである。
 しかし、油断はできない。だからこそシズフェ達のような自由戦士を乗せるようになったのである。
 一刻も早くリザードマン達を退治しなければ河船商人達の出費が大変な事になるだろう。
 シズフェ達は昼食を取りながら、甲板の上でゼファの説明を聞く事にする。
 昼食は携帯用の堅パンと干果とチーズだ。
 船の上では火を使わないのが原則のため、このような食事になってしまう。

「迷宮の近くにはいくつもの祠があるのは知っているだろう? 河に近い祠の近くにリザードマン達が住みついているみたいなんだ」

 甲板の上でゼファが説明する。
 今説明しているのは昨晩は宴会になってしまったからだ。
 ゼファの奢りであり、シズフェも昨晩は鴨ローストを御馳走になった。
 ただ、宴会中やたらとネフィムが触ろうと手を伸ばしてくるので、シズフェは困る場面が多かったりもした。
 もっとも、そこまでしつこくしてこなかったので問題はなかった。
 しかし、ノヴィスやゴーダンが飲み比べをしたので朝になってもなかなか起きず出航が遅れてしまった。
 どのみち、迷宮に行くのならテセシアで一泊する必要があるので、問題はない。
 夜に行くことも可能だが、視界が悪くなるので無理をする事はできない。

「ふーん。どこでその情報を手に入れたんだゼファ?」
「何だ、知らないのかケイナ。自由戦士協会が公表している。情報通なら誰でも知っているぜ。ただ、人が寄らない場所だから、多くの人間は知らないみたいだ」
「えっ、でも? それなら誰かがすでに退治に行っているんじゃ」

 マディが疑問を投げかける。
 シズフェも頷く。もっともな事だ。

「それがな大勢で行くと奴らはすぐに河の中に逃げるんだ。そこら辺の自由戦士じゃリザードマン達の相手にはならねえ。少数精鋭で行くしかない」

 ゼファはそう言って全員を見る。
 正直に言うと必要なのはノヴィスとゴーダンであり、シズフェは数合わせだろう。
 もちろん実力では敵わない事を知っているので、特に何も言わない。

「わかったぜ、そういう事なら手を貸してやる。シロネ様に良い所を見せる機会だぜ」
「助かるぜ、火の勇者。取り合えず今夜はテセシアで一泊。明日の早朝に向かうぞ」

 ゼファの言葉にゴーダンもネフィムも頷く。
 シズフェは少しだけ先行きを不安に思うのだった。



「やった、やりましたわ!」

 クロキの横でキョウカが喜びの声を上げる。
 キョウカが放った魔法によって岩は正確に打ち砕かれていた。
 強すぎず弱すぎず、完全に成功だと言えるだろう。
 これで連続4回成功である。
 どうやら、魔法を使う感覚を習得したようだ。
 すでに時刻は夕方であり、朝からぶっ続けで練習してようやくである。 

「これだけ、連続で成功をしたのなら、魔法を使いこなせたと言って良いと思います」
「ありがとうございますわ! クロキさん!」
「いえ、自分は練習に付き合っただけですので……」

 クロキは首を振る。
 実際にクロキがしたのはキョウカの練習に付き合う事だけだ。
 成功したのはキョウカの努力である。
 朝から成功するまで練習した。
 見かけによらず根性のあるお嬢様だとクロキは思う。
 おそらく、かなり芯が強いのだろう。

「そんな事はないですわ! クロキさんのおかげです!」

 キョウカが潤んだ瞳でクロキの手を取ろうとする。
 しかし、その手はいつのまにか側に来た者によって遮られる。

「やりましたね、お嬢様。さすがです」

 カヤがキョウカの手を取って言う。
 能面のように表情を見せないのに今は感動したような顔になっている。
 クロキの横で主従が抱き着く。
 
「まさか、まだやっているとは思いませんでした」

 レーナが側に来て呆れたように言う。
 レーナは飽きたのか昼前にこの場を離れ、つい先ほど戻って来たばかりだ。

「まあ、練習なんて地味なものです。ですが、継続して行う事で得られるものは何物にも代えられないと思います」
「そうかしら? 私にはわからないわね。まあ、良いわ。それよりも、ヘイボスから連絡が入りました」

 レーナは懐から紙を取り出す。
 クロキは受け取るとそれは地図のようであった。
 
「これは?」
「ヘイボスの話では迷宮の結界は外から制御できるそうです。迷宮の周囲にある祠にその制御できる場所があるそうです」

 そう言うとレーナは地図のある一点を指す。
 そこは迷宮から少し離れた河の近くであった。
 レーナは続けて説明する。
 鍛冶の神ヘイボスはラヴュリュスに内緒で迷宮を外から制御するようにした。
 もっとも、それは完璧ではないがある程度迷宮を無力化する事ができる。
 続けてレーナは迷宮の構造を詳しく書いたもう一つの地図を渡す。

「なるほど、これなら迷宮を攻略できそうです。明日にでもその祠に行ってみます」

 クロキはそう言って地図を眺める。

「お待ちください。その地図を見せていただけませんか?」

 キョウカと喜んでいたカヤがこちらに来る。
 カヤは地図を見ると首を傾げる。

「この場所は確かリザードマンの住みかになっているはずです。パシパエア王国の事がなければ退治をしているはずでした」
「それなら私が退治をしてあげますわ」

 カヤが言うとキョウカが退治を立候補する。
 覚えたての魔法を使いたいようであった。

「いえ、自分だけで行きます。出来ればリザードマン達とは穏便にすませたいので……」

 クロキは首を振って言うとレーナとキョウカは意外そうな顔をする。
 レーナとキョウカにとってリザードマンはただの魔物であり、害獣と同じものと見ている。
 それはレイジやシロネも同じだろう。
 しかし、魔王に召喚されたクロキとしてはレイジ達と同じ視線で魔物を見る事が出来なかった。
 それにリザードマン達の事は聞いている。
 闘技場の無理やり戦わせるために連れてこられたのだ。争いを避けられるのなら避けたいと思う。

「あの……。皆様そろそろ日が暮れます。戻りませんか」

 側で聞いていたリジェナが声を出す。
 クロキは頷く。
 日が暮れる。常夜のナルゴルで暮らしているクロキには関係ない話だが、キョウカ達は戻った方が良いだろう。

「そうですねリジェナさん。シロネさんを起こしてそろそろ戻りましょう」
 
 カヤが少し離れた場所ですやすやと寝ているシロネを見て言う。
 練習を見ているのが退屈だったのかシロネは午後からずっと寝ている。
 そろそろ起こした方が良いだろう。

(とりあえず明日は祠に行こう)

 クロキはそんな事を考えるのだった。


★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 オリジナル要素を入れるとどうしても筆が遅くなります。
 また、精神的なダメージを受ける事件もあります(´;ω;`)ウゥゥ
 それでも、創作活動が出来る事は幸せな事なのだと思うので、
 頑張って続けていこうと思います。

コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    カクヨムで“特訓”の再読中に見つけた修正点を報告します。

    それでも念のために結界を張って外からの干渉を防ぐ事にした

    句点忘れてます。

    0
  • 岩野こま

    とても面白くて一気読みしてしまいました!!

    0
  • ゼノン

    どうもです!
    ゼノンです!

    この作品大好きです。
    とっても面白いですし、大好きです!!

    2年前から読んでますが、やっぱり面白いです。漫画とかも出てくるんですか?画像があったんですけど?

    後々、僕もストーリーを書いているので出来れば読んでください。
    作品名は最強魔神の封印解除です。

    次の話も楽しみです。

    頑張ってください!!

    2
  • ノベルバユーザー318854


    迷宮の周囲にある祠にその制御できる場所があるそうです

    迷宮の周囲にある祠にその制御をする装置があるそうです

    鍛冶の神ヘイボスはラヴュリュスに内緒で迷宮を外から制御するようにした。

    鍛冶の神ヘイボスはラヴュリュスに内緒で迷宮を外から制御できるようにしていた。

    闘技場の無理やり戦わせるために連れてこられたのだ。

    闘技場で無理やり戦わせるために連れてこられたのだ。

    そうですねリジェナさん。

    そうですね、リジェナさん。

    0
  • ノベルバユーザー319174

    頑張って下さい。応援してますよー。

    0
コメントをもっと見る / 書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品