暗黒騎士物語

根崎タケル

迷宮都市ラヴュリュントス5 迷宮の魔物達

 シズフェ達は迷宮を進む。
 後ろには光の勇者レイジ達が続いている。
 案内で役に立っていない以上、弱い敵はシズフェ達が相手をする予定である。
 そんなシズフェ達の前に巨大蝙蝠ジャイアントバットの群れが現れる。

空気弾エアバレット!!」

 魔法で空気の塊をマディが放つ。
 これにより巨大蝙蝠は方向感覚を失ってふらふらしだす。
 そこをシズフェとケイナが落していく。
 これぐらいの魔物ならシズフェ達でも相手が出来る。
 
(この程度は私達が頑張るべきだ。こんな雑魚相手にレイジ様の手を煩わせる必要はない)

 シズフェはそう思いながら剣を振るう。
 右から来たゾンビをノヴィスとレイリアとノーラが倒す。
 通常攻撃が効かないゾンビは面倒くさい相手だが、レイリアの魔法でなら消滅させる事ができる。

「止まるっす! シズフェさん!!」

 突然ナオの声にシズフェは止まる。
 振り向くと半分獣のような姿になったナオがシズフェ達の向こう側を鋭い目で見ている。

「何か来るっすよ……」

 ナオが壁の割れている部分を指差す。そこから巨大な目玉が出て来る。
 その目玉には視神経のような触手がついていて気持ち悪く蠢いている。
 目玉はゆらゆらと宙に浮いていて近づいて来る様子であった。

「イビルアイ!!」

 シズフェは叫ぶ。

(まずい逃げないと)

 そう思いシズフェは逃げる準備をする。
 イビルアイはシズフェ達には強敵だ。倒す事はできない。
 ただ、イビルアイはこちらが手を出さないと見逃してくれる時が多いので、生存率は高い。
 しかし、目の前のイビルアイはシズフェ達を真っすぐに見ている。
 逃げられそうにない雰囲気であり、シズフェの背に汗が流れる。 

「光よ! みんなに守りを!!」

 シズフェの耳に聖女様の声が響く。
 そして次の瞬間、イビルアイの目玉が光る。
 シズフェは思わず顔を手で覆う。
 イビルアイの眼光を浴びると体が動かなくなってしまう。
 恐る恐る目を開けるが何ともない。
 シズフェの周りを光の粒が舞っている。

(危なかった。どうやら聖女様が魔法で守ってくれたみたい)

 シズフェが周りを見ると仲間達も無事なようであった。

「下がりなさい、シズフェさん」

 賢者チユキが前に出る。

「賢者様! イビルアイは耐魔力が高いです。魔法では倒せません!!」

 マディが忠告する。
 イビルアイは魔法に強い。ここは魔法では無く剣で戦うべきだとシズフェも思う。

「大丈夫よ、見てなさい。爆裂弾バーストバレット!!」

 チユキの前に赤い光球が現れるとイビルアイに向かって行く。
 そしてイビルアイに当たると爆発して目玉を完全に破壊する。

「嘘……魔法で倒すなんて……」

 マディが信じられないという顔をする。

「おっと、まだ来てるっすよ」

 ナオが今度は別の方向を指す。
 シズフェが見ると天上から何かが染み出してくる。
 その粘液状の何かは蠢き近づく。
 スライム。
 そう呼ばれる魔物である。

「今度はリノがやるね。サラマンダーさん、お願い!!」

 リノがそう言うと、その手から火を纏ったトカゲが出てくる。
 サラマンダーと呼ばれる下位の精霊である。
 サラマンダーは口から火を吹きだすとスライムを焼き尽くす。

(あの色のスライムは過去に見た事があるが凶悪な酸を出して来る危険な相手だ。レイジ様の奥方様達は一瞬にして2匹の魔物を倒してしまった)

 シズフェは凶悪な魔物を簡単に倒した2人に驚く。

「それじゃ先に行こう」

 レイジがそう言うと彼の仲間達は歩き始める。
 まるで何事もなかったかのようであった。

「すげえな……。あっさり倒しちまった……」

 ノヴィスが呻くように呟く。
 シズフェもそれを聞いて頷く。
 黒髪の賢者チユキ。
 白の聖女サホコ。 
 妖精の舞姫リノ。
 探知能力に優れたナオ。
 そして、彼女達を束ねる光の勇者レイジ。
 いずれも美しさと強さを兼ね備えた者達だ。
 シズフェは世の中にこれ程の人達がいるとは思わなかった。
 彼らに勝てる者がこの世にいるのだろうかとも思う。
 レイジ達は堂々と先へと進む。どんな魔物も彼らを止める事はできないだろう。

「私達も行こう」

 シズフェが言うと仲間達が頷く。
 そして、また先へと歩き始めるのだった。





 勇者レイジとその仲間達が先に進んだ時だった。
 前方で激しく戦う音がする。
 急いで、その場に駆け付けると広い空間に出る。
 その広い空間ではゴーダン率いる自由戦士達が魔物の群れと戦闘中である。

「おおおおおお!!」

 ゴーダンの雄叫びが木霊する。
 ゴーダンはブレムミュアエと戦闘中だった。
 ブレムミュアエの盾とゴーダンの斧がぶつかる。
 ブレムミュアエはゴーダンの斧を弾き返すと剣でゴーダンを攻撃する。
 ゴーダンはそれを後ろに下がって避ける。
 なかなか良い勝負をしているなとチユキは思う。
 だけどゴーダンの方がやや押されているみたいであった。
 ブレムミュアエの体は2メートルあり、巨体のゴーダンと同じ位だ。
 ゴーダンの周囲では自由戦士達がオークやゴブリンと戦っている。
 戦況は自由戦士達が押されている。
 ゴブリンの数は多い上にブレムミュアエがかなりの強敵のようである。
 ゴーダンとブレムミュアエの側に自由戦士達が倒れている。
 良く見ると中には鎧や盾が溶けている者がいる事から、ブレムミュアエとゴーダンの戦いに巻き込まれたようだ。
 ゴーダンが離れるとブレムミュアエがお腹の口を開ける。

「糞がっ!!」

 ゴーダンは巨大な盾を構える。
 ブレムミュアエは口から液体を吐き周囲に何かが撒き散らかす。

「ぐわああああああ!!」

 ゴーダンは盾で防いだが後ろにいた自由戦士がブレムミュアエの口から出た物を浴びる。
 液を浴びた自由戦士の体から煙が出て叫び声を上げる。鎧ごと溶かしているみたいだ。
 ゴーダンの盾が無事なのはおそらく魔法がかかっているからだろう。
 弓を持つ野伏と魔術師がゴーダンを援護する。

「こりゃやばいっすね……」
「そうね、このままだとやられるわ」

 チユキはナオの言葉に頷く。
 ナオの言う通りこのままだと負ける。
 ゴーダンは善戦しているがブレムミュアエの力に押し切られている。
 それでも他の自由戦士とは違い戦えているだけ、さすがは地の勇者と言うべきだろうか?
 でも、もうもたないだろう。手助けをするべきであった。

「ここは俺が行こう。ここまでほとんど何もしていないからな」

 レイジはそう言うと、前に出て剣を抜く。
 余裕の表情である。
 それも当然。あれくらいならレイジは一撃で倒せるだろう。

「いくぜ、閃光烈破!!」

 レイジは素早い動きで間合いを詰めるとブレムミュアエを光速の連続攻撃で斬り裂く。
 体を細切れにされたブレムミュアエはそのまま崩れていく。

「すげえ……」
「剣閃がまったく見えなかった」
「これが光の勇者の力」

 それを見た自由戦士達が感嘆の声を上げる。

「もうしわけございやせん、光の旦那」

 助けられたゴーダンが近寄り頭を下げる。
 サホコが怪我をした自由戦士達を治療する。
 先行していた自由戦士達はほとんどが動けなくなり、まともに動けるのはわずかであった。

「レイ君、チユキさん。あの……」

 治癒魔法を使っていたサホコが言いにくそうにレイジとチユキを見る。

「わかっているわサホコさん。もうそろそろきついみたいね。どうするレイジ君?」

 チユキはレイジを見る。
 サホコの言いたい事をチユキは察する。
 優しいサホコは犠牲者をこれ以上は出したくないのだ。

「そうだな。シズフェ達もこれ以上付き合わせるのはきついみたいだし、後は俺達だけで行くか」

 レイジはシズフェを見る。
 これ以上付き合わせればシズフェ達は死ぬかもしれなかった。
 撤退させるしかないだろう。

「ごめんなさい、レイジ様。最後まで案内できなくて……」

 シズフェがレイジに謝る。

「気にするなよ。そうだな、帰ってきたら一杯付き合ってもらおうか。出来れば2人っきりでね。良いかな?」

 レイジは爽やかに笑いながら言う。

「はい、ぜひご一緒に」

 シズフェは嬉しそうに言う。
 これで帰った時の楽しみができたみたいだとチユキは苦笑いを浮かべる。
 シズフェ達とゴーダン達は来た道を戻る。
 後にはチユキ達だけが残された。

「ここからは私達だけよ。ナオさんこの道であっている?」
「間違いはないと思うっす。明らかに自由戦士じゃない人間がここを通った匂いがするっす」

 ナオは周囲の匂いを嗅いで答える。

「じゃあ連れ去られた人がこの先にいるのかな?」
「多分そうだろうな、サホコ。問題はどこまで潜らなくてはいけないかだ」

 レイジが真剣な顔で言う。確かに地下迷宮はどこまで続くのかわからない。
 最悪、一番奥まで行かなくてはいけないだろう。

「う~ん、リノとしては、そろそろ帰りたいな。何だか嫌な感じがする」

 リノが不平を言う。
 しかし、その言葉を誰も注意しない。
 誰もが嫌な感じがしているのだ。もちろんチユキも。

「よし先に進もう」
 
 レイジの言葉で仲間達が動く。
 
(後少し進んで戻った方が良いかもしれない)
 
 チユキはそんな事を考えるのだった。

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コメント

  • ラピュタ

    あ、あれ?
    ナオだけ二つ名ないやん

    0
  • 眠気覚ましが足りない

    お疲れ様です。
    自分もこれから仮眠します。
    移動が終わったので。


    誤字報告です。

    最悪奥まで行かなくてはいけないだろう。

    最悪、一番奥まで行かなくてはいけないだろう。

    そして、その言葉を誰も注意しない。

    しかし、その言葉を誰も注意しない。

    誰もが嫌な感じしているのだ。もちろんチユキもだ。

    誰もが嫌な感じがしているのだ。もちろんチユキも。

    (戻った方が良いかもしれない。後少し進んで)

    (確かに戻った方が良いかもしれない。けど、もう少し進んでから)

    最後はチユキっぽく。
    あくまで自分が思うチユキなのですけど。

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  • 根崎タケル

    4章続きを更新しました。
    今から寝ます。

    ノベルバユーザー279719様、眠気覚ましが足りない様。
    誤字報告ありがとうございます。

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