暗黒騎士物語

根崎タケル

迷宮都市ラヴュリュントス1 丘の上から

 自由都市テセシアのすぐ近くの丘の上にレイジとチユキ達は登る。
 ミノン平野は平らな場所が多く、数少ない丘に登ると遠くまで見渡せる。
 遠くには建造物が立ち並んでいる。

「あれが迷宮都市か。あの中にエウリアは連れ去られたんだな」
「そうよレイジ君。それにしても何て大きさなのかしら」

 チユキは丘の上から迷宮の地表部分を眺める。
 迷宮都市ラヴュリュントス。
 それがチユキの目の前に広がる都市の名だ。
 ミノン平野の中心にあり、その地下には何層にも迷宮が広がっている。
 この迷宮都市は人間の住む場所ではなく、多くの魔物が住みついている。
 そして、その魔物達の中で迷宮を支配しているのが牛頭人身の魔物ミノタウロスである。
 しかし、そのミノタウロス達は迷宮に奥に入ったままほとんど出て来る事はない。
 ただそれでも時々ミノタウロスが他の魔物を連れて這い出てくる事がある。
 そもそも、自由都市テセシアはそのミノタウロス達に対応するために作られた。
 テセシアの自由戦士は魔物退治のために迷宮に入るが、奥まで行って帰って来た者はいない。
 私達は今からその迷宮に入ろうとしている。
 この迷宮は地下に広がっているらしく、どれくらいの規模なのかはわからない。
 だけどかなり巨大な迷宮のようである。
 すでに地表に出ている部分だけでもテセシアよりも大きい。

「ナオさん、あなたはどんな感じ?」

 チユキはナオに聞く。
 ナオは胸にネズミを抱えながら迷宮を見ている。
 ネズミを連れているのは預けられる所が見つからなかったからである。
 どこかで逃がしてあげるべきだとチユキは思うが、ナオはネズミを気に入っているためか手放そうとしない。
 まあ、いつか飽きるだろうとチユキは諦める。

「無理っすね……。全体に結界が張られているっす。何もわからないっす」
「そう……。私の魔法もダメ。やっぱり、結界の中に入らないといけないわね」

 この迷宮の地表部分全体が魔法による結界が張られているため、ナオは中を感知する事ができない。
 また魔法の霧で覆われていて中も見えにくい。
 チユキも透視クレアボヤンスの魔法で中を見ようとしても駄目だった。

「あんまり、良い感じがしないなあ」
「リノちゃん。わがまま言っちゃダメだよ。確かに良い感じがしないけど」

 地下等の暗い場所が嫌いなリノが嫌そうな顔をするとサホコが注意する。
 2人は行きたくなさそうであった。

「ねえ、早く行こうよ。捕まった人たちが心配だよ」
「シロネさんの言う通りですわ。はやく行かないと大変な事になりますわよ」

 シロネとキョウカが早く行こうと促すと、チユキは溜息を吐く。
 リノやサホコと違い2人はやる気のようであった。

(まさか、今回はキョウカさんも来るなんて……)

 チユキは頭を悩ませる。
 今回はキョウカを説得できなかった。
 キョウカもやる気だったし、レイジもいつまでも後方に待機させるのはどうかと思ったのか、反対しなかったのだ。
 もちろん、危なくなったらすぐに下がらせる予定であるが、それでも心配である。
 キョウカの後ろにいるカヤも心配そうな顔をしている。
 彼女もキョウカを止める事は出来なかった。
 しかし、今更止めるのも難しい。
 そもそも、危険なようならチユキ達も撤退しなければならない。

「そうだな。そろそろ行くか」

 レイジが後ろを見ると自由戦士達が集まっている。
 その先頭にいるのは女戦士シズフェとその仲間達だ。
 チユキもシズフェ達を見る。
 シズフェの仲間は5人。
 全員女性だ。
 男ばかりの自由戦士の中ではかなり珍しいと言える。
 黒い髪に褐色肌、背中に槍を背負った女戦士のケイナ。
 彼女はシズフェと同じように軽装備である。剥き出しの手足がとても健康的だ。
 おそらく腕力で正面から戦うタイプではなく、素早い動きで相手を翻弄する戦い方をするのだろう。足がすらりとして、いかにも素早そうだ。
 魔術師の格好をして童顔で一番背の低いのはマディアと言うらしい。格好からわかるとおり魔術師のようだけど、あまり強い魔力を感じない。
 しかし、この人間の世界では魔術を使える者は希少である。
 魔力が弱くても仲間に魔術師がいる方が良い。それにマディアという女の子は可愛いので、誰もが仲間にしたくなるだろう。
 そしてレーナ神殿に仕えるレイリアと言う司祭は使徒であるらしかった。
 天使の声を聞いたと言っていたから、おそらくレーナではなく、レーナに仕える天使の誰かが彼女を使い魔にしたようだ。
 天使の使徒となった彼女は治癒魔法が使えるみたいだ。また、メイスと盾を持っている所から直接戦闘もできそうである。
 ただ使い魔である以上、彼女の行動を彼女の主が知る事ができる。私達の活動がレーナに知られる事になるだろう。
 顔や手足に刺青があるのはノーラというエルフだ。
 エルフは森から出て来る事がある。
 その目的は大抵男性だ。
 特に美形な男性が好みで、中には眠らせて森へ攫う者もいる。
 ただし、人間の仲間になるエルフはそんな事は滅多にしない。
 それは、美形な男性の仲間になれるからだ。もっとも、子供ができると森に帰ってしまうけれど。
 ただ、ノーラは女性と組んでいるので男性目当てではないようであった。
 何のために森から出たのかはチユキにはわからない。
 エルフの事は良く知らないが罰でも受けたのだろうかと思うが、気にしても仕方がないので考えない事にする。
 以上がシズフェの仲間達だ。
 そして、彼女達がチユキ達に迷宮を案内する手はずになっている。
 その他の自由戦士達はチユキ達の危険を減らすために集めた。
 その自由戦士達を率いているのは地の勇者ゴーダンである。
 また、他にも火の勇者ノヴィスが付いて来ている。
 赤毛で腕白な少年がそのまま大きくなったような感じの男性だ。まだ若いのに勇者と呼ばれている。なのだから、かなりの才能があるのだろう。
 そして、チユキの見立てでは彼はシズフェに気がありそうだ。健闘を祈りたい。
 以上が迷宮探索の全員だ。

「このまま入っても良いのかしら?」

 チユキはシズフェに聞く。
 地表部分は迷路にはなってはいないらしく、全て探索済みだとチユキは聞いている。
 中央の巨大な建物に地下に降りる階段があり、そこまでいかなければならない。
 ただ、地表の多くの建物が壊されているため、まっすぐは進めない。
 空から行けば早いのだが、この人数を連れて行くのは無理である。
 チユキ達だけ先行するわけにも行かないから、地表を歩いて行かなくてはいけなかった。
 地表部分に捕えられていれば地下に入らなくても良いが、それは甘い考えだろう。
 パシパエア王国の人は地下に連れ去られている可能性が高い。

「それが賢者様。迷宮の地表の部分はコカトリス達の住処になっています。この魔物はなるべく避けなければなりません」

 シズフェの言葉にチユキは驚く。
 コカトリスは鶏の体に尾が蛇の尾になっている魔物だ。石化毒を吐き、石になった犠牲者を石のまま食べる。そのため、嘴は固く鋭い。
 コカトリスは普通の人間にはかなりの強敵である。
 正直に言ってシズフェ達では厳しいのではないだろうかとチユキは思う。

「コカトリスの住処に? 今までどうやって迷宮に入っていたの?」

 チユキは疑問を口にする。

「はい、コカトリスはあまり数が多くはありません。それに、見つからなければ特に危険ではないので遭遇したら逃げて迂回します」

 シズフェの言葉になる程とチユキは頷く。
 コカトリスは危険だけど凶暴ではない。
 近づかなければ特に危険ではない。
 襲われても全力で逃げれば追ってはこないと続けてシズフェは言う。

「他にはいないの?」
「基本、コカトリスだけです。ただ、あまり大勢で一度に入るとコカトリスを刺激してしまう怖れがあります」

 コカトリスがいるので危険な魔物は地表部分に住めないみたいであった。
 だけど、その分コカトリスをどうするか考えなくてはならないだろう。

「なるほど……。どうする、レイジ君? 一応、地表部分も捜索した方が良いと思うけど」

 チユキはレイジに聞く。

「そうだな、まあ普通に順番に突入だな。人数を分けて順次突入して地表部分を捜索する。そうすればコカトリスを刺激しなくてすむだろう。そして、中央の建物に集合だ。俺達が先陣を切っても良いけど、ここは君達に譲るよ。行ってくれるかい?」

 レイジはゴーダン達を見て言う。

「はい、任せておいてください! 行くぞ野郎ども!!」

 ゴーダン率いる自由戦士達はそう言うと人数を分けて突入していく。
 ゴーダン達が突入すると次にシズフェ達とノヴィスが突入する。

「さて地上に捕らわれていたら楽なのだけど、そうはいかないわね」

 チユキはレイジの横で小声で聞く。

「確かにな。だが、どこに捕らわれていようが、必ず助け出す」

 レイジは不敵な笑みを浮かべ迷宮を見る。

(こういう所はさすがに勇者ね)

 チユキはレイジの端整な横顔を見ながら苦笑する。
 レイジは可愛い女性のためなら命がけで行動する。
 その事をチユキは知っている。
 なぜなら、過去にチユキも助けられた事があるからだ。
 その事を思い出したのである。
 ゴーダン達が突入してしばらくして、チユキ達も中に入る事にする。 

「うわ――!!」

 都市の内部に入った時だった。自由戦士達の大きな悲鳴が聞こえる。

「さっそく 何かあるみたいっすね」

 ナオが溜息を吐く。

「そうだな急ごう」

 レイジの言葉に頷くとチユキ達は都市の奥へと進むのだった。

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コメント

  • 眠気覚ましが足りない

    誤字報告追加です。

    「あれが迷宮都市かあの中にエウリアは連れ去られたのか」

    「あれが迷宮都市か。あの中にエウリアは連れ去られたんだな」

    0
  • 黒剣

    そろそろクロキが出てくるかな?
    楽しみです!

    0
  • 眠気覚ましが足りない

    お疲れ様です。
    自分は10連休は毎日仕事ですよ。
    苦しいですが、めげずに頑張りましょう。


    報告です。

    エルフは森から出て来て人間の仲間になる事がある。
    目的は大抵男性だ。
    特に美形な男性が好みで、中には眠らせて森に攫う者もいる。
    ただし、人間の仲間になるエルフはそんな事は滅多にしない。
    なぜなら、美形な男性の仲間になるのだからだ。そのため、子供ができると森に帰ってしまう。

    エルフは森から出て来る事がある。
    その目的は大抵男性だ。
    特に美形な男性が好みで、中には眠らせて森へ攫う者もいる。
    ただし、人間の仲間になるエルフはそんな事は滅多にしない。
    それは、美形な男性の仲間になれるからだ。もっとも、子供ができると森に帰ってしまうけれど。

    仲間になる方が例外、なら最初の“仲間になる”はいりません。
    また、子どもができると帰ることは例外的な事なので、例外を意味する接続詞にしましょう。

    0
  • 根崎タケル

    4章続きを更新しました。
    10連休がはじまりました。
    もっとも自分は10連休じゃなかったりします(T_T)
    むしろ、やる事が増えたような……。 自分の生活が楽になる事はあるのだろうか?
    (/ω\)

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