暗黒騎士物語

根崎タケル

おかしな城のおかしな戦い3

「ぐっ!」

 オミロスはゴズの剣を盾で防ぐ。

「くらえ、火弾!!」

 剣を防がれたゴズが一歩下がると、手のひらから魔法の火の玉を繰り出してくる。
 それもまたオミロスは盾で受ける。
 皮や木製の盾だったならば燃えてしまう所を魔法の盾は熱すら伝えず防ぐ。

「加速!!」

 間髪いれずにゴズが魔法を唱える。動きを速めたゴズがオミロスの横に回り込む。
 オミロスは盾が自動で動くのを感じる。
 ガキン!!と言う音を立てて、盾が横から来たゴズの剣を防ぐ。
 しかし、無理な体勢で受けたため尻餅をつく。
 ゴズも立て続けで魔法を使ったため、次の動作に移れずに後ろに下がる。
 大急ぎでオミロスは立ち上がり盾を構える。

「何なんだよ! その盾はよー!!」

 ゴズが悔しそうに叫ぶ。
 オミロスも本当にすごい盾だと思う。
 本来なら間に合わない所を自動で動いて防いでくれる。
 オミロスはこの盾を与えてくれた吟遊詩人の言葉を思いだす。

「絶対にパルシスに渡してはいけない」

 吟遊詩人はオミロスにそう言った。
 まるでこうなる事があらかじめわかっていたようであった。
 オミロスは彼は一体何者なのだろうと疑問に思う。
 しかし、それを深く考える暇はなく、ゴズが再び攻撃をしてくる。

「くそがっ! その盾さえなけりゃお前なんか直ぐに斬り裂けるのによ―――!!」

 ゴズの言う通り、盾がなければすでにオミロスは斬り裂かれたいただろう。

(悔しいけどゴズの方が強い)

 オミロスは歯を食いしばりゴズの剣を防ぐ。
 オミロスがゴズに初めて出会ったあの日、何もできない事が悔しかった。
 泣き叫ぶリジェナを見る事しかできなかった。
 だから、あの日からオミロスは自分自身を鍛えた。
 今度こそリジェナを守れるようにと。
 だけど、ゴズはその以上に遥かに強くなっていた。盾がなければオミロスは全く敵わない。
 悔しいとオミロスはそう思った。
 このままではリジェナを守る事ができない。
 それが、たまらなく悔しかったのである。
 ゴズは何度も剣を繰り出す、オミロスはそれを何とか盾で防ぐ。
 しかし、そろそろ限界だった。
 今の所、オミロスは盾の力で何とか持ちこたえているが、このままではゴズに倒されるだろう。
 しかし、オミロスは力が尽きるまで耐えるつもりだ。
 リジェナをゴズに渡す訳にはいかないからだ。 

「悪いがゴズ! お前にリジェナは渡さない!!」

 オミロスは気力を振り絞り、盾でゴズを押し返しそう宣言する。
 オミロスは過去のリジェナを思い出す。
 リジェナはゴズに出会ったあの日から、外に出る事を恐れるようになった。
 オミロスはそんなリジェナを見ている事がとても悲しかった。
 いつか、リジェナが安心して外に出られるように強くなりたかった。
 だけど、自分では駄目だとオミロスは思う。
 自分の力だけではリジェナを守れない。
 オミロスはゴズに対峙しながらリジェナの側に行く。

「いいかい、リジェナ。僕が何としてもゴズを食い止めるから、その間に助けを呼んで来るんだ」
「うん……わかったわ……オミロス。すぐに助けを呼んで来るから気を付けてね」
「ああ、任せておいてくれ」

 オミロスはリジェナに心配かけまいと笑う。
 ゴズはオミロス達を逃がすまいと梯子の前で陣取っている。

「俺を押さえるだって? できるのか、お前に?」

 オミロス達の話が聞こえていたのだろうゴズが不敵に笑う。

「ゴス! 確かにお前には敵わない! だけど、足止めぐらいはやってみせる!!

 オミロスはゴズに剣を向ける。リジェナがそっと横に動く。

「くくく……。だけどそれはやめておいた方が良いと思うけどな」
「どう言う意味だ、ゴズ!?」
「誰も助けになんかこれねえよ! よーく耳を澄ませてみな!!」

 オミロスはそう言われて耳を澄ませてみる。
 何だか叫び声が聞こえる。

「大変よ、オミロス! 下にゴブリンがいる! ゴブリンがアルゴアに侵入しているわ!!」

 リジェナが叫ぶと、オミロスは下を確認する。
 時刻はすでに夜だが雲がなく、月が明るい。
 だから、夜目が効かなくても下を見る事はできた。
 アルゴアの中に小さな影がいくつも見える。
 小さな影だが間違いなくゴブリンであった。
 そして、下から悲鳴が聞こえる。

「ゴズ!!お前!!」

 オミロスはゴズを睨む。

「ああ、俺の手引きで配下のゴブリン共をアルゴアに引き入れたのさ! 今頃、暗黒騎士に気を取られていたアルゴアの奴らを殺しまくっているだろうよ!!」

 ゴズが高らかに笑いだす。

「今日でアルゴアは終わりだ! 絶望しろよ、王子様よ――――!!!」





 アルゴアの郊外でクロキはカヤと対峙する。

「百列百歩神拳!!」

 カヤが遠くから拳による衝撃波を飛ばす。
 それを、クロキは走りながら回し受けで弾く。
 急いでクーナの所に行きたいけどそうはさせてくれない。
 仕方がないと思い、クロキは立ち止まる。

「ようやく立ち止まってくれましたね。それにしても、おかしいですね……。リジェナさんのいる方向とは逆ですよ」
「悪いけど自分は陽動だよ……。別働隊がリジェナの方に向かっているよ」

 さらりとクロキは嘘を言う。
 別働隊なんかあるわけない。
 クロキはナルゴルでモデスに次ぐ地位らしいが、部下といえる者はいない。

「そうですか……。ですが私達がここに来た理由はクロキさん、あなたですよ。リジェナさんが攫われても、あなたを押さえておけば全て解決です」

 カヤはクロキの嘘に全く乗るつもりがなく、油断なく構える。

「自分を押さえられると思っているのですか?」

 クロキの問いにカヤは頷く。

「あなたからは私を攻撃する気が全く感じられません。あなたは私よりも遥かに強いですが、攻撃する気がないならいずれ私が勝ちます」

 そう言ってカヤは拳を繰り出してくる。
 カヤもまたクロキを殺す気はないが、命を取らないというだけで腕の1つや、あばら骨ぐらいなら折る気でいる。
 そして、金的も平気で使ってくるのでクロキは泣きたくなってくる。
 一刻も早くクーナの所に行きたいのに、カヤがいる限り先に進めない。
 クロキは焦りが出て来る。
 その焦りがクロキに隙を作ってしまう。
 その隙をカヤは見逃さない。

「波動天通掌!!」

 間合いを詰めカヤはクロキの鎧に左の手のひらを置く。
 次の瞬間、クロキに衝撃波が襲ってくる。
 間一髪、クロキは防具を貫通する一撃を脱力して受け流す。
 そして、彼女の手を掴み、右に回転させた後、左に回転させ投げ飛ばす。

「なんの!!」

 しかし、カヤという女性は投げ飛ばされながらも蹴りを放ってくる。
 クロキはそれを、見事だと感心しながら上体を反らし躱す。
 ついでに蹴りを放った時にスカートがめくれ、黒のレースの下着を確認する。
 これもまた見事だとクロキはつい思ってしまう。
 カヤは地面に肩から背中、腰と受け身を取りながら一回転して立ち上がる。
 立ち上がったカヤは左腕を押さえている。
 今の技で左腕はしばらく使えないはずであった。
 クロキは痛い思いをさせてごめんなさいと心で詫びる。

「やりますね……。しかし、今の技は少し甘かった気がします。私の身を案じているのですか?つくづく甘い人ですね」

 カヤのその言葉にクロキは違うと言いたくなる。
 カヤの言う通り、確かに今の技は甘くなった。左右に回転させて相手を酔わす技なのだが、そこまではできなかった。
 だけど甘くなったのは、下着に目が行ってしまったからだ。
 当然、その事は口が裂けても言えない。
 ありがとうございましたと心でクロキは礼を言う。

「通常の攻撃ではあなたは止められないようですね……。ならばこれならどうです!!」

 そう言ってカヤは突然拳を繰り出すのをやめると、両手を広げてこちらにダイブしてくる。

「なっ?!!」

 クロキは思わず驚きの声を出す。
 あまりにも隙だらけだったからだ。攻撃すれば簡単に殺せるだろう。
 しかし、あまりにも無防備すぎたからだろうか、クロキは何もできず抱き着かれるのを許してしまう。
 クロキは兜越しに良い匂いを吸い込む。

「くらいなさい! トルマリングローブ!!」

 カヤのその言葉とともに強力な電流がクロキの体に流れてくる。
 数秒の後、カヤという女性は抱き着くのをやめる。

「このグローブに込められた雷精の力を全て解放させて直接叩き込みました。いくらあなたでもただではすまないはずです」

 カヤはそう言うと手を離す。

「おそらく、全身が痺れて動けないでしょう。あとでサホコ様にお願いして治してもらわなければいけませんね。もう聞こえていないかもしれませんが、攻撃をためらう者は攻撃をためらわない者には勝てないのですよ」

 カヤは勝ち誇る。
 だが、そこに隙が生まれたのをクロキは感じた。
 一瞬の隙を突き、クロキはカヤの頭を掴む。

「えっ?!」

 カヤはいきなり頭を掴まれ驚く。

「眠れ!!」

 クロキはそう言うと、睡眠の魔法をカヤの頭に直接叩き込む。

「あっ……」

 カヤの体がぐらりと揺れ、膝を付く。
 眠る事はなく、クロキを睨む。

「良かった、魔法に耐えたみたいだけど、眠気で体が言う事を効かないようだ」

 クロキは魔法が効いたので安心する。
 心の一瞬の隙を突かなければ全く効かなかったに違いない。

「なぜ……、電流を流されても平気なのですか……」

 カヤは頭を押さえて聞く。
 前に電撃が効いたから、今回も効果があると思ったようであった。

「ごめん……、もう電撃は効かないんだ」

 クロキはカヤに謝る。
 電撃は対策済みである。
 もし対策をしていなかったらちょっと危なかったかもしれない。
 そして、その技を躊躇なく使うカヤに戦慄する。
 そのカヤはふらついている。もはや戦闘は出来ないだろう。

「ごめん、先を急ぐから、行くよ」
「ま……待ちなさい……」

 カヤは留めようとするがクロキは聞くわけにはいかない。

「たのむ、無事でいてくれ」

 クロキはそう祈りながら御菓子の城へと向かうのだった。

コメント

  • けせらとてん

    早く次が読みたい

    3
  • ノベルバユーザー286789

    とりあえず、3章は終わりそうですね。

    3
  • 根崎タケル

    3章続きを更新しました。
    なろうでお休み中にさらに移転を進めていきたいと思います。

    4
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