【Vease:Day】〜VRMMOだけして、稼ぎたい‼︎ 〜
《第一章》第6話 『力を望む者』
〜西暦2045年10月1日AM10:20〜
《ドワーフ工房》
〜武器売り場〜
(えっ、リーファさん?!なんでこんなところに?てかっあのお堅そうなお姉さんも来てるし…、あと1人は見たことないな。)
俺は不思議そうにまじまじと見ていると、兎の獣人が何やら決めポーズ的なことをして自己紹介をしてきた。
「どうも初めまして、私の名前は『USA丸☆』って言いま〜す!気軽にウサ丸た〜んって呼んでね♡今後ともよろしくね☆(きゃぴ〜ん)」
「はっ????」
俺はいきなりのことについていけず、口を開け呆然と立っていた。(ちなみにデンゼルもこんな感じだったらしい。)
(こいつの自己紹介なんか、腹たつな。てか絶対NPCじゃねぇよこいつ。完全プレイヤーだろ!)
「えっと〜、とりあえずそのバカっぽいウサギはなんなんですか?」
俺はすかさずリーファさんに質問した。すると何やら俺の顔に衝撃が走った。
ドゴッーン
俺は訳も分からないまま店の棚に激突していた。するとウサ丸というやつが俺に向かって文句を言い始めた。
「バカとはなんだ!バカって!。初対面の人に言う言葉か!腐れ童貞め!!」
イラッ
(いや、落ち着け〜俺!!ここで怒ってはダメだ!未来の嫁であるリーファさんがいるんだ。ここで怒ってしまっては甲斐性のない男だと思われてしまう。ここは我慢だ!我慢!)
俺は心の中では我慢をしつつもウサ丸にガンを飛ばした。するとウサ丸は、はっとした顔になり俺に語りかけた。
「いや、その、今のは、反射的に出ちゃったっていうか……その、テヘッ☆」
イラッ
「……………」
俺は頭にきたが、リーファさんがいるので、口をピクピクさせながら我慢を続けた。
「ちょっと…、何突っ立ってんの?何とか言ってよ〜。もう、…照れるじゃん/ / /ポッ」
イラッ
「?!まさか……私の魅力にやられて、一目惚れしたの?いや〜ん、もうス・ケ・べ!テヘッ☆」
ブチィッ
俺は我慢できずに兎野郎に激しく罵倒をいれた。
「いや、テヘッ☆じゃねぇよ!テヘッ☆って!大体なぁ、いきなり蹴り飛ばす奴どこにいるんだよ!!ボケェ!!」
「………………あ"ぁ"ん?」
するとウサ丸は笑顔から一気に目つきが鋭くなり、ケンカ腰になった。
「うるせぇよ!!穏便に済ませてやろうと思ったのに…まだ言うか!このコミュ症め!!」
「誰がコミュ症だよ!!ごく一般の男子の感覚だよ、これは!!。大体オメェ古いんだよ、2000年代のアイドルの挨拶か!!」
ブチィ
「!?誰が古くさい婚期遅れの萎れたババァだ!ゴラ"ァ!!表でろぉテメェ!!」
「そんなこと一言も言ってないだろうが!!!オメェの耳はふし穴かよ!!」
「誰が、ふし穴だ!!大体テメェがーーー
俺とウサ丸がやんややんやとケンカしているとリーファさんが叫ぶように、注意を促した。
「あの!ケンカはもうやめて下さ〜〜い!!」
それでも止まらないので、お堅いお姉さんがレイピアを持って介入してきた。
「そこまでにしなさい!!」
ビシッ
「「あっ、はひっ(ハヒッ)」」
俺とウサ丸の間を通るように、レイピアの切っ先が突き出した。それによりケンカは一時中断になった。が、1人店の奥で今にも噴火しそうなほどの怒りを溜め込んでいる者がいた。
「ゴッホン、でおぬしらは何しに来たんだ?店の中めちゃくちゃにしてくれてどうする気じゃったんだ?」
そうデンゼルだ。すると、ウサ丸が事態を呑み込んですぐに謝った。というのもウサ丸が俺を蹴って破壊した棚には、様々な武器が飾ってあり、それが全部崩れてしまっていたからだ。
「えっと、その、すいません…。必ず弁償しますんで…。」
ウサ丸の獣耳がうなだれるようにたたまれた。するとデンゼルはその様子を見て、大きなため息をつき、ウサ丸を許した。
「はぁ…そんな謝らんでええわい。後でリュウとお前さんに片付けてもらうとするからのぅ。」
(えっ!?何で俺まで?)
俺はその場でツッコミたくなったが、そんな雰囲気じゃなかったのでツッコめなかった。
「あっ、ありがとうございます!」
「なぁに、いいってことよ!」
デンゼルはウサ丸を許した後、何故来たのかを三人に問いかけた。
「それで、おぬしらは何でここに来たんじゃ?副ギルド長も引き連れて…何かあったのか?」
(えっ副ギルド長ってことは、、まさかリーファさんが副ギルド長なの!?)
俺が横で驚いたリアクションをしている中、お堅そうなお姉さんが口を開いた。
「申し訳ないな…、デンゼル。そんな大した用はない。ただこのウサ丸が武器を買いに行くというので案内したまでだ。特に私が来た意味はない。」
(あっ、あなたなのね。副ギルド長って。まぁあの可憐で美しいリーファさんが戦闘とかするわけないもんね。)
俺が納得をしていると、デンゼルは続けて質問をした。
「そうか、武器を探しにか。今日はよく来るのぅ。…じゃが、アンタがギルド会館を離れるとはよほどのことじゃないのか?」
「いや、それは…」
副ギルド長が説明をしようとしたその時、リーファさんが口を開いた。
「えっと実は…、私のせいなんです。」
「ん?どういうことじゃ?」
するとリーファさんが前にでて、ここに来るまでの経緯を説明した。
かいつまんで説明をすると、リーファさんが冒険者に絡まれて、そこにウサ丸と副ギルド長が武力介入してギルド会館から追い出した。
その後、ウサ丸に感謝したリーファさんは街を案内すると申し出たが、副ギルド長はまだ外に冒険者がいるかも知れないからと、護衛の意味を含めて三人で案内をすることになったらしい。
(なるほど、そういうことがあったのね…。とりあえずその冒険者は出会い次第、消し炭にしてくれよう。)
俺はメラメラと殺す決意を心に固めた所で、デンゼルが口を開いた。
「なるほど、そんなことがあったのか。ちなみにその冒険者の名前はなんだったんじゃ?」
「ん?なんでそんなことを聞くんだ?」
副ギルド長が無機質な顔でデンゼルに問いただした。
「そりゃ、完全防備だとうちの客だったかも知れんし、それにそんな迷惑をしでかす奴らには売りとうないからのぅ。それに買いに来た場合は、それを理由に追い返せるじゃろ。」
「そうか、そういうことなら教えてやってもいいな。その冒険者の名前は『エルヴィン・カイゼル』。元男爵家だった家の息子だ。」
「なに?!没落貴族のカイゼルんとこの息子か…。こりゃまた面倒な奴じゃのぅ。」
カイゼルは頭を掻くように抑えていたが、俺は何が何やら分からないので質問をしてみた。
「あのー、没落貴族のカイゼルってなんなんですか?」
「そうか、おぬしはまだ知らんか。」
するとデンゼルは俺にも分かるように説明をしてくれた。
「没落貴族って言うのはのう、貴族から平民に地位を下げた者のことを言うんじゃ。色々と理由はあるんじゃが、カイゼル家って言や〜、平民や貴族とかの身分を廃止しようという運動をして、爵位を取り上げられた家なんじゃよ。」
「じゃあそのカイゼル家の人間ってことは結構いい奴っぽいけどな。」
俺が率直に感想を言うと、ウサ丸が口を挟んできた。
「いい奴じゃ、全っ然!なかったよ。リーファちゃんにしつこく言い寄ってきて、止めに行ったら「獣人風情が来るんじゃねぇ」ってめちゃくちゃ嫌味な奴だったよ。」
「そりゃ、バカ息子のことだろうが。俺が言ってんのは親の事を言ってんだ!。つうかその親って、爵位取り上げられた後はどこにいるんだ?」
俺は、ウサ丸に諭すようにツッコミをいれた後、デンゼルに質問をした。するとリーファちゃんや、副ギルド長、デンゼルがうつむき加減で口をつむいだ。
「………ん"〜、なんて言っほうがいいかのぅ…。」
「悲惨な事件でしたからね…。」
デンゼルが頭を掻きながら口を濁らし、それに応えるようにリーファも口を籠らした。
「えっ?どういうこと?事件って何かあったの?」
俺が不思議に思い、再度質問をした。すると副ギルド長が腕を組みながら口火をきった。
「……殺されたんだ、何者かによってね。」
「えっ?何者かって…まだ捕まってないのかよ。」
俺が深刻そうにしていると、ウサ丸がなんだかソワソワしたような態度をとっていた。
(なんでこいつは、こう…落ち着きがないんだ?てか、少しワクワクしてるようにも見えるし……う〜ん…………?!あっそうか!!ここゲームん中だった!!)
俺はこいつの態度の答えに行き着き、俺も冷静に考えてゲームの中の出来事だからと、重く受け止めるのをやめた。そして、その後の顛末を副ギルド長からきいた。
「あぁ、夫のジーク・カイゼルは家の書斎で、嫁のマリアナ・カイゼルはリビングで死体となって発見されたらしい。その家の唯一の生き残りがあの息子ってわけだ。だが、その一件は貴族達に処理されてね…、本当のことはよく分からないんだ。」
「えっじゃあ、それって隠蔽ってヤツじゃない?ほら!よく刑事ドラマとかでよくあるやつだよ!」
ウサ丸が突然、現実世界のことを話し出した。途端、他のNPCたちが一斉に疑問系になった。
「ん?刑事…ドラマ?それはなんなんじゃ?」
(あっ、ヤベェ!こいつ現実世界のことを話しちまったよ!!早急になんとかしねぇとまずい!)
俺はなぜかそう思い即座に反応し、ウサ丸の方へ行き、なんとか誤魔化そうとした。
「えっと〜、何のことかな〜。あっは、あはははは…。そんなことよりも、武器買うんじゃなかったのか?なぁ、ウサ丸さんよ〜。」
「???まぁ、そうだけど、お前なんか変だぞ。」
「まぁまぁそう言わずに、ほらほら、あっち行った!デンゼルさーん、保管庫見てきていいですか?」
「おっおう。別にいいが…」
「じゃあ、行ってきますね〜」
俺はウサ丸と共にそそくさと保管庫へ行った。
「何だったんでしょうかね?あれ。」
リーファがリュウ達が行った方向へと指をさし、カイゼル達に質問をした。
「さぁ、さっぱり分からんわい。」
「…右に同じく。」
すると副ギルド長が、店内にあった時計を見て帰宅の準備をした。
「もう、こんな時間でしたか…。すいませんが私達はギルドの仕事が残ってますので、これで失礼させて頂きます。」
それに呼応するようにリーファが、デンゼルにお辞儀をしながら言った。
「あっ、しっ、失礼します!」
「おっおう、達者でな!」
デンゼルはその挨拶に気おされながらも、返事をした。すると帰り際にリーファがデンゼルに頼み込んだ。
「あっ、あと棚のこと許してあげてくださ〜い。悪い人じゃないので!」
「おうよ。悪いようにはしないさ。そちらさんも気をつけてな〜!」
デンゼルは2人を見送った後、そそくさと保管庫へと向かった。
〜西暦2045年10月1日AM10:30〜
《王城帝国郊外》
〜東側のある迷宮の三層〜
ガキンッ
「クッ。」
「ヴヴォォォォォーーー」
東側の迷宮に、噂をしていたカイゼル家の息子『エルヴィン』がミノタウルスと戦っていた。ミノタウルスの武器はエルヴィンと同じ大剣だが、片やたかが知れた人間の腕力に対し、もう一方は片手で軽々振り回す猛牛。完全防備とは言え、一度当たれば大ダメージだ。
するとミノタウルスが大剣を横に大振りをして攻撃を試みた。
ブォンッ
「クソッが!!」
エルヴィンはミノタウルスの大剣の剣筋を見極め、自分の大剣の側面を沿わすようにして受け流す。
 
ギャリリリンッ
「こんっ畜生が!!」
エルヴィンは斬り抜けるように、大剣を横に払い、かろうじてミノタウルスの膝に一撃を与える。
ブシャッ
するとミノタウルスが片膝をつき怒りのこもった眼をエルヴィンに向ける。だが、エルヴィンは即座に攻撃体制に入り、膝をついたミノタウルスに脳天めがけて大剣を振りかざした。
「オウリャッ」
ブンッ
するとミノタウルスの脳天に直撃し、ミノタウルスの頭から血が雨のように辺りに降り注いだ。
プシャャャャ
「ハァハァハァッ、やったか?」
エルヴィンはミノタウルスほうを見て、確認しようとしたその時、ミノタウルスが角を突き出しエルヴィンめがけて突進をしてきた。
「ヌヴヴォォォォォォー」
バゴォンッグゥワンッ
「…ぐはっっ!?」
聴いたこともないような、完全防備とミノタウルスの角の衝撃音が迷宮全体に響き渡った。エルヴィンはたまらず血を吐き出す。そして、そのまま壁へと激突した。
ガコォォンッ
「かはっっっ?!!?」
ミノタウルスは角に刺さったエルヴィンを振り落とし、エルヴィンがほつれた操り人形のように飛んでいき、床に激しく打ちつけられた。ミノタウルスは頭に刺さったままの大剣を抜き、その場へと捨ててエルヴィンを背に何処かへと去っていった。
エルヴィンはそのミノタウルスの背中をうつらうつらと、目に焼き付けながら走馬灯を見た。それは自分の少年時代の嫌な記憶だった。
「“ほら、来たぞ!!変人カイゼルだ!”」
「“本当だ。変人カイゼルだ!みんなやっちまえ〜〜”」
「“ちょっとみんなやめてって!石投げないで、お願いだから、やめてって〜”」
(なんだ?これは昔の記憶か?)
「“グスッグスンッ”」
「“すまないな、エルヴィン…お前にも迷惑かけて…”」
「“グスッ、ヒグッ、な"ん"で、み"んな"僕のごと、フグッ、イジッ、メるの?パパが、な"に"かしだの?”」
「“……すまない、エルヴィン…。だがもう少しの我慢だ。……大義の為にも必要なことなんだよ、エルヴィン。分かってくれるよな?”」
(…そうか…走馬灯ってヤツか…フッ…。私も焼きが回ったな…。)
エルヴィンは意識が朦朧とする中、走馬灯を見続けた。そして、忘れ去っていた怒りが、憎悪となってフツフツと胸の奥で煮えたぎるのを感じた。
(そういえば、他の貴族達に馬鹿にされて、怪我ばっかして帰ってたな…。ハハ…ハハハハッ…………………だけど、父上は何もしてくれなかった!!こんな状況をつくって何が大義だ!!!大義なんかクソ喰らえだ!!)
エルヴィンは怒りのままに身体を動かし、大剣をとった。そして、今までの怒りをぶつけるように背を向けたミノタウルスに向かって、剣を突き立てそのまま突進した。
「ヴヴォ?!」
「ハァァァァァッ」
ズブゥッ
ミノタウルスは気づいて体を正面に向けようとしたが時すでに遅し、エルヴィンの大剣がそのまま背中をぶち抜いて、ミノタウルスを絶命してみせた。
「ヴ、ヴォ……」
パリンッ
「ハァハァハァッハァハァハァッ」
ミノタウルスはパリンッという音と共に消え、ミノタウルスが持っていた大剣がゴツンッと鈍い音をたて、床に落ちた。エルヴィンはしばらく立ち尽くしていたが、チカラが抜けたのか膝をついた。
「ハァハァハァッ、んぐっ…ハァ〜、…ハハハッ……まだ生きてる…」
(それよりもさっきの戦いでこの大剣ももうボロボロだな。…さっきのミノタウルスが持っていた大剣をもらうか…)
するとエルヴィンは自分の大剣を捨て、ミノタウルスが持っていた大剣と持ち替えた。
(ふぅ。なかなかの上物だな。とりあえずこれを装備して、帰るとしよう。)
エルヴィンは大剣を装備した後、予約していた宿へと足を運ぼうとした。と、その時何やら不気味な気を発した声が聞こえた。
(……汝は、力を望むか?)
「?!誰だ!!姿を現せ!!」
エルヴィンは装備したての大剣を構えた。するとその大剣からその声が聞こえてきた。
(汝は、力を望むか?)
「うわぁ、なんだ?!…しゃ、しゃべっているのか?!」
エルヴィンはすかさず大剣を離そうとするが、手がいつのまにか離れなくなった。するとその声は大きくなり頭の方から聞こえるようになった。
(汝は、力を望むか!!)
(なんなんだよ!!コレ!!クッソ…離れねぇ!チッ、望めばいいのか…望めば離れてくれるのか?)
「分かったよ!力、望むよ!!だから離してくれ!」
(…あい分かった、力を望む者よ。汝に我の力を授けようぞ。)
すると、その大剣に意識を奪われるかのごとく、段々と意識が薄れ、自由に身体が言うことをきかなくなり、言葉すらも発せなくなった。
(やめてくれ!!お願いだからやめ…て、クッ…)
「あっ、かっ、……かぁ…さ……」
エルヴィンはしばらく大剣を構えながら立ち尽くし、今度は何事も無かったように歩を進めた。だが、明らかに様子がおかしく、今までのエルヴィンの面影すらなくなった。
すると、今度は違うミノタウルスと遭遇した。
「ウヴォォォォ〜」
ザンッ
ミノタウルスは咆哮をあげた束の間、エルヴィンがミノタウルスの首を切り落とし、その瞬間ミノタウルスの身体と頭が地に落ちた。
ドゴーン パリンッ
「……りィ、ふぁ"〜、…」
もはやエルヴィンは人ならざる者へと変化していた。
〈第一章 第6話 完〉
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