月の扉

藤原葉月

第1話 お揃いの指輪

「隼人のことは、好きだけど物足りないの。ごめんね。
わたし、好きな人できたから。」
彼女と、待ち合わせの電話していた時に、突然別れを切り出された。

クリスマス・イブの日だった。
「せっかく、クリスマスふたりですごそうとおもっとったのに。」
ディナーも、予約して、プレゼントもちゃんと考えてあったのに。

同じ頃・・・
「勇人は、冷たいよね。わたしのこと、ちゃんと考えてる?」
「考えてるよ。」
「うそ。今日だって、なんの日か忘れてるでしょ」
俺は、そういう記念日とか全然気にしやんし。わすれてしまうことが多かった。
「今日は、クリスマス・イブやろ?」
「そうだけど、そうじゃない!!」
「なんやそれ!一体お前は俺にどうしてほしいんや。クリスマスなら、クリスマスらしいことすれば、ええんやろ?」
「勇人のバカ!大嫌い!」
そう言って、彼女と、喧嘩したままだった。
「あーあ、ついてへんなぁ~」
隼人と、勇人は、同時に思っていた。
「今ごろあいつは、彼女と、二人きりで過ごしているんやろなぁー。」
これまた、同時に思っている二人。
別に、双子でもなく、兄弟でもない二人だが・・・・
とぼとぼ歩いていた隼人の目の前に、同じくとぼとぼ歩いていた勇人が、いる。
「あれ?お前、ここでなにしてんの?久しぶりやな。」
「そっちこそ、クリスマスやのに、(イブやけど)デートやないんか?」
二人は、実は、親友だった。
同じ苗字の二人は、高校で同じクラスで、仲良くなり、卒業した今でも、お互い彼女が、できてからでも、よく遊びに行く仲だった。


「実はな、彼女に振られてしもたんや。お前は?」
「俺は・・・・。」
「その返事は、振られてはないけど、いつもの喧嘩って感じやな。」
「あいつの考えてることが、わからんわ。」
「それは、彼女の台詞やろなぁー」
「なんで、わかるんや。」
「おまえが、記念日とか大切にしやんのは、俺でもショック受けるわ。」
「なんで、わかるんや。」
「えっ?当たってるんか?」
「隼人は、もの足りやんとか言われたんやろ?」
「・・・・当たり。」
「彼女のこと、大切にしすぎてってやつやな。」
「あーあ、せっかく、ディナー予約したのに、無駄になってしもたわ。」
「じゃあ、いまから、俺と行く?」
「え~?お前と?」
「ええやん。失恋パーティや。俺は、違うけどな」
「・・・・・・」
「クリスマスを、男二人で過ごすやなんてな。」
「このままやったら、たぶん、年越すのも二人でやることになりそうやな。」
「まぁ、それもええか?」
「えっ?」
「来年は、2001年。21世紀や。失恋は、悔しいけど、心許せるやつと一緒なら、それも、ええかなって。」
「珍しいな~(笑)記念日とか、気にしないおまえが。お前の場合は、彼女が許してくれるかもしれやんやん。」
「どうかな~?」
食事をしながら、なぜか俺たちの心は和んでいた。
その帰り道、
「記念に、見てく?」
「・・・・・・。」
そこで、寄ったのがジュエリーSHOP。
男二人で、何を買うっちゅうねん
「いらっしゃいませ。」
にこやかに迎えてくれる店員さん。
なぜか、いつもといる人と、違う雰囲気を持っている気がした。
「どうも。」
「あっ、あの、」
「あっ、俺たち、決して、カップルではありませんから。」
勇人は、彼女がなにかを言おうとしたのをさっしたのか、それを遮るように答えた。
「違います。ぜひ、あなたたちにはめてほしいのです。」
「はっ?」
いま、言うてたこと聞いてなかったんかな
ふたりは、同時に思った。
「あなたたちにしか、この指輪を、はめることは、できません。」
「いや、そんな、 まさか。」
「あはは。そんな、アニメの世界みたいな話あるわけないやん。」
とか、言いながらも俺たちは、その指輪を、はめてみた。
「えっ!?うそやろ?」
その、指輪は、ふたりとも、ピッタリはまっている。
「こんなんありなんか?」
「・・・・・。」
「やはり、あなたたちは選ばれたんだわ」
「あの、店員さん、さっきから何を言うとりますんや。」
「そうそう。いくら、クリスマスでも、親友でも、男同士やし」
「いいんです。」
「えっ?」
「お願いです。こちらを買っていただけませんか?安くしときますので」
「でもなぁ~」
「隼人、ええやん。ここは、お姉さんの言うこと、聞いておこうに」
「いや、俺たちそんなつもりでここに寄ってへんから。」
「えっ?隼人?」
俺は、指輪をはずし、勇人の手を引いて、
「騙されたらあかん」
そういって、店をあとにした。
「なんでや。なんか、理由あるんちゃうか?っていうか、おれ、はめて帰ってきてしもた。返しにいかなあかんわ。」
「あっ!なにしとんのや!」
俺たちは、渋々、さっきの店に、指輪を返しに来た。
「すいませんでした!!」
俺たちは、必死に謝った。
「いいの。気にしないで。それより、無理に進めてごめんなさい。」
「いえ、なんか、言われたことないこと言われたんで。」
「また、いらして」
その人が、一瞬見せた寂しそうな顔が、見えたけれど・・・・
「また、ぜひ。」
勇人は、気にすることなく、その人と、握手していた。
なんやそれ、惚れたんかよと、思ってしまった。
その店を、出て、しばらくすると、雪が降ってきた。
この東京では、珍しい。
「なぁ、勇人」
「ん?なんや、隼人」
「さっきの人な」
「別に、惚れてないで?今度、あそこでなにか買うなら、安くしてもらうために、仲良くなっておこうと思ってな」
「そうやないよ」
「なんか、俺たちに託そうとしてたんかなって。」
「は?まさか、あの人の話、信じるんか?」
「・・・・・なんか、そんな気がするだけや。まぁ、おかしいけどな、失恋したやつが、男友達と、指輪を買うなんてさ。」
「・・・・ええよ。友情の印に買うても。」
「えっ?ほんまに?」
「俺たちの友情が、続きますようにって意味やで?深い意味はないで?」
「うん!」
それから、俺たちは、再び、ジュエリーSHOPに、戻り、さっきの指輪を、買ったのだった。
「まさか、2回も戻ることになるなんてな」
「あの店の人もなんやかんや、優しかったな。まっ、クリスマスやからかもしれやんな。」
俺たちは、なぜだか、満足していた。
買わずに買ってきたときよりも、穏やかなきもちになっていたから。

「じゃあ、また、大晦日に」
「そうやな。まぁ、勇人は、大晦日までやな、彼女と仲直りするやろ?特別な日になりそうやからな。」
「隼人は、1人?」
「まぁ、そうなるやろな。」
「年越しくらいは、一緒にやろうよ。」
「おまえが、彼女と仲直りしてたら、俺は、邪魔やろ?」
「ええやん。これは、友情の証しと、約束や。」
「わかったよ」
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
ふたりは、いつものように、別れた。

しばらくすると、
「あなたたち二人は、離れてはいけません。」
「えっ?誰や。」
部屋に戻ってきた俺は、誰かにそう話しかけられた気がしていた。
同じ頃、勇人も、
「なんや、いまの声」
そう、呟いていた。
そして、勇人は、みてはいけないものを、そのあと見てしまったんだ。

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