俺の許嫁は幼女!?

白狼

71話 自分の気持ちを自分の言葉で

 和博さんの話を簡単にまとめると、俺と静香の関係をそろそろ公の場に公表しないから親戚回りに来て欲しいと言うお願いだった。
 一度沖縄に住んでいる神崎さんの家には挨拶として行ったことがあるが他はまだ行ったことはない。
 普通は、許嫁となったら親戚の家に回り挨拶をしておかなければいけないものだったらしい。


「それでどうかな?お願いできる?」


 和博さんが俺に尋ねてくる。
 ここで一つ問題が出る。
 もし、俺が親戚に挨拶回りに行ったらほぼ確定で静香の許嫁となってしまう。そうなってしまえばこの関係を解消することは不可能と言っていい。
 ということは俺だけに決めることは出来ない。


「静香は、別に構わないか?」
「ふぇ!?な、なんで私に聞くのよ!自分で決めなさい!」


 静香は、少し慌てたような口調でそう言った。
 静香は分かっているのだろうか。これでほぼ許嫁が決まるということを。


「静香は、陽一君に任せるって言ってるよ。だから、どうするか決めて欲しいな。」
「うっ……」


 和博さんは、少し優しめな口調でそう言うがなんだかその言葉に威圧的なものを感じる。
 俺は、一瞬言葉に詰まってしまう。
 本当に俺が決めていいのだろうか。静香の気持ちを無視して。
 その静香はというとすごいソワソワとしながら何度か俺を方を向いてはすぐに視線を反らしている。
 だが、静香は、1口お茶を飲むと落ち着いた表情で


「…………別に私に気を使わなくてもいいわよ。」


 そう言った。
 その様子から分かった。静香は、恐らくこの親戚回りの意味を理解しているのだと。そして、分かってもなお俺に判断を委ねてくれる。
 俺は、それが少し嬉しく思えた。
 静香は、いつの間にか俺に信頼を寄せてくれていたのだ。
 それなのに俺は、静香を盾に重役から逃げようとして………クソほどみっともねぇ。
 決めろ。自分の言葉で。自分の思いで。


「………和博さん、俺………私に親戚回りをさせてください。」


 俺は、そう言って頭を下げた。
 ちなみに「俺」から「私」に変えたのは腹をくくったという意思表示だ。


「……ありがとう、陽一君。それじゃ、お願いするね。」
「はい。」


 俺は、今、曖昧だった静香との関係を少し発展させた。前は、静香みたいなやつと結婚するなんて嫌だったのに……今は、別に嫌だとは思わなかった。
 はは、俺、ロリコンになっちゃったのかな?


「陽一君、詳しい日程はまた今度伝えるね。たぶん何日かに分けて行かないといけないと思うから。」
「分かりました………あ、でも、なるべく土日にして貰えると嬉しいです。俺、あまり勉強が得意じゃないのでせめて出席日数を取らないと。それに俺、何度も入院してみんなより多く欠席してるのでなおさら休めません。」
「ははっ、そうだったね。分かった、なるべく休日に入れておくよ。」
「ありがとうございます。」


 今さっきまで少しピリピリしていた空気が一気に和らいだ。
 俺は、正直思い始めたのだ。別に静香の許嫁になっても構わないんじゃないかって。
 俺にもう好きな人はいない。それに俺は、モテたことがないんだ。それなら確実に結婚ができるこの道を進んだ方が俺にとっては良いことだろう。
 一生独身よりも年下の女の子だろうと結婚していた方がまだマシだ。この頃、年の差結婚だって珍しくない。


「そろそろ昼食の時間だね。たぶんもう準備できてると思うからちょっと待っててね、陽一君。」
「あ、はい、大丈夫です。」


 和博さんは、昼食が出来てるか見に行くと言って部屋を出て行った。
 部屋の中には俺と静香、忍さんだけになった。


「この3人は少し珍しい組み合わせね〜。」


 忍さんは、頬に手を当て微笑みながらそう言った。確かにこの組み合わせは今までで1度もない。


「…………」
「あらら?静香ったらどうしたの?陽一君の前だからって緊張してるの?」
「そ、そんなことないです!」
「ふふっ、本当かしら?陽一君は、どう思う?」
「さ、さぁ……あはは……」


 忍さんの問いに俺は、首を傾げて乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「それよりも陽一君、今日はありがとう。」
「え?な、何がですか?」


 忍さんが今さっきまでふんわりとした雰囲気を醸し出していたが今は、少し真面目な雰囲気が伝わった。


「1つは、わざわざ休日にここまで来てくれたこと。」
「その点は大丈夫ですよ。俺、今日はずっと暇だったので。」
「それでも平日は学校に行ってるんだから休日くらいは休みたかったでしょ?」
「ま、まぁ、確かにそうですが……でも、こっちも俺としては大事な要件なので別に問題ないです。」
「ありがとう。」


 別にお礼を言わなくても大丈夫って言ったのに……
 まぁ、それでもお礼を言いたいというのが親の気持ちなのだろう。


「あともう1つ、陽一君の表情を見るからに恐らく親戚回りの意味が分かってて了承してくれたんでしょ?」
「…………ええ、まぁ、多少なりとは。」
「……本当にありがとう。この子の母親として嬉しいわ。」
「こちらこそ、まだまだ未熟ですが……頑張っていきます。」


 忍さんが礼を言ったあとに俺も頭を下げた。
 すると忍さんは、ふふっと微笑んで


「良かったわね、静香。」
「〜っ!お、お母様!変な事を言わないでください!」
「あらあら、顔まで真っ赤にしちゃって。」
「そ、そんなことないです!」


 静香が慌てた様子を忍さんは、どこか嬉しそうに微笑みながら見ていた。
 すると部屋の扉が開いて


「昼食の準備が出来たから移動して。」


 和博さんが部屋へ現れそう言った。
 その後、俺は、静香たちと昼食を取った。

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