僕は過ちを正すため、過去に飛んだ。

黒山羊

第1章EP6東山吹雪


やめてよ!やめてよ!

どこからか聞こえる少女悲鳴は木霊し、真っ暗な目の前を通り過ぎる。
 その悲痛な叫びはとどまることを知らず、矢のように隼人に突き刺さる。

痛い。苦しい。

流れ出る血。酸素が多量に含まれ、赤黒く変色し、それは流れる。目の前の少女でさえ、赤い涙を流しながら…
 ただただその時は過ぎていった。

ーーー

バシャ!

「ブフッ!」

勢いの良い水しぶきとともに西峰隼人は目を覚ます。
口にはうっすらと鉄のような味がした。
周りを見渡すものの、一般的な家庭とは異なった作りとなっており、特徴的な金装飾であった。どこの国の王子が住んでいるのだろうか。

「お、やっと起きたか」

そして、隼人のすぐ横から低い声で誰かがそう言った。
 隼人は目を合わせると先程までの記憶が戻ってきた。
 
東山財閥の偵察に来ていたところ、変な男の子にぶつかって殴られ、意識を失っていたのだと。
 
思わず一歩引く隼人に男は笑いながら答える。

「そんな怖がんなって。さっきは悪かったよ。今度は気を失わせない程度にするから、許して?」

男は舌を出して、軽く会釈した。

「うん、反省してないなこれは。」

と、思わず口に出てしまうほどだ。

「あ?何だテメェ。人がせっかく謝ってんのにヨォ」

やばい、怒らせてしまった。

隼人は怒りを鎮めるべくその場に綺麗に土下座をし、「ごめんなさい!」とそれはそれは綺麗なものをお見せした。
 
しかし、彼にはそんなこと何でもなかったようでそのまま顔面にキックを食らった。

体は空中で一回転し、鼻血も飛び出る。顎を柔らかい絨毯に打ち付ける。危うくまた意識が飛ぶところであった。

決めた。こいつには二度と謝らない。

負け惜しみのように隼人は心に決める。
 
 男はすっきりしたのか、ふぅとため息をつくとその場に腰掛ける。人の顎が外れたのを無視して。

しかし、それは一旦置くことにした。隼人はこの男に聞きたいことがたくさんあるのだ。

「えっとさ、君は」

隼人は話の前にまずは名前を聞こうとするが

「吹雪だ」

吹雪?君はすぐに察して名前を言った。

「えっと、吹雪くん?ここはどこなのかな?」

突然名乗り出してくれた吹雪くんとやらに、場所を聞く隼人。

「ここは俺の部屋。自分でも気持ち悪いくらい金ピカなんだ。すまんな、親父の趣味でさ」

どんな成金野郎だよと思ったが抑えた。

「それでさ、吹雪君?いくつか聞きたいことあるんだけどいいかな?」

「いいぜ」

吹雪は軽く笑いながら答える。

「君は東山森人社長のご子息ってことであってる?」

「ああ。森人の息子だ」

なるほど。

隼人は1人納得をして頭を上下運動させる。

「それで、東山財閥のことなんだけど…」

と、隼人が本題に入ろうとしたその時。

「おいおい、まてよ。」

吹雪は話を遮って呆れたようにため息をついた。

「え、どうした?」

隼人は話を遮られた意味がわからずおどおどする。

「お前も名乗れよ」

吹雪はそう告げた。

「…あ」

確かに隼人はまだ名乗っていなかった。
 目標が先走りすぎて忘れてしまっていたのだった。

「ごめん。俺は西峰隼人。佐々木山高校の一年です」

隼人は先ほどの無礼を含めてしっかり頭を下げ懺悔しながら名乗った。
先程もう謝らないと誓ったあの心はどこへ行ったのやら。

「おっけ。わかったから話続けて。」

吹雪は西峰という苗字に興味を示すことはないように見えた。
アウトオブ眼中というやつか。
 しかし、4大財閥のうち、東山が一番下の位置に属しているのに

まぁ、話すか。

隼人はそのまま話を始める態勢に移る。

「スティックフォンつてやつを販売してるみたいだけど、東山財閥が考案して作ったものなの?」

その質問に対し、吹雪は首を傾げ「さぁ」と言った。
 キョトンとした目からは吹雪が嘘を言っているようには思えなかった。

「なんでそんなこと聞くんだよ。」

 吹雪は少しだけ警戒したような目で隼人に尋ねた。
 たしかに東山財閥の息子に接触し、商品のことについて聞くようなことをすれば怪しまれても仕方がないというものだ。

「えっと、それは…」

隼人は吹雪の事をただの脳筋だと思っていた手前、この鋭い質問は少し想定外だった。
 だが、すぐに答えを考える隼人。

「俺、スティックフォンの愛用者でさ!家に10台持ってるよ!!」

「…」

完全にやってしまった。

いくらなんでも答えがアホすぎた。携帯が10台という事は端末を10個持つことになる。世の中にそんなアホはいない。ましてや隼人は高校生。

吹雪からの信用を失ったかとうなだれたその瞬間。

「…ブフ」

ブフ?

吹雪の方から何やらそんな音が彼の口から出たかと思うと滝のようにその後の物が飛び出してきた。

「はっはははは!バッカじゃねーの!10台はアホすぎだわ。あっはははぁ」

その場に笑い転げてしまった。
 隼人はその場で大きく口を開けるしかなかったのであった。

「成る程な!うちの商品をそんなに気に入ってくれてありがとよ!」

なんだ。ただのバカだったか。

隼人は心でそう思うと同時にフッと肩をなでおろした。ともかく、どうにかなったようだった。

~2時間後~


「また来いよー!隼人ー!」

金装飾のロビーを通り吹雪からの手を振られその場を後にする。
隼人も軽く手を振り返す。ちなみに2時間話をしたがこれといった成果は無かった。
ともかく、東山吹雪と仲良くなれただけでも大きな一歩だろう。

そう思いながら歩いていると隼人の携帯がなった。相手は結衣からだった。

【隼人さんへ。明日よかったら一緒に遊びに行きませんか?親がゲームセンターの無料チケットを何枚がくれたので、もしよかったら行きたいです!】

その内容を見ると、隼人の頰は少し緩み、

【いいよ。楽しみにしとく】

と、そう返信したのだった。

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