鬼の魔法使いは秘密主義
一撃
「一撃か。一体どんな魔法を出すのか楽しみだな」
蒼真は指を鳴らしながら言った。
「いくぜ!」
直夜が叫ぶと、彼の体に赤い魔法陣が浮かび上がり始めた。
そう、これはかつて魔法手術で書き込まれたあの魔法陣である。
直夜が望んだ守る力。それは蒼真への攻撃を自分の身で防ぐ、魔法耐性や物理耐性などの防御特化のものだった。
この魔法は意図的に鬼人化できる蒼真のものとは違い、どんな時でも自動的に発動されている。
そのため、わざわざ防御のために強化魔法を使う必要はないのだ。
「お前の力は防御のためのものだ。それをどう攻撃手段にするんだ?」
「そりゃ、もっともな質問だな。まぁ見てなって」
そう言うと、直夜の赤い魔法陣が彼の右手に集まり出した。
「攻撃は最大の防御ってな」
「なるほど。そう言うことか」
蒼真は理解した。直夜の右手に集まった魔法陣の性質が変わっていたのだ。
全身を覆っていた防御の力が、右手一点に集約されて、しかも物理強化へと魔法が変化していた。
「この魔法に名前をつけるなら、『身体性質変換・槍形態』。いわば一点集中攻撃全振りってとこだな」
「今の直夜の攻撃が当たれば、どれだけ強化魔法を使っても撃ち抜くでしょうね」
「当たればな。だが、圧倒的な弱点がある」
「わかってるさ」
直夜は確かに常人以上の身体能力を有している。
しかし対魔法使いとなると、強化魔法を使わないと近接戦に持ち込むのは難しい。
しかもこの魔法は、魔力のほとんどを右手に集めているため、直夜は自身の力のみで動かなくてはならない。
つまり、一対一では使いづらいのだ。
「だから、澪がいるんだろ」
突如、直夜の姿が3人に増えた。澪の魔法、「幻影」である。
「やっぱり、お前たちのチームプレイは精度が高い」
改めて蒼真は自分の守護者たちの実力を思い知った。
3人の直夜の攻撃を避け後ろに飛ぶと、そこには澪の姿があった。
「誘導されていたとはな。よく考えた動きだ」
「逃がさないわよ」
澪は空中に魔法陣を展開させた。
しかし、その魔法陣は蒼真によって砕け散った。
魔法陣は魔素、魔力によって形作られている。
そこへ蒼真は式を破壊する時と同じように、魔素の塊を打ち出したのだ。
「甘いぞ!」
澪の魔法を封じた蒼真は、そのまま澪へと突っ込んで行った。
そして回し蹴りを繰り出したが、澪の姿がかき消えた。
この澪の姿も、「幻影」によって作られたものだった。
「お前、『目』使ってないな」
「使ってたら不公平だろ。俺だけどんな魔法が来るかわかるからな」
蒼真の魔素を見る能力で魔素の流れを見たり、持ち前の頭脳で魔法陣を解析することで蒼真はどこにどのような魔法が発動するかを知ることができる。
「ほんとお前は敵に回したくないな」
「まぁ私たちが敵対することなんてないでしょうけどね」
そこまで言った時、戦いは再び動き出した。
今度は蒼真の方から直夜へ走り出した。
蒼真の繰り出した拳が直夜に当たる直前、彼らの間に地面から壁が生えるようにして生成された。
「はぁっ!」
出てきた壁を後ろに避けるでもなく、回り込むでもなく、突き出していた拳で壁を打ち壊した。
壁が壊れた先で蒼真が見たのは、壁や建物の瓦礫のみだった。
「蒼真ぁ!! これで終わりだ!」
後ろから現れた直夜は、蒼真のすぐ近くまで迫っていた。
直夜の拳を受け止めるべく構えた。
しかし、
「おらぁ!!」
直夜の一撃は蒼真の背中へと放たれた。
「がっ!! はっ……!!」
吹き飛んだ蒼真の体は魔法によってできた建物を数個突き抜け、広い地下室の壁まで到達した。
土煙を巻き上げ、建物が崩れ去り、一瞬にして直夜、澪の視界を奪い去った。
「もう……限界……」
体力、魔力共に消耗しきった直夜がその場に崩れ落ちた。
「や、やっぱ……『槍形態』は魔力の消耗激しいな……」
「そりゃね。でないとあんな威力でないわ」
澪も直夜の隣まで来て座り込んで言った。
安心したのもつかの間、澪はある異変に気付いた。
「土煙の流れが、変わってる?」
舞い上がる砂はある一点を中心に竜巻のように吹き上がった。
その竜巻は、土の茶色の中にほのかに魔素の青い色が混ざっている。
「あれは蒼真の……」
竜巻が晴れると、そこに立っていたのは鬼人化した蒼真だった。
「あ、あれを食らって……」
直夜が声を漏らした。
それもそのはず、蒼真の体には傷1つなかったからだ。
「あと少し鬼人化が遅れれば危なかった。なかなかの魔法だったな」
鬼人化による最大の利点は、圧倒的な自己治癒能力だろう。
たしかに身体能力や魔法の威力も大幅に増加するが、負けずに戦い続けることができるのは相手にとっても脅威だろう。
倒せたと思っても、時間が経てばほぼ無傷まで戻るのだから。
「あーあ。また負けたか」
直夜は仰向けになって中を見上げた。
「いや、お前たちの勝ちだ。鬼人化をしなければいけないほど追い詰められたからな」
「……負けは負けよ。でも、次こそはあなたが鬼人化したとしても、それを上回ってあげるわ」
澪の宣言に蒼真は笑みを返し、まだ倒れたままの直夜へ手を差し伸べた。
「直夜、立てるか?」
「ちょっと肩貸してくれ。魔力が切れてる」
魔力切れの体のだるさは、魔力を持つ魔法使いにしかわからない。
「澪。俺の魔力を分けてやってくれ」
「わかったわ」
澪は2人の背中に手を当て、回復魔法を発動させた。
回復魔法にも種類があり、体の傷などを治癒するものと、魔力を回復させるものがある。
また魔力を回復させるときは、自分もしくは別の魔法使いの魔力を分ける方法と、近くの魔素を魔力に変換して回復させる方法がある。
一般的には後者は効率が悪いため、分ける方法が使われている。
今回は澪の魔力も少なくなっているため、蒼真から分け与える形をとった。
「もう大丈夫。充分きてる」
魔力が回復した直夜が立ち上がって言った。
その時、周りの建物が一斉に消えた。
景色が元の殺風景な地下室に戻ると、唯一の入り口の近くで壁に手をつき立つ如月の姿があった。
蒼真は指を鳴らしながら言った。
「いくぜ!」
直夜が叫ぶと、彼の体に赤い魔法陣が浮かび上がり始めた。
そう、これはかつて魔法手術で書き込まれたあの魔法陣である。
直夜が望んだ守る力。それは蒼真への攻撃を自分の身で防ぐ、魔法耐性や物理耐性などの防御特化のものだった。
この魔法は意図的に鬼人化できる蒼真のものとは違い、どんな時でも自動的に発動されている。
そのため、わざわざ防御のために強化魔法を使う必要はないのだ。
「お前の力は防御のためのものだ。それをどう攻撃手段にするんだ?」
「そりゃ、もっともな質問だな。まぁ見てなって」
そう言うと、直夜の赤い魔法陣が彼の右手に集まり出した。
「攻撃は最大の防御ってな」
「なるほど。そう言うことか」
蒼真は理解した。直夜の右手に集まった魔法陣の性質が変わっていたのだ。
全身を覆っていた防御の力が、右手一点に集約されて、しかも物理強化へと魔法が変化していた。
「この魔法に名前をつけるなら、『身体性質変換・槍形態』。いわば一点集中攻撃全振りってとこだな」
「今の直夜の攻撃が当たれば、どれだけ強化魔法を使っても撃ち抜くでしょうね」
「当たればな。だが、圧倒的な弱点がある」
「わかってるさ」
直夜は確かに常人以上の身体能力を有している。
しかし対魔法使いとなると、強化魔法を使わないと近接戦に持ち込むのは難しい。
しかもこの魔法は、魔力のほとんどを右手に集めているため、直夜は自身の力のみで動かなくてはならない。
つまり、一対一では使いづらいのだ。
「だから、澪がいるんだろ」
突如、直夜の姿が3人に増えた。澪の魔法、「幻影」である。
「やっぱり、お前たちのチームプレイは精度が高い」
改めて蒼真は自分の守護者たちの実力を思い知った。
3人の直夜の攻撃を避け後ろに飛ぶと、そこには澪の姿があった。
「誘導されていたとはな。よく考えた動きだ」
「逃がさないわよ」
澪は空中に魔法陣を展開させた。
しかし、その魔法陣は蒼真によって砕け散った。
魔法陣は魔素、魔力によって形作られている。
そこへ蒼真は式を破壊する時と同じように、魔素の塊を打ち出したのだ。
「甘いぞ!」
澪の魔法を封じた蒼真は、そのまま澪へと突っ込んで行った。
そして回し蹴りを繰り出したが、澪の姿がかき消えた。
この澪の姿も、「幻影」によって作られたものだった。
「お前、『目』使ってないな」
「使ってたら不公平だろ。俺だけどんな魔法が来るかわかるからな」
蒼真の魔素を見る能力で魔素の流れを見たり、持ち前の頭脳で魔法陣を解析することで蒼真はどこにどのような魔法が発動するかを知ることができる。
「ほんとお前は敵に回したくないな」
「まぁ私たちが敵対することなんてないでしょうけどね」
そこまで言った時、戦いは再び動き出した。
今度は蒼真の方から直夜へ走り出した。
蒼真の繰り出した拳が直夜に当たる直前、彼らの間に地面から壁が生えるようにして生成された。
「はぁっ!」
出てきた壁を後ろに避けるでもなく、回り込むでもなく、突き出していた拳で壁を打ち壊した。
壁が壊れた先で蒼真が見たのは、壁や建物の瓦礫のみだった。
「蒼真ぁ!! これで終わりだ!」
後ろから現れた直夜は、蒼真のすぐ近くまで迫っていた。
直夜の拳を受け止めるべく構えた。
しかし、
「おらぁ!!」
直夜の一撃は蒼真の背中へと放たれた。
「がっ!! はっ……!!」
吹き飛んだ蒼真の体は魔法によってできた建物を数個突き抜け、広い地下室の壁まで到達した。
土煙を巻き上げ、建物が崩れ去り、一瞬にして直夜、澪の視界を奪い去った。
「もう……限界……」
体力、魔力共に消耗しきった直夜がその場に崩れ落ちた。
「や、やっぱ……『槍形態』は魔力の消耗激しいな……」
「そりゃね。でないとあんな威力でないわ」
澪も直夜の隣まで来て座り込んで言った。
安心したのもつかの間、澪はある異変に気付いた。
「土煙の流れが、変わってる?」
舞い上がる砂はある一点を中心に竜巻のように吹き上がった。
その竜巻は、土の茶色の中にほのかに魔素の青い色が混ざっている。
「あれは蒼真の……」
竜巻が晴れると、そこに立っていたのは鬼人化した蒼真だった。
「あ、あれを食らって……」
直夜が声を漏らした。
それもそのはず、蒼真の体には傷1つなかったからだ。
「あと少し鬼人化が遅れれば危なかった。なかなかの魔法だったな」
鬼人化による最大の利点は、圧倒的な自己治癒能力だろう。
たしかに身体能力や魔法の威力も大幅に増加するが、負けずに戦い続けることができるのは相手にとっても脅威だろう。
倒せたと思っても、時間が経てばほぼ無傷まで戻るのだから。
「あーあ。また負けたか」
直夜は仰向けになって中を見上げた。
「いや、お前たちの勝ちだ。鬼人化をしなければいけないほど追い詰められたからな」
「……負けは負けよ。でも、次こそはあなたが鬼人化したとしても、それを上回ってあげるわ」
澪の宣言に蒼真は笑みを返し、まだ倒れたままの直夜へ手を差し伸べた。
「直夜、立てるか?」
「ちょっと肩貸してくれ。魔力が切れてる」
魔力切れの体のだるさは、魔力を持つ魔法使いにしかわからない。
「澪。俺の魔力を分けてやってくれ」
「わかったわ」
澪は2人の背中に手を当て、回復魔法を発動させた。
回復魔法にも種類があり、体の傷などを治癒するものと、魔力を回復させるものがある。
また魔力を回復させるときは、自分もしくは別の魔法使いの魔力を分ける方法と、近くの魔素を魔力に変換して回復させる方法がある。
一般的には後者は効率が悪いため、分ける方法が使われている。
今回は澪の魔力も少なくなっているため、蒼真から分け与える形をとった。
「もう大丈夫。充分きてる」
魔力が回復した直夜が立ち上がって言った。
その時、周りの建物が一斉に消えた。
景色が元の殺風景な地下室に戻ると、唯一の入り口の近くで壁に手をつき立つ如月の姿があった。
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