鬼の魔法使いは秘密主義

瀬戸暁斗

百鬼夜行

「ただの遺伝の力ですよ」


 そう言うと、蒼真のかざした手の周りが少しずつ青く光りだした。
 そして溜まった光を式へ向けて勢いよく飛ばした。
 蒼真によって飛ばされた青い光は式に命中し、その瞬間霧散した。


「…結城…。お前、あの光は…」


「高密度の魔素です。それをぶつけて散らせました。人にはあまり言ってないんですが、魔素のコントロールができるんですよ。遺伝ですけど」


「そうか。悪いな。遺伝の事なんか人に教えるような事ではないのに」


「だからというわけではないんですが、俺の事はあまり周りには言わないで欲しいんです。幸い周りに生徒がいないので、見られていないですし」


「わかった。プライバシーの問題になってくるからな」


 魔法使いにとって、遺伝などの自分の能力の事は仲間や家族以外には秘密にしておくのが普通であるのだ。


「それより、あの式はなんの目的で入ってきたんでしょうか」


「そうだな。式の事は俺から先生方に伝えておく。お前は自分の仕事の続きをしておけ」


「わかりました。よろしくお願いします」


 式の校内への侵入の一件はこうして静かに始まり、静かに終わった。








 蒼真によって消された式を操っていたのは、例のフードの男だった。
 男は、眼鏡の男と共に部屋にいた。


「消されたか…」


 言うまでもなく式の事である。


「消されたって、あなたの式がですか?」


「ああ。それ以外に無いだろう」


 眼鏡の男は不安そうな顔をした。


「それは大丈夫なんですか?」


「必要な情報は十分集まったから問題は無い。そろそろ動くぞ」


「そうですか…。了解です」


 いまだに不安をぬぐいきれていない眼鏡の男とは対照的に、フードの男の目は冷たく光っていた。








 刻一刻と近づく男達の計画の事など露知らず、蒼真は風紀委員会会議室まで銃を見てわかった事の報告に来ていた。
 彼は、先程見た事やそれを見て感じた事などを伝えた。


「そうか…。それは何かおかしいな。それに式がいたのは何か関係があると見ていいかもしれない。アタシ達だけでは解決出来ないかもな」


「その事は他の生徒には言ってないわよね」


「はい。ですが、式を発見した時に赤木先輩といたので、式の事は先輩から先生方へ報告されています」


「そう。赤木君なら大丈夫そうね。伝えてくれてありがとう。まずは私達と先生方で話し合う事にするわ。何かあれば手伝ってもらいかもしれないからよろしくね」


「わかりました。見回りの方がに戻った方がいいですかね?」


「そうね。もう下校時刻だから、勧誘をやめるように言って回ってね」


 会議室を出て、蒼真は自分の仕事場所に戻る前にいろはへと連絡を入れた。


「あの、結城です。こちらの方は終わりましたが、何かお手伝いできる事はありませんか?」


『大丈夫ですよぉ。意外と早く処理できましたからねぇ』


 蒼真の知らない内に順調に進んでいるようだ。
 彼はまだ残っている生徒に帰るように促しながら、見回りを続けた。
 しかし、時間通りに帰っている生徒が多かったので、すぐに見回りを終えることができた。


 蒼真以外にも、他の生徒会役員や風紀委員の仕事も終わったようで、一度生徒会室に集まる事となった。


「みなさん今日はありがとう」


 集まった生徒の前で、恵は生徒会長らしく話した。


「今日は一件トラブルがあったけど、ちゃんと対処できたみたいね。明日からもよろしくね」


 簡単に話を終え、解散となった。








 蒼真と澪が家に帰ると、すでに直夜は帰ってくつろいでいた。


「おかえり。2人とも」


「ただいま」


 そんな和やかな時間が流れていたところに、急に着信音が響いた。
 この家には、2種類の連絡手段がある。
 結城家からの連絡のみの物と、その他の物だ。
 その着信音は異なっているので、すぐにどちらからなのかがわかるようになっている。


「父上か」


「そうね。繋ぐわ」


 そう澪が言うと、すばやくテーブルの上にあった端末を操作した。


「蒼真。久しぶりだな」


「お久しぶりです。とは言っても一週間ほどですが」


「それもそうだな。それよりもいきなり本題に入るが、近くで変わった事は無いか? 些細な事でも構わんが」


 蒼真は学校に現れた式の事を思い出していた。


「今日、学校に式が侵入していました。一応消しておきましたが、その式をどのような魔法使いが作ったのかは不明です」


「そうか…」


 それを聞いた謙一郎は、低く唸った。


「お前達の学校の近くで、少し不穏な動きがあると聞いている」


「そうですか。何か他に情報はありますか?」


「まだ情報は集めている途中だ。だが、前に魔法使いの高校生が襲われるという事件があっただろう」


「はい。犯人は非魔法使いだったというものですね」


「それと何か関係があると見ている。お前の事だから大丈夫だろうが、周りに影響が出て色々とばれる可能性があるからな…」


 謙一郎は、何か決心をしたようだ。


「蒼真。そろそろお前の『百鬼夜行』を持つべきだろう」


「……!」


 彼のこの言葉は、蒼真達3人にとって思いもよらないものだった。
 結城家当主の配下として、時に情報収集、時に武力行使も厭わない部隊。それが「百鬼夜行」である。
 そんな「百鬼夜行」を持つという事は、実質的に当主に相応しいと認められているという事になる。


「ですが、まだ——」


「お前ならできると信じているぞ。あと、そっちでもやりやすいように如月キサラギを送る」


「如月さんですか? でもあの人は、父上の『百鬼夜行』では?」


 如月は謙一郎の「百鬼夜行」の一員であり、蒼真達が幼少期に京都で過ごした際に世話係として世話になった人物である。


「関係の深い如月ならお前達ともやりやすいだろう」


「そうですね」


「ならこの件はお前に任せる事にしよう。頼んだぞ」


「え? ちょっと——」


 蒼真が言い返す間も無く、強引に連絡は切られてしまった。


「……」


「…蒼真。お前も大変だな」


「…ああ」


 この数分で、どっと疲れた3人であった。

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