悪役令嬢ですが、ヒロインを愛でたい

唯野ましろ

第2話 悪役令嬢ですが、婚約を回避したい



ぱちっ。
意識を取り戻すと、そこには天使がいた。






「お母様!!リリが目を覚ましたよ!!」


というのは冗談で可愛らしい兄の姿があった。


リリアンヌの兄のエリックも乙女ゲームの世界では、攻略対象の一人だった。ゲームの世界では、エリックは15歳で青年の姿に姿になっているのだが、目の前には利発そうな小さなエリック姿があった。




「リリちゃん!!よかった〜〜。
あっ、まだ動いてはダメよ。先生、リリちゃんをお願い致します。」


お母様は起き上がろうとする私を止め、お医者様に席を譲った。お医者様は脈を測ったり、熱がないかを調べ終わると両親と一緒に部屋から退出して行き、エリックだけが残った。



熱があったからなのか重たい体を起こそうとすると、エリックが駆け寄ってきた。


「リリ、まだ動いちゃダメだってお母様が言ってたでしょ?」


「おかあさまはしんぱいしすぎなのです。おきあがるくらいならだいじょうぶです。
それよりエリックにいさまあ、リリのおねがいきいてほしいのですが、ダメですかぁ?」


幼児特有の舌ったらずな口調になってしまうことに違和感を覚えながらも、可愛くお願いしてみる。


「何?リリが望むことならできる限り兄様が叶えてあげるよ!」


「かがみをもってきてほしいのです」


「鏡?何に使うの?」


「もってきてくれたらおしえます」


「わかった。ちょっと待ってて」



そう言うと、一目散に鏡を取りにエリックは部屋から出て行った。
エリックを見送った後、さっきからズキズキ痛む額をさすった。




「やっぱり、もうイベントはおこっていますよね……」



私はため息交じりに、もう少し早く記憶が蘇っていればと思ってしまう。
今の私は3歳で、最後にリリアンヌとしてある記憶はルカを庇ったということだった。



私が記憶を辿っていると、少し開いている窓から馬がリズム良く走っている音とガタンゴトンという馬車が揺れる音が聞こえてきた。通り過ぎたかと思うと、馬車は停止したようだった。


慌ただしくなるお屋敷の内の様子と外から聞こえる会話に、誰かがアルマニャック家に訪れたことを知らせた。




「おきゃくさまかしら?」





そうこうしている間にエリックが戻ってきたみたいだった。


「リリー入るよー。鏡持ってきたよ」


「にいさまありがとうございます。リリのおひざのうえにおいてほしいです」


「僕が持ってるから大丈夫だよ。それより何に使うの?」


「それは、こうするのです」


私は額に貼ってあるテープを剥がす。


それと同時にノック音がし、部屋にお母様が入ってきた。



痛々しい傷口が露わになると、兄様は固まってしまい、お母様は一瞬ハッとした顔をすると眉をひそめた。


私は傷口を凝視し、やっぱり跡が残りそうだなぁと思いつつこれから起こるイベントを予想し顔をしかめた。


それを、傷を見てショックを受けていると思ったお母様がベットの横の椅子に座り、優しく私の肩に手を置くと慰めるように口を開いた。



「リリちゃん。やっぱり、傷口は痛むかしら?
熱は下がったみたいだし、体の方も時期に良くなるわ。


額の傷だって塞がったら跡は少し残るかもしれないけど、お化粧で綺麗に隠すことだってできるわ。


だから、そんなに落ち込まないで……」



勘違いして心配してくれているお母様に申し訳ないと思いながらもイベントはもう起こっているのかどうかを確認する為にお母様に問いかけた。


「ルカさまは、ぶじですか?」


「あいつの心配なんてリリがする必要ないよ」


とエリックが口を挟んだ。
あれ、冒頭の天使なエリックはどこに?



「エリック……
ええ、ルカくんは無事よ。
リリちゃん三日間眠っていたから、一度お帰りいただいたのだけれど先ほどお見えになられたようよ」



私はまだイベントが起こっていないことを知り、今ならまだ回避できるかと思い考え込んでいた。


それをまたルカに傷を見られたくなくて、落ち込んでいると思ったお母様が



「ルカくんが放った魔法の暴走からルカくんを庇って怪我をしてしまったとルカくんに聞いたのだ——


「いいえ!おかあさま!
ルカさまはわるくないです!リリがまほうをみたいとルカさまにおねがいしたのです……。
ルカさまはまほうをつかいたくないようでした!
リリがルカさまにムリをいったのです!


それに、ルカさまをかばったのではなくリリがまほうをちかくでみようとして、こいしにつまづいてころんでしまったのです!
それがたまたまルカさまをかばったようにみえたのだとおもいます!!!」



私は、ルカに責任を負わせないように自分が悪いと食い入るように言い張り、ルカを庇ったのではないと主張した。



そうだ!これだ!と思った瞬間——



「ちがいます!!リリィはわるくないです!!
ぼくが、ぼくがまほうをうまくつかえなかったから……


ぼくのまほうで、たくさん木がおちてきて……
でも…ぼく…あしがうごかなくて……
リリィがぼくをかばってしたじきに……


ごめんなさい……」



やばい……
ご本人登場しちゃったよ……


ルカが顔を上げると、バッチリと目が合ってしまった。



「リリィ…その傷……」


私は額の傷をとっさに隠すと


「ルカさま、きにしなくてもおいしゃさまもじきになおるだろうとおっしゃっていたみたいですし、おけしょうでかくすこともできるとおかあさまが——」



ルカが小さな手を震えるように握ると


「ぼくが、いっしょうめんどうみます。


リリィどうか……ぼくの……


ぼくの、およめさんになってください!」



私は頭の中が真っ白になってしまった。



「キャッ」


とお母様が声を上げると




「おことわりします!!!」



と私が、


ではなくエリックが返事をする。



「エリック!
いくらリリちゃんが可愛いからってルカくんに意地悪しちゃいけないわ。
それに責任を取ってリリちゃんをお嫁さんにしてくださるなんて素敵じゃない」


「リリはずっとこの家にいればいい!!
僕が面倒見たっていい!!
リリを傷つけたお前になんか絶対渡すもんか!!」


「エリック!
口の聞き方が悪いですわ!!」


天使だと思っていた兄の暴走を背にルカが私の方に向かってきた。




「リリィはぼくのおよめさんになるのはいや?」


「え…えっt……」



ルカの可愛い整った母が私の顔を覗き込むように近づいてくる——



うっ…可愛い……



「いやなの?」





ますます近づく——



「いや?」



「いやではないです」



ルカがほっとしたように笑う。





可愛いってずるい………



          

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