『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

メイル、旅立ちの前

「……眠れません」

 夜も更けたが少女《メイル》は眠れずにいた。

 別に隣で寝ているマリアのイビキや寝言。歯ぎしりや寝相の悪さは関係ない。……きっと。

(義兄さんの事を考えて――――いえ、豪華なベットのせいでしょう。たぶん……) 

 体が沈む。 何か液体でできているのだろうか?

 身を任せ、全身を脱力させれば、疲れを翌朝に残さない。そんな質の良いベットなのだろうが……

(もう私もすっかり冒険者暮らしになれてしまったのでしょう。 硬い地面で毛布に包まって寝る方が安らぎます)

 クスリと苦笑しながら、窓を開ける。 外にはテラスが広がっている。

 月明かりに誘われるようにメイルは外に出て、夜の庭を眺める。

 すると――――

「貴方は……」

 翼の生えた少女が空から降りて来た。

 正義の勇者。 その力に目覚めた時、顕現した天使だった。

「話すのは初めてですね」

 少し、人見知りがあるメイルには珍しい。

 まるで昔からの知っているかのような感覚だった。 

「――――」と天使の声は聞こえない。

 しかし、そこから浮かべられる表情はメイルの言葉を理解しているように微笑んでいた。

「貴方とお話できればいいのに……」

「――――」
 
「あぁ、励ましてくれているのですね。ありがとうございます。私――――」

「あら、メイル。ここにいたの?」とマリアの声がした。

「起こしてしまいましたか? 少し、この子と話しをしていました」

「この子? 誰の事」とマリアは不思議そうな表情を浮かべていた。

振り向けば、天使の姿は消えていた。 まるで夢か幻のように……

「こんな時間に外に出てたら風邪をひくわよ」

「はい」と中に入ろうとして――――足元に落ちている物に気づくメイル。

「あら? そんな物あったかしら?」と小首を傾げるマリアにメイルは――――

「新しい友達からの贈り物みたです」と微笑んだ。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「それじゃ、メイル。 フランチャイズ家は全面的に貴方を支援します」

マリアはメイルに紙を差し出した。

「これはなんですか?」

「私の力で集めれる戦力です。もしよければ……」

「ありがとうございます」とメイルは頭を下げ、フランチャイズ邸を後にした。

 門を抜けて外へ――――その前に呼び止める声。

「待つにゃ」

「貴方は確か……」   

「ミケ・L・ダッシュ。今はミケラエルと言う名でよばれているにゃ」

 獣人の少女。 会うのは初めてではない。

 シルフィドさんが『薬局カレン』に手伝いに来て、それから―――― 少しトラブルを起こした少女だ。

「確か、マリアさんの保護下に入ったと聞きました」

「そうにゃ……マリア様のおかげで家族も救われたにゃ」

「それと……」とミケラエルは、少し照れたように顔を背けた。

「アイツのおかげにゃ。今、大変な事になっていると聞いたにゃ……だから、目を覚ました時にお礼を言いに行きたいから……が、がんばれと伝えてほしいにゃ」

「まぁ」とメイルは少し驚き。

「はい、必ず伝えます」と力強く言った。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


 メイルはその足である場所に向かった。

 マリアが用意した戦力の1人。 その住む場所は――――

『甘味処』

 パンケーキが有名な店だ。

 中に入ると美しい鐘の音色が店内に聞こえ、店員さんが顔を見せた。

「はい、いらっしゃいませ。 今日のご注文はいかがでしょうか?」

「いえ……今日は、義兄さんの、ベルト・グリムの師匠である貴方に助けをいただきにきました」

一瞬、店員の表情から朗らかさが消え、鋭い物が現れる。

「あらあら、何の事でしょうか?」

誤魔化すように微笑む。 しかし、彼女が強者である事を疑う者はいないだろう。

 

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