伽藍洞の世界　冥王との再戦

冥界を擬人化した人格。　

　いや、それは神の領域に達した者である以上、神格というべきか？

　冥王。　それは神の人柱である。

　今より、何年前だろうか？　まだ勇者カムイが、大魔王シナトラと戦い、敗北。

　勝てないと悟った頃の時代。

　ベルトは、その心臓を手に入れるため、肉体を有したまま冥界に沈んで行った。

　そこで行われた激戦。　

　歴史に名を残しながら亡者に落ちた猛者たち。

　彼等と統率する悪鬼や悪魔。

　そして――――冥王との戦い。

　「人の身で我の前に立つか……見事であろう」と冥王。

　その風貌は、老人でありながら……活力に満ち溢れていた。

　爛々とした瞳の色は、大きな野心を抱いているように見える。

　対して、ベルト・グリムは――――

「冥王……その心臓をいただきにまいった」

「その傲慢さ。快なりて、本気でいかせてもらう」

「上等だ！」と構える手には、最強の人造兵器であるサウザウンド・オブ・ダガー。　加えて――――

『これより放つは不可視の刃――――　刃には毒と死を混ぜよう――――』

　最強火力を放射するための詠唱を開始する。

『贈るのは不吉と嘆き――――

　生者は死者へ――――

　残るは灰のみ、全ては地へ戻る――――』

　全てにおいて強化されたベルトの一撃――――

　≪魂喰いソウルイーター≫

　その威力は冥界を揺らすには収まらず、隣接する魔界も、地上の人界も、あまつさえ、遥か天に聳え立つ天界すら、大きく揺さぶる事になった。

　・・・

　・・・・・・

　・・・・・・・・・

「いやぁ、さすがの俺っちも若かったからなぁ。黒歴史だぜ？　いぶし銀的な老人の方がカッコいいってイきり散らしちゃってなぁ」

「俺としてみたら、あの冥王が何と言うか……こんなにもチャラいと思ってみなかった」　

「いやいや、人の生死を司る神なんて、真面目じゃ務まらないよ。あっと言う間にうつ病患者だわ」

「いやだな……そんな冥王は」

「だろ？　人間も神も健康が一番……まぁ、冥界だから、みんな死んでるんだけどね」　
　
「……」

「冥界ジョークだよ。面白いだろ？　我慢せずに笑っても良いんだぜ？」

「……それで、戦うってなんのために？　お前の暇潰しをしてる暇はないのだが？」

「ひでぇ！　どこの誰だっけ？　人の体食っておいて体内で心臓に使うとか外道は？　暇？　何年も暇してたわい！」

　言い終えると冥王は突進してきた。　その手には、具現化されたグローブが装備されていた。

　いつの間にか、伽藍洞だった空間は闘技場によく似た風景に変わっていた。

「これは……俺の夢に関与している？　いや、乗っ取ろうとしているのか？」

「おいおい、戦いの最中に考え事ですか？　余裕ですね！」

打撃。　冥王の拳が叩き込まれる。　

防御。　辛うじてガードが間に合うも体が浮き上がるほどの衝撃。

「あれれ？　ベルトちゃん？　弱くなってねぇ？」

「……いいだろう。遊びはなしだ」

「いやいや、これお遊びだし。そう熱くなるなよ！」

　言い終えると同時に冥王は蹴りを飛ばしてきた。