『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

 魔王のコンセプト

 対ベルト用の戦略。

 その戦い方として魔王のコンセプトは単純。

 強烈なスキルの数々を使用できない距離での戦い。

 テーマは寝技での投げ技。

 寝ながら投げる。

 「なるほど」とベルトも徐々に理解を始めた。

 例えば――――

 上をとった魔王が腕十字を仕掛ける。 逆にベルトは腕を伸ばそうとしてくる力を利用して体を起こす。 

 魔王が下。ベルトが上。 

 状態が入れ替わったと思った瞬間に、魔王は腕十字を解くとベルトの腕を捻る。 そのまま、ゴロンと寝転がすと、再び魔王は上を取る。

 その時に手の平で鼻と口を塞いでくる。

 隙があれば、魔王は呼吸を阻害を狙っている。

 鼻を口を押さえたり、前腕で喉を圧迫してきたり……

 魔王の狙いは超長期戦。

 スタミナを削り、ダメージを与えれないような投げを多様しているのは、それだ。

 精神的にも、肉体的にも、動けなくなるまで繰り返す。


 『寝技は下の人間が上の人間の3倍の体力消耗がある』

 格闘技の世界には、そんな言葉もあるらしいが……なるほどとベルトは理解する。

 単純に自分と同じくらいの人間が乗っかって動き回るっている。

 それをなんとか、止めようと足掻いているんだ……そりゃ疲れる。
 
 いずれ、泥の海に放り投げられ、陸地を求めて泳ぐような酷い疲労に襲われてくるだろう。

 再び、魔王が腕十字を狙いに来る。 また、投げのフェイント――――いや、違う。

 今度は本当の腕十字だ。 ベルトは、あわてて腕を引き抜く。

 絡み合う両者。 魔王の腕がベルトの首にかかる。

 あの超低空ブレンバスター? いや、首に捻りを加え、折ろうと狙ってくる。

 ベルトは捻りに合わせて体を回転。 首が折れるのを防ぐ。

 ……これだとベルトは焦りを見せる。

 奇妙な投げを繰り返し、投げに慣れた頃合でベーシックな関節技をしかけてくる。

 今は対処できる。 だが、このまま疲労から判断能力が衰えてくると……

 ベルトは無理やり立ち上がろうとする。 だが、立ち上がり距離を取ろうと下がる足を魔王を掴み逃がさない。

 ベルト、そのまま転倒。

 そのまま、ベルトと魔王の足が互いに絡み合う。

 足関節。

 それを嫌がり反転。 その背中に魔王が乗っかってくる。

 絞め技。

 ベルトの首に魔王の手が伸びて絞め上げる。

 いや、首だけではない。 魔王の足がベルトの足も絞めてくる。

 胴絞めスリーパーホールド

 実戦では……少なくとも、この水準では実戦的ではないと思われた絞め技が真価を発揮する。

 意識を刈り取ろうと、魔王の絞めが強まる。 対抗しようとベルトは魔王を背負ったままの状態で立ち上がる。

 そう、ここに来て、ようやく……

 ≪致命的な一撃クリティカルストライク≫が放てる体勢が整った。

 真っ直ぐに……目標である魔王は背中で抱きついているにも関わらず……

 真っ直ぐに拳を放った。

 それにより生まれた衝撃はベルトの意思によって自在に動く。

 だから――――
 
 「だから、拳に衝撃を固定させて――――」

 ベルトは拳を自身の腹に向けて叩き込んだ。


  ≪致命的な一撃クリティカルストライク


 「生まれた衝撃は俺の背後へ移動する」

 「なっ――――」と魔王は最後まで口にする事はできなかった。

 衝撃。

 背後にいた魔王に衝撃だけが伝わり吹き飛んだ。

 
 

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