『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

その空間は液体だった

 その空間は液体だった。

 体重が消えたような浮遊感。 そして、嫌悪感。

 そこに2人の男が対峙していた。

 片方はベルト・グリム。 
 
 片方は暗黒将軍ルーク。

 ルークはかつて、竜王ゾンビが竜王の死骸ダンジョンだった時に戦った相手だ。

 魔王の力によって、首なし騎士デュラハンとなり竜王を蘇らす計画の中核だった人物だった。

 しかし、その計画はベルトの手で打ち砕かれ、本人も心臓に杭を打ち立てられ消滅した……はずだった。

ベルトは「なぜ?」とは聞かない。

一瞬の動揺のあと、既に戦闘状態に精神を整えている。

だが、ルークは違うようだ。


「私は蘇ってきたぞ、ベルト! しかも、竜王の力を手に入れた私はかつての私ではない」

そう言ってルークは笑う。高笑いっってやつだ。

それは全能感によるものだろうか?

巨大すぎる力を得て、激しい興奮状態のように見えた。


「新たなる肉体で貴様は撃破しても良いが……かつての私で戦わせて貰おう」


ルークの肉体が変化していく。

 黒い鎧は消えていく、およそ戦いには不向きな礼服。身に纏うのは巨大なマント。

首なし騎士デュラハンの肉体ではなく、吸血鬼バンパイアの肉体。


不死の王ノーライフキング


 姿が変わったルークから発せられる圧力プレッシャーが増していく。


 「行くぞ! ベルトおぉぉぉぉぉぉ!!」


 前に出るルークのその速度は――――


 「―――ッ!? 速い!」とベルト。


 踵落とし


 一瞬で間合いを詰めたルークが振り上げた踵を落とす。

 避けるベルト。だが、攻撃は終わらない。

 そのまま前のめりになり、続けて2本の手刀を振り下ろす。
 
 重さの無い空間だからこそ可能な連続攻撃か?

 今度は避けれず、両手で受けるも――――衝撃。

 受けた腕から全身に震動が走り抜けたような感覚。

 それにより、一瞬だけ無防備にさらされる肉体。

 当然ながら、その隙を見逃すレベルの相手ではなかった。

 ――――前蹴り

 ただの前蹴り。しかしベルトが感じた印象では至近距離での爆発系魔法を受けた衝撃に匹敵した。

内臓が圧縮されるような感覚。 呼吸器官も作業を止め、新鮮な空気を体内に取り込まない。

さらに目前にはルークの膝が迫っていた。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


「まさか、私の分身程度に苦戦するとは……それほどまでに私は強くなっていましたか」


ルークとベルトが戦っている場所より離れた場所。 ……と言っても、ここも竜王ゾンビの中だ。

そこにルークがいた。 ――――いや、正確に言えばルークの本体だ。

彼の言うとおり、今、ベルトが戦っている相手はルークではない。 彼が作った分身の1つに過ぎない。

そして、彼の目前には――――

眠るように横たわっているベルトがいた。



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