刹那の攻防　ルークの異変

　漆黒の大剣が輝きを見せた直後、「あっ！」と驚いたのはルークとノリスのどちらかだったのだろうか？

　吸血鬼の腕力は人間の常識では考えられないくらいに剛力だ。

　大剣であれ、童わらべが振るう木の枝と同等の重さにしか感じられない。

　そんな馬鹿げた腕力の持ち主が相手だからこそ、ノリスの一撃必殺に徹したのは正しい。
　
　どんな豪腕の持ち主であれ、吸血鬼と剣を交えるのは不可能だから……

　……敷いて言えば３人だけ。人類で３人だけ、吸血鬼の腕力に匹敵する人間がいるとしたら……
　
　　『剣の勇者』　カムイ
　
　　『超前衛戦士』　アルデバラン

　　そして――――



　『暗殺者』　ベルト・グリムだけだ。　


　ルークの剣戟をベルトは短剣で受けきったのだ。

　しかし、なぜ？　ベルトはメイルを助けに行ったのではないか？

　メイルを見捨てたのか？　そんな馬鹿な。

　もちろん、ベルトはメイルを見捨ててなどいない。単純に死鬼を壊滅状態まで追い込み、ノリスの助太刀に戻ってきたのだ。
　
　神速のノリスの突き。それをわざと受けて、大剣を振るったルーク。
　
　この間にルークはノリスに一言、二言、言葉をかけているのだが、それでも時間に換算して10秒に足りるだろうか？


　「……俺たちより、よほど怪物ではないか、ベルト・グリム！」


　ルークは、より力を込める。　ベルトを打ち飛ばすような強スイング。

　ベルトの肉体はルークから離れ、後方へ飛ばされた。

　飛んでいくベルトと同じスピードでルークも前に出る。


　「おのれ！　着地と同時に剣戟を打ち込んでやる」


　着地狩り。

　地面に足をつけた瞬間、その衝撃を吸収するために無防備になる無防備になる。

　ルークの行動はそれを狙っての事。

　だが、ベルトは着地の衝撃を逃がすように後方に倒れ始めた。

　それを見たルークは――――　


　（馬鹿な！　動きが止まるの嫌って、より無防備な体勢に！）


　罠の可能性も脳裏によぎるが、ここで引くわけにはいかない。
　
　振りかぶった大剣をベルトへ振り下ろした。

避けれるはずもない。受けれるはずもない状態。

だからベルトは――――


　《魂喰いソウルイーター》


魔力の刃を飛ばした。　

ルークはベルトを狙った剣の目標を魔力の刃へと変え、なぎ払う。

その瞬間だった。その瞬間に狙いを定めいていたベルトは――――


《二重断首刀ギロチンエックス》


切れ味を有した2つの手刀。　いくらルークの太刀捌きが速かろうと、もう間に合わない。

いとも簡単にベルトの攻撃はルークの首筋に入り……

素っ首を斬り飛ばした。

いくら不死身の吸血鬼と言え……いや、不死身の吸血鬼だからこそ、心臓を貫かれ、首を切断されて存在を維持することは不可能だ。

不可能なはずなのだが……


　（あっけなさすぎる。魔眼をアルデバランに奪われ弱体化していたらしいが、それにしても……）


そんな事を考えている途中だった。


　「まだだ！　ベルトさん、アイツは首を刎ねても死なないんだ。それどころか……アイツの体。中身がない・・・・・」　


　ノリスの言葉を聴いた直後、「なに！？」と反射的に首を失ったはずのルークの肉体を見る。

　首のない肉体は、既に立ち上がっており、確かめるように剣を振るっていた。


　「ノリス、あれがどういう事かわかるのか！？」


　「わかります。心臓を狙って、突いた時にわかりました。アイツの体は……鎧の下には何もありませんでした。ただ、魔力で鎧をコントロールしているだけ……

　アイツは、事もあろうに自分で自分の首を刎ねて、弱点である肉体の方を、どこか別の場所に秘匿しているのです！」