『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

幕間①そこには2人の修羅が立っていた

 
 「でも、これはマイナスからのスタートですね」

 ノエルの言葉にマリアはコクリと頷いた。

 わからないのはメイルだけのようだ。

 「えっと……何がマイナスなんですか?」

 「メイルちゃん、わかりませんか? シルフィドさんがスカートをはいている意味が?」

 なぜかドヤ顔のノエルだったが、メイルは皆目検討もつかない。

 「いいこと? 普段のシルフィドの服装を思い出してみなさい」と横からマリアが助け舟をだしてきた。

 「白い鎧……ですよね?」

 「そう! 普段のシルフィドさんは男装をしているのです!」

 ノエルの勢いに推されて「ふ、ふぇ!」とメイルは変な声を出した。

 「普段とは違う服装。当然ながら兄さんも気づいているはずなのです。しかし……まさかのスルー!」

 道端で片膝をつき、本気で悔しがっているノエル。

 彼女の肩に手を置き、マリアが追随する。
 
 「あのシルフィドが、心の鎧を脱ぎ去って女性らしい服装をする……あの子だって不安があるはずよ。そこで『似合ってるよ』の一言があってもいいはず……いえ、なくてはならない!」
 

 まるで、舞台役者のように大げさに……それでいて本気で熱い魂が込められた言葉だった。


 「え? でも、あの服を選んだのはマリアさんのはずですよね?」とメイルは小首を傾げる。


 「そうよ。あれは普段と違うギャップ。あえて、弱さを見せて相手を誘い込み、取り囲んで落城させるコーディネート!」
 

 「な、なんだか、軍師さんみたいですね」とメイルは、盛り上がっている2人とは対照的に、よくわからないままだった。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


 「いけない! うっかり兄さんの朴念仁ぶりに盛り上がってしまって2人を見失ってしまいました!」


 3人の視線の先からベルトとシルフィドは消えていた。

 「これも、兄さんの振る舞いが悪いからです!」

 「そうですわ。 あの男が女性の扱いと言うものがわからないからですわ」


 「さ、流石に、そこまで言うとベルトさんに悪いのでは……」とメイルは冷や汗を流す。
 それから――――


 「それに、この方向の通りを進んでいたのなら……。うん、2人の行き先はわかりますよ」


 「え?」と驚きの声をあげる2人。

 「ついてきてください」とメイルは駆け出した。

 メイルが向った先は――――


 「いえ、メイルちゃん。いくら兄さんと言ってもここではないと思いますよ」

 「普段の貴方がベルトさんのことをどう思っているのか、よくわかる場所ね」


 「え? 私、責められているのですか?」


 メイルが2人を連れてきた場所は道具屋だった。

 ベルト行きつけの道具屋。 メイルも良く連れられたきた場所だ。


「メイルちゃん、流石にデートで道具屋に連れて行くほど、うちの兄は……」

「でも、ベルトさん達は中に入っているみたいですよ?」


 メイルの言葉にマリアとノエルは店内を凝視した。

 ――――いた。 本当にベルトたちがいた。

 その瞬間、2人の脳裏にベルトがシルフィドを誘った言葉が思い起こされた。


 『マリアの命令でこの村に来てから、まだ間もないからな。町の案内もしないといけないなぁ』


 「まさか……あの男……」

 「に、兄さんは、デ、デートの誘い文句ではなく……本気で!?」


 それから「ひぃ!」とメイルが小さな悲鳴を漏らした。

 ノエルとマリア。その表情は――――


 そこには2人の修羅が立っていた。



 

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