『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

幕間①その炎の名は恩讐

 
 「ねぇ? 貴方はどうしたいの?」

 その言葉には毒が混じっていた。聞いた者を痺れさす、蕩ける甘い毒が……


 「アタイは……」

 「冒険者ギルドを破壊したい?」


 人々は麻痺している。

 そこにあるもの、どんなに悪くても仕方がない……と。

 それは、そういう物なのだから……と。

 批判はしたい。しかし、それを壊そうとは思わない。

 なぜなら、それは人々に取ってなくてはならないものなのだから……


 けれども、彼女は言う。


 「もしも、私の手に冒険者ギルドそれを爆破するボタンがあるとしたら……」


 そう言って獣人に手を差し出す。


 「貴方は、この手を掴むのかしら?」


 彼女の――――マリアの瞳には炎が灯って見えた。

 それは、美しく…… そして、見る者を凍えさせる黒い炎。


 「アタイは……」と獣人は目を背ける。
 

  しかし、それは否定の意思ではない。むしろ、逆だ。

 獣人がマリアに見たものは、目を背けたくなるほどに眩い反逆心。

 やがて、彼女の目にも黒い炎が灯る。


 その炎の名は恩讐。 


 もはや、狂信じみた復讐心と忠誠心。

 獣人はマリアの手を握った。


 「いいでしょ。契約はなされました。貴方が犯した罪、その賠償は全てフランチャイズの名において清算いたします。それから、貴方と貴方の家族は我が家の保護下に入ります。……それでも無実放免とはいきませんが、償いを済ませばすぐに私の元に来なさい」

 「はい、アタイの命は貴方様に託しますにゃ……いや、託します」


 「ところで」……とマリアは笑みを浮かべて聞いた。


 「私の名前は、マリア・フランチャイズ。貴方は何ていうのかしら?」

 「アタイの名前はミケ・L・ダッシュ……です」

 「そう……それでは私は貴方のことをミケラエルと呼ぶわ」  


 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・


 「……よかったのですか? マリアさま」

 「あら? 貴方は新しい同志に不満があるのかしらシルフィド?」

 「いえ、そのような事はありません。ただ、あのまま憲兵の所に連れて行かず家に帰るように言うのは……」

 「いいのよ。あのまま姿を眩ますなら、それまでの事。それに……」

 「それに?」

 「家族のために大規模組織と敵対するのよ? 暫く会えないなら一家団欒を楽しむべきだわ」

 「マリアさま……私は、今日の事で一層の忠誠を誓おうと思いました」

 「あらあら……買いかぶりすぎよ。もちろん、打算もあるわ」


 マリアはベルトの方を見た。


 「貴方は、あの子の事を――――ミケラエルをどう評価するのかしら?」


 ベルトは「そうだな」と少し考えてから――――


 「斥候スカウト野伏レンジャーに徹するなら現状でもAランク。近い将来にはSランクは確約できる実力だな」


 「ね?」とマリアは視線をシルフィドに戻した。


 「これで我が私兵団にSランク冒険者を迎える事ができたわ」


 「それも、お手ごろな値段でね」と付け加えるのを忘れなかった。

 それから――――


 「それじゃ私たちは帰るわ」


 そう言うと「え?」と表情を浮かべるノエルとメイルを連れて消えていった。

 帰り際、シルフィドに何やら耳打ちをしていたが、ベルトには聞こえなかった。

 ただ、その直後のシルフィドの顔に赤みが差しているの見ると、もしかしたら何か卑猥なジョークを言ったのかもしれない。


 「これから、どうしますか?」とシルフィド。

 「そうだな。まずは……」とベルトは懐ふところに手を入れて……

 「これを返すのを忘れていたな」と例のナイフを取り出した。


 シルフィドはクスッと笑い、「プレゼントしていただいた当日に役立ちましたね」と受け取った。

 「ところで使ってみてわかったのですが……」

 「ん?」

 「投擲用のナイフ1本では心ことなかったです。今日の記念にもう1本くださりませんか?」

 「あぁ、いいぞ。これから少し歩くけど……」

 「構いませんよ。私ももう少しだけ長く歩いてみたい気分だったのです」
 

 それから日が暮れるまで2人は町を歩くのだった。




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