『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

前日の儀式


 レオン対ベルト戦

 世紀の大決戦。すでに超満員礼止めと発表されている。
 そして試合の前日、ベルトはオリガスに到着している。
 ある儀式のためだ。 闘技者の上位2名が神の依り代として地下のダンジョンを駆け抜ける儀式。

 通称、ダンジョン祭り。

 言ってしまえば、これに参加する事がベルトたちの目的。
 正当な手段で都市の地下に広がるダンジョン――――第五迷宮。
 情報では、魔王軍が潜んでいると言われ、ベルトはその調査を冒険者ギルドから依頼されているのだ。

 ベルトたちにあてがわれた控え室。

 お祭り的なイベントでありながら、ベルトの控え室には試合直前のようなピリピリとした雰囲気が漂っている。
 ドアに貼られた「関係者以外立ち入り禁止」の紙に魔力的人避けの如く、迫力を醸し出している。
 そして、その中では……

 簡易的な椅子に座るベルト。
 周囲には2名。メイルとマリアだけがいる。
 ベルトは儀式用の白い服を身につけているが、意図的に上を肌蹴はだけさせている。
 そして、その腕にはある模様がこびり付いている。
 一見すると黒い蛇が絡み合うような墨タトゥーのように見えるが……実は違う。

 『呪詛』

 魔王シナトラが討ち死ぬ直前にベルトに施した秘術。
 それがベルトの体を蝕み、冒険者として能力の大半を失っていた。
 しかし、それは『聖女』であるメイルの登場で一変した。
 メイルのスキル≪浄化≫によって『呪詛』の効果は薄れていき、ベルトは冒険者として復帰する事になったのだが……

 「呆れた。まさか、直前になるまで私にさえ隠してたなんて」

 ため息混じりにマリアが言った。
 ベルトは「すまない」とだけ返す。

 「……それで? 原因はなんなの?」

 「おそらく、前回の戦いで使ったスキル……≪死の付加デス・エンチャント≫が『呪詛』に反応したのだろう」
 「反応? ちょっと、それどういう事なの?」
 「お前も知っての通り≪死の付加デス・エンチャント≫は冥王の心臓を食べた事で、俺が一時的に冥王と同じ力が使えるようになるスキルだ」

 ベルトの言葉にマリアは頷いた。

 「魔王の不死は冥王が与えたもの……だから冥王の力で魔王を殺せる存在に堕した。しかし、それは魔王と冥王の親和性の強さの表れでもある」
 「親和性? つまり、魔王と冥王は友達だから、互いに影響を与え合う関係性って事ね?」

 「その通りだ」とベルトは頷き、話を続ける。

 「おそらく、俺が冥王の力を発動したのが原因で、弱らせていた『呪詛』が、魔王の力が活性化したのだろう」
 「それじゃ、もう≪死の付加デス・エンチャント≫は使えないって事?」

 ベルトは「あぁ」と頷き、それから「もとより人間相手に使うような技じゃなかったがな」とおどけてみせた。

 「なるほど、原因は分かったわ。それでどうするの?」
 「どう? ……どうってなんの事だ?」

 その返事にマリアは大きなため息をついた。

 「貴方に取って本番は明日のレオン戦なのでしょうけどね。冒険者としての仕事は今日が本番なのよ? それで……そんな体で大丈夫なの? もし、無理そうなら儀式の延長を交渉してみるけど……」
 「いや、大丈夫さ……いや、それは治療をしているメイルに聞いて貰ったほうが良い」

 治療に専念していたメイルの顔が上がり、ベルトと目が合う。

 「大丈夫です。少し大変ですが、普段通りに動けるように『呪詛』を押さえ込みんでみせます」

 ≪浄化≫のスキルを使い続けている彼女にも疲労の色が見えている。
 しかし、それを誤魔化すようにメイルは笑顔を見せた。

 「私は……いや『聖女』の力はこういった時のためにあるのですから」

 そんな彼女にベルトは「すまない」と言いかけて言葉を変える。
 「頼んだぞ」と短いながらも信頼が含まれた言葉だった。 
 無論、メイルも信頼を感じ取り――――

 「はい、頼まれました!」

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