『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

冒険者ギルド 初依頼

 『薬局カレン』は基本的に昼から店を開けている。

 それは店主であるベルトが薬草の採取、薬の製造を午前中に行うためだ。

 しかし、平常時から薬の在庫品は余裕を持たせている。加えて週末であり、妹のノエルが店番をしてくれる。

 このタイミングを利用して、ベルトとメイルは町の冒険者ギルトへ向った。



 ―――冒険者ギルド――― 



 「ここが冒険者ギルトですか」



 メイルは町の中心部に聳(そび)え立つ巨大な建物を下から眺めた。

 剣と杖が交差された紋章エンブレムが掲げられている。

 木製の扉をくぐると――――



 「あれ? 薬屋のおじさん? どうしてギルドに」



 ベルトは少年たちに囲まれた。初心者冒険者たちだ。

 皆、軽装の鎧。不釣合いに大きな剣を背負っている。



 「所用でな。そんな事より、カイト」 



 ベルトは名指した少年の剣を指差す。



 「その剣、武器屋で砥いで貰え。たぶん、刃が欠けてるぞ」



 途端にカイトと呼ばれた少年は驚きの声を上げた。



 「――――!? すげぇ、どうして鞘の中の剣がわかるんだよ!」

 「冒険者に取って洞察力は重要だからな」



 「それとエリオ」と次は隣の少年に話しかける。



 「お前、痩せたな。俊敏さが増したって? 言い難いが、お前……呪われてるぞ。そのペンダントだ。すぐに払ってもらえ。いいな?」

 「次、オリジン。お前、新しい魔法を覚えただろ? 勉強熱心だな。良いぞ」

 「レンジ、武器は慎重に選べ。見た目を重視するなよ」

 「レツ、怪我を繰り返しているだろ? その鎧は変え時だ。毎日、激しい戦闘を繰り返すと僅かなサイズの違いでも体への負担は大きいぞ」



 ベルトは、次から次へと少年たちの近況を言い当て、一言だけアドバイスを付け加えていく。

 少年たちは目を輝かして、尊敬の眼差しを向ける。

 そんな中、1人の少年が「その子は誰?」とベルトの背中に隠れるように立っていたメイルに気づいた。



 「おっと、すまない。この子はメイル。俺の……親戚だ。今日から冒険者登録するお前等の仲間になる。いろいろ教えてやってくれ」



 少年たちの興味はベルトからメイルに移った。 

 メイルは人見知りなのか、おどおどとしていたが、少年の1人が――――



 「へぇ~お前、職業は? よかったら俺等のパーティに入るか?」



 そう言うとメイルの様子は一変した。



 「いえ、私はベルトお兄さんと一緒と決めているので」



 どこか反論を許さない口調。それでいて、恍惚とした表情。

 騒いでいた少年たちは、少女の異変に一歩だけ後ろに下がった。

 それに気づかないベルトは「うん? どうかしたのか?」と疑問符を浮かべている。



 「洞察力……」と誰かが呟いたが、その声はベルトの耳まで届かなかった。



 話も1段落つき、「それじゃ、今度店に顔を出せよな」とベルトはメイルは受付に向った。

 まだ午前中と早い時間だろうか? 受付も忙しくなく、暇そうだ。

 その中から、1人の受付嬢に話かけた。



 「すまないが、この子の冒険者登録を頼む。それと俺の冒険者復帰登録を」

 「はい、わかりました。では、冒険者登録の方は、この登録書に目を通して、よく確認の後にサインをお願いします」



 受付嬢はメイルに書類を手渡し、今度はベルトの方を見た。



 「それでは復帰登録ですね」

 「あぁ、頼む」

 「復帰には冒険者ライセンスが必要になりますが、お持ちいただいていますか?」



 「あぁ……」とベルトは首にぶら下げている冒険者ライセンスを取り出した。

 一瞬、見せるのを躊躇したが「仕方がない」と受付嬢に手渡した。



 「はい、確認させて……え?」



 受付嬢の動きが止まった。表情からは激しい動揺が見て取れる。

 なわなわと口を震わせて、今にも叫びだしそうな――――



 「SSSランクの冒険者…… ベルト・グリム…… 」



 しかし、受付嬢は顔から表情が抜け落ちたかのように豹変した。

 どこか、ぼんやりとした虚ろな表情になると――――



 「確認してまいります。少々、お待ちを」と立ち上がり、ふらふらと歩いていった。



 横からメイルが「何かしたのですか?」と目をパチクリさせていた。

 「さぁね?」とベルトは誤魔化した。



 本当は、≪毒の付加ポイズン・エンチャウント≫を利用して受付嬢に精神安定剤を打ち込んでいたのだ。

 こうして、メイルの冒険者登録。ベルトの冒険者復帰はあっさりと終わった。



 ――――しかし、今日の本番はここからだ。

 メイルに取っては初の依頼クエストに挑む事になる。



 「初心者向けの依頼クエストでお薦めは?」



 ベルトは受付嬢に尋ねた。



 「こちらはどうでしょう?」



 まだ視点が定まらず、黒目がグルグルと回っている受付嬢であったが、しっかりとした手つきで依頼クエストの資料を見せた。



 「討伐系か。初心者向けにしては難易度はやや高め……どうだ?」

 「はい、お兄さんが大丈夫と言うのであれば、これで構いません」



 こうして、ベルトとメイルの2人組パーティは初の依頼クエストは決定した。

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