『元SSSランクの最強暗殺者は再び無双する』

チョーカー

オークの群れと弱体化の痛感

 オークの群れからハイ・オークが飛び出してきた。

 通常のハイ・オークよりも足が速い。

 様子見の尖兵といったところか?



 対して――――

 今のベルトは無手だ。

 唯一の武器だった短剣は、友へ送ったばかり。

 それを差し引いてベルトから出た言葉は――――



 「舐められたもんだぜ」



 迫ってくるハイ・オークの数は12匹。

 1匹の戦闘能力はCランクの冒険者と同格。

 しかし、群れになるとSランク冒険者でも不覚を取りかねない。



 「だから、近づく前に殺やる」



 ベルトは素手に魔力を込める。



 ≪魂喰いソウルイーター



 本来なら、離れた場所にいる相手に斬撃を飛ばす暗殺用魔法。

、暗殺者を極めたベルトにかかれば、魔法職が詠唱をもって放つ究極魔法と匹敵する威力に。

 具現化された魔法の刃は、ハイ・オークたちを切り裂く。

 それも尖兵の12匹だけに留まらず、背後で待機していたハイ・オークたちにまで甚大な被害を与えた。

 だが、その成果に対してベルトは「ちっ」と舌打ちをする。



 (まさか、ここまで威力と精度が落ちてるとは……暫く斥候せっこう役と暗殺術しか使っていなかったからなぁ)



 信じがたいことに自身の衰えを痛感していたのだ。

 そんなベルトの内心知らず、さらにハイ・オークの背後にいたメガ・オークが動いた。

 メガ・オークはハイ・オークよりもデカく、何より装備がいい。

 どうやって装備を手に入れているのだろうか? 鋼の鎧と剣を持ち、剣術らしき技まで使う。

 メガ・オークは間合いを一気に縮めると、ベルトの頭上から剛剣が振り下ろされる。

 ベルトは簡単に素手で剛剣をいなして避けた。

 通常のオークよりも知能が高いと言われるメガ・オークに驚愕の表情が浮かび上がる。

 それも一瞬だけだ。

 すぐに白目を剥いて、背後に倒れた。



 ≪毒付加ポイズンエンチャント



 素手に毒を付加させ、メガ・オークの剣をいなすと同時に毒を打ち込んでいたのだ。

 ここまでやってようやく、オークたちは戦力差に気づいたらしい。

 途端に逃げ腰に――――いや、実際に逃げ出し始めた者もいる。



 しかし――――巨大な咆哮が闇夜を揺らした。



 ギガ・オーク



 トロールすら凌駕すると言われる巨体。

 周囲を威圧するように金色に輝く鎧と武器。それらは本物の純金で出来てる。

 本当にどうやって作ったんだろう? 冒険者の誰もが同じ疑問を浮かべるがギガ・オークの生態については、まだ未知な所が多い。

 幸いにしてギガ・オークは1匹だけ。コイツが群れのボスだろう。

 持っている武器は巨大な両手斧。 馬鹿げた大きさだ。



 (もう少しだけ、待ってくれよ。俺の体!)



 ≪暗殺遂行アサシネーション



 ベルトの気配が消え、姿も朧になり、知覚すら出来なくなっていく。

 だが――――



 「ぶぉぉぉぉぉぉ!」



 ギガ・オークは両手斧を地面に叩き付けた。

 爆散したが如く、四方へ弾け飛んだ石礫いしつぶては、姿を消したベルトにも届く範囲攻撃。

 巨大な石は素手で弾いて防御する。しかし、小石や砂埃まで避けれるはずはない。

 体に纏わりつき、消えていたベルトの姿を明らかにする。

 ギガ・オークは勝利を確信したかのような笑みを見せた。

 姿が消せない暗殺者など、餌でしかない。そう思っているのかもしれない。



 「うがああああああああぁぁぁ!」



 ギガ・オークは動きが鈍くなったベルトを握りつぶそうと、その体を掴んだ。

 ――――そのはずだった。

 次の瞬間、ベルトの体は幻のように消え去った。



 「悪いな。ソイツはただの残像だ」



 声の主でベルトは、ギガ・オークの頭上より高く飛び上がっていた。

 素手であるはずの、その両手には刃物の煌きが備わっていた。



 ≪二重断首刀ギロチンエックス



 大木たいぼくと見間違うほどに太いギガ・オークの首。

 それがあっさりと切断されると、周囲に鮮血をばら撒きながら頭部を失った胴体が倒れた。



 他のオークたちは既に逃げ出していた。

 圧倒的な勝利だ。

 しかし、ベルトは勝利の余韻に浸るでもなく、ただただ自身の弱体化を痛感した。



 やはり――――



 手の震えも酷くなっていた。




コメント

  • 音街 麟

    「ソイツはただの残像だ。」かぁ!カックイイね!
    ちなみに、俺の一度は言ってみたい言葉の一つだ!(誰得?

    1
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