ようこそ20年前の英雄さん -新種のせいで波瀾万丈生活-

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6話 金策への作戦会議

ファルガが顎髭をさすりながら口を開く。
「さて、まずは当面のニクスの面倒を誰が見るかだが…俺んとこ来るか?」

すかさずシェイナが強い語気を伴って口を開く。
「いいえ総司令、それには及びません。ニクスのお世話は私がさせて頂きます」

すかさずニクスも至って冷静に口を開く。
「俺としてはお前らに面倒を見てもらうつもりは全く無いのだが。」

「…。」
「…。」
「…え?何だ?俺が何故お前らに面倒をかけなければならん?」


ファルガが引き続き顎髭をさすりながら言う。どうやら癖のようだ。

「お前さん、まず金無いだろ?」
「着の身着のままで20年後なんて来たんだから金なんて無い…なんて言うと思ったか?ここはアルミナで、俺はアルミナ軍属だ。銀行口座に金くらい…」
「お前さんの過去の報酬か、あれな、もう無いぞ?」
「…は?」
「お前さんが戦死となったその瞬間に軍がな、持ってった。いやーおかげで我が軍は潤沢な資金を持ってあらゆる兵装を整えることが出来た!ありがとう、ありがとう。それに口座は悪用されないように凍結済だ、なんせ英雄の口座だしな。同じ名前で作ることは不可能だろうなぁ。故にお前さんは現在一文無しだよ?」


次いでシェイナが真面目な面持ちでニクスに問う。

「貴方、まさかニクス・レギオライトのまま生活しようとか考えていませんか?」

…そうか、そうだった。世間的に俺はKIA戦死扱い。それが20年前の姿のまま突然現れて「私がニクス・レギオライトです」なんてまかり通る訳がない。そもそも知り合いが極端に少ないのに面割れだけは常人より無駄に多いこの俺が。こいつらと話していたことで感覚がおかしくなっていた。まずい。状況がまずすぎる。

「ニクス、貴方はもう名を変えなければなりません。今の一言で分かって頂けたとは思いますが貴方の名は、貴方の功績は、貴方の歴史は、貴方の与り知らぬところで独り歩きしているのです。そしてもうそれは引き返してはこない。」
「改名ぐらいはなんてことないが…。やはり先立つものが無くなっていた事実が…」
「それは私ではなく総司令に仰って下さい」
「おい。そこの初老。珈琲啜ってる場合か?金返せ」
「俺が総指令になる前のことだから何とも出来ん!それにもう銅貨1枚たりとも残ってないだろうしな!!はっはっは!!すまん!!!」
「くそっ…!!過去の自分を殺してやりたい…!!」
「さっきまで故人だったよ、お前さんは」

落ち着け。落ち着けまだ道はある。商店でバイトなんてしていたら日が暮れる。どうあっても個人の拠点が無ければ困るんだ、誰かとの共同生活なんて御免だ。何か…何か手っ取り早く稼ぐ方法が…

…あった。ギルドだ。

「ファルガ、ハンターズギルドはまだ稼働しているか?」
「ギルド?あぁ、ギルドは健在だ。ただ最近は昔ほど物騒ではない。俺も最近は顔を出していないから詳細は分からんが、お前さんの記憶にあるギルドよりも報酬は出ていないようだぞ?あと以前は王都内のみの依頼を受け付けていたが、それだとハンターがあぶれちまってな。今は王都外の依頼も受けている。そうかその手があったか…」

ギルド。

所謂【なんでも屋】だ。20年前は王都内の貴族・商店・個人からの依頼を請け負っていたが、現在は危険度が低く報酬も同様に低下したことにより王都周辺の街・村・個人からの依頼もギルド1か所にまとめ、ハンター自ら選び請け負うようになったという。そしてその依頼内容に見合った報酬が出るシステムだ。王都内と王都外の違いとして纏めると以下のようになる。

・王都内
依頼主のギルドへの発注:有償。(依頼レートにより変動)
ハンターのギルドからの受注:有償。(受注金として銀貨200枚。依頼達成の際に返還される。)
報酬:依頼品を納品後、ギルドから報酬金を貰う。魔物の素材は基本的にギルドの総取りとなっている。
依頼レート:E~B(討伐を目的とした依頼は少ないが、過程として戦闘はある。)
指名制度:レートCから有。

・王都外
依頼主からのギルドへの発注⇒無償。
ハンターのギルドからの受注⇒無償。
報酬⇒依頼品を納品後、依頼主から直接報酬金を貰う。魔物の素材は基本的に依頼品以外ハンターの総取りとなっている。
依頼レート:G~S(主に魔物の討伐が目的となるものが多いのでレートの変動があり得る。)
依頼主からの指名制度:レートに関係なく有。

このように王都内外で有償無償の違いが出ているのには、単純に貧富の差から来るところが大きい。ハンターは自分に見合った内容の依頼を受けるのだが大体はアマチュアは王都内、練度が増してきたと実感した頃から王都外の依頼を受けるようになる。そして王都内のハンター個人の信頼度が大きいほどギルドからの王都外の依頼に推薦され易い。もちろん自分から請け負うことも出来るが、アマチュアの内から積極的にギルドに通い王都内の受注を受けることでハンターとして名を馳せ、いずれプロのハンターとして食っていくことに繋がっていく。


「そうか。シェイナ、現在ギルドから魔物の討伐依頼は出ているか?」

ニクスから話を振られたシェイナはポケットからギルドIDを取り出す。ハンター同士の通話・メール、ギルドの依頼掲示板の閲覧などを主としたモバイルガジェットだ。

「王都内で1件、王都外で2件。それぞれレートBです。先日Aが1体出ていましたが、A⁺ランクのハンター3名により早々に駆逐されたと聞きました」
「なるほど、そのハンターは優秀だ。ならば俺は支度が整い次第そのレートBを狩りに行く。種族と報酬は?」
「王都内は怪鳥種ですね、個体は雷大鳥ボルトバードです。王都外は2件ともに怪猿種と報告されていますが個体は共に不明ですのでレートも前後するかもしれません。1件につき銀貨10万枚といったところですね」
「今の物価で30万あれば、住む場所と着るものには困らないか?」
「物価に然したる変化はありません、食事の面でも贅沢をしなければ半年はもつでしょう。雷大鳥ボルトバードはダイヤモンドクリフでの目撃、怪猿種の1件はアニマフォレスト第1ブロック、もう1件はストラ村への直接襲撃です。アニマフォレストの方は8割方森の番人フォレストエイプで間違いないでしょうが、ストラ村の方は不明です。同行致します」
「レートBが3件ならレートA1件にも満たないだろう。時越えなんてイレギュラーなことに今の自分の戦闘能力が落ちていないか不安でもあるからな、確認も兼ねて単独で請け負いたい。ファルガ、銀貨200枚分俺のIDに送っておいてくれ」
「ん…?お、おぉ。わかった。だがな…」

ファルガの顔が急に神妙な面持ちに変化する。


「ヘマはしないさ。誰だと思ってる?」
「お前さんの強さは疑っていない。だが10割そうだと言い切れるか?」
「総指令の仰る通りです…」

帰ってきた戦友を、師と仰いだ大切な人を、ファルガもシェイナも只々再度失いたくないと思っていた。10年前、涙が枯れるほどに泣いた。シェイナもそうだ。もう俺たちはお前を失うこと繰り返すことはしたくない。そんな悲痛な表情を2人ともニクスへと向けていた。

ニクスは改めて二人に身体を向き直し、冷静に伝える。

「そんな確率は10年前だって同じなはずだ、今も昔も、変わりはしない。死ぬときは死ぬんだ。俺も、お前も」
「ストラ村の怪猿種が未確認の新種だったらどうする?レートSSだったら?お前さんが弱くなっていたら!!それでも大丈夫だと言えるのか!?」


新種。その言葉を聞いて一瞬思考が止まってしまったもののニクスはつい笑みが零れてしまった。さっきトレミー神だったヤツに言われたのだ。

「今のキミは新種だ」と。

口を覆って笑うニクスを見て不思議そうな顔をしているファルガとシェイナに、ニクスは冗談めかして告げた。


「大丈夫だ、神から言質はとってある」







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