ようこそ20年前の英雄さん -新種のせいで波瀾万丈生活-

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5話 ファルガとシェイナ


「ーーという夢を見たんだが」
「なるほど…。にわかには信じられない話だが、お前さんのその姿を見れば…それはそれは信じざるを得ない話だ」
「そうだろうなぁ。俺もそう思う」
「人ごとみたいに言わないでくれるか…。唐突に現れたかと思えば相変わらずだなお前さんは。二十年前と全く変わらん」
「そりゃそうだ。二十年前から来たんだしな。ファルガは老けたな、初老だな」
「はぁ…。どれだけ説明されても状況が飲み込めんぞ……と言いたいところだが、飲み込まなきゃならんな。あと、そのトレミーとやらから詳しい話は聞かないとな。あと初老はやめとけ同年代だぞ傷つくぞ」


アルミナ軍基地本部で俺は一人の男と対峙していた。相変わらずのお調子者だ、コイツは。


ーーファルガ・ディクタムナス。俺と同時期に軍に入隊。戦闘面もさることながら(俺より弱いが)、現場の指揮において最も実力を発揮した男。コイツならいずれはと思ったが…

「アルミナ軍総司令官とは、大躍進だな」
「おう!口八丁手八丁ありとあらゆる搦手を使ってのし上がってやった!!」
「弱味につけこむお前のやり方こそ相変わらずだ…」
「人聞きの悪いことを言うな、そういうのはここぞという時に使うのだ」
「それにしてもファルガ。よく俺がニクス・レギオライトと言って納得したな?」

そう言うと、オールバックの赤髪を触りながらファルガは呆れた顔をした。

「そりゃあお前…二十年なんの音沙汰もなくそのままKIA戦死扱いになったヤツの名前で軍の正門で『ニクスが来たとファルガに伝えろ』っつって警備兵に言ってみ?当然の如く不審に思う警備兵に『埒が開かない、総司令官と言ったな?ならば総司令室に風穴を開けてやれば俺の声も届くだろう』とかなんとか言って武器振り回してみ?そんで駆け付けてみてその武器がWWWインドラだったら……そりゃあ俺のよく知るニクス・レギオライト以外有り得なくねぇか?姿形には驚かされたが傲岸不遜なその面構えは忘れたくても忘れねぇやな」
「まぁ…そうだな。その夢から醒めた後があまりにも踏んだり蹴ったりでついイライラしたんだ…」

覚醒後、リーファルの市場街道ど真ん中に立ち尽くしていた俺の目に飛び込んで来たのは今まさに己を轢き殺さんと迫り来る竜馬車の姿。為す術なく俺は…

「轢かれちまったと…天下のSクラスホルダーさんが」
「あぁ…まるでギャグもいいとこだ。屈辱すぎる撥ねられ方だったぞ…まさか20年経って馬が地竜になってるだなんて思いもしなかった」

そう、撥ね飛ばされた。そのまま理想的な放物線を描き俺は雑貨屋と思しき露店の屋根を突き破り落下。怒り狂う店主に謝り倒した後は一目散に軍基地へ走った。人生であれほど謝ったことはない…完全にパニックに陥っていたと今になって思う。

「ぷっ…笑いすぎて腹がよじれそうだ…見たかった…くそっ!!マジで見たかった!!!よく死ななかったなお前さん!!いや、さっきまで戦死扱いだったけどな!!」
「はしゃぐな初老」
「悪い悪い、目の前の若いお前さんを見てるとこっちまで若くなった気になるな!」
「二十年後の同僚を目の前にしてる俺の身にもなれ。まぁでも…変わりなくて何よりだ」
「変わりなくて…か…。変わっちまったことは色々あるんだぜ?あ、茶も出さず悪ぃな。ちょっと待ってろ。おーい!シェイナー!茶だー!!あとなんか適当に持ってこーい!!」
「シェイナ?シェイナというとあの…」
「おう、お前さんもよく知ってるあのシェイナだ」

そんな他愛ない会話をしていると静かにドアがノックされた。室内の会話を邪魔しない配慮されたノック、嫌いじゃないな。

「失礼します」
「シェイナ…なのか?随分と変わったな」
「えぇ、貴方はお変わりないようで」
「久しぶりだな。大きくなった」
「なんせ…二十年経ちましたから…。無事に家督を継ぎ、父からGガーレの刻印も譲り受けました」

シェイナ・マドラス…いや、家督を継いだのなら今はシェイナ・G・マドラスか。俺が知っているのは六歳の頃のまだまだ小さな娘だった。その頃から知的な印象はあったが六歳児らしくよく懐いてくれていた。幼い頃はロングヘアだった淡い緑の髪は、今は肩につかない程のショートヘア。将来は父親を超える知識と魔術を手に入れたいと息巻いていたが、Gガーレまで辿り着くとは…本当にあの親父さんを超えたんだな。

ーー刻印。文字通り身体に刻み印すそれは古より継がれる莫大な魔力の塊。

そして四大貴族。

Gは風と叡智。家系は“マドラス”。

残りの三貴族は
Iは火と力。“イルナルーア”
Aは水と財。“シュルツ”
Sは土と豊穣。“シナリス”

そして四大貴族とは別枠にいる王家の“アルミナ”ーーーV。Vは生命と安寧を司る。これらが国を取り仕切ることでこのアルミナ国は回っている。四大貴族の方は、シェイナが家督を継いだのならば他の三つも代替わりしたのかもしれないな。

そんな考えに耽っていると、ふとシェイナの声がした。


珈琲コーヒーはブラックでしたよね?ここ、置いておきます」

音を立てないように置かれたティーカップからは程よく焙煎されたコーヒー豆の芳醇な香りがする。先刻、新種に茶と称した謎の液体を飲まされた俺としては若干口にするのに抵抗があるが…

「血とか入ってないよな?」
「血…ですか?お望みとあらば入れますが?二十年会わない間に血液嗜好症ヘマトフィリアにでもなられたのですか?」
「いや、何でもない、忘れてくれ…って忘れたいのは俺か…」
「何をそんなに青ざめておられるのですか。そんなに嫌な記憶なら消してしまいましょう。総司令、忘却魔術オブリビオンの詠唱許可を下さい」
「あぁ、そうしよう。直近1時間ほどの記憶をまっさらにしてくれ。口と内臓の洗浄もしたい」
「お前さんら驚くほどに冷静な漫才してんなぁ…。割と切迫してると思うぜ、状況的に…」

最後にファルガに突っ込まれた俺はとりあえずティーカップに口をつける。


ーー!!もの凄く美味い。


的確に俺の好みが分かっている抽出方だ。

そういえば俺の珈琲はいつも彼女が淹れてくれていたな。いつも誰かに頼むのが億劫で、自分で淹れようとする度に『私にやらせて下さい』『私の仕事です』とか言ってたっけ。終いには俺が飲みたいタイミングまで分かるようになってたな。その礼に、色々教えてやったものだ。

「シェイナ」
「はい」
「美味い」
「はい」
「昨日、六歳のお前が淹れた珈琲よりもだ」
「当たり前です」
「そうか」
「いつ帰ってきてもいいように練習してましたから」
「…そうか」

表情は崩さないものの、照れ臭そうに少し顔を赤らめるシェイナは、俺の知っている幼い彼女と同じものだった。ちょっとした安堵感を覚えると、ファルガが短く整えられた顎鬚をさすりながら口を開く。



「ーーーちなみにその練習相手は俺だ。さて、それじゃあ今後の方針を決めるぞ。作戦会議といくか!!」

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