第21話、シリアスゲーム

「わ、私は……太陽寮に残ろうと思う」
　微かに声が震えているリサさんから、僕が今、一番聞きたくなかった声セリフが聞こえた。
　……考えろ、僕。何処で間違えた？何でリサさんの心に迷いが生まれてる？
　皆との突然の別れだから？いや、その理由は昼のリサさんの行動と辻褄が合わないし…僕への信頼は十分にあったハズだし…国外へ出る最後まで、隠し通すべきだったかな…いや、それだとさっきの会話の時点で不審がられて、骨なしチキンのリサさんはビビって付いてこなくなるだろうし…。
「リサさん…！？な、何で、ここまで来て？」
　僕は当然の疑問を口に出す。態々聞くなんて、僕の思考速度が確実に遅れている証拠でもあった。
「何で…って……優！貴方が、約束してくれたんじゃないか！私を、救ってくれるって！孤独な現状から…私を変えてあげるって……！」
　原因は……説明不足か。参ったな……時間が無いんだけど。
「そうだね…今も、その為に動いてるつもり何だけど、皆と離れるのは嫌だった？」
　言葉を慎重に選びつつ、リサさんとの心の距離を一定に保つ。近すぎても、遠すぎても、今の彼女にはダメだ。
「違う、私が言いたいことはそうでは無い…！分からないか？皆を置き、私だけ国外に行くなんて、そんなの…最初の私と…逃げたのと、同じじゃないか！！」
　……怒ってて、でも、声は震えてて…正直、痛々しくて見ていられない。
「同じじゃないよ。前とは一つだけ、違うところがある」
　相変わらず何もかも不器用な、彼女の目を真っ直ぐ見て、僕は話した。

「僕が付いてる」

「あ……そ、そんなの…言い訳だ！逃げる事実は変わってない…っ！まさか、優は…私を騙そうとしてるのか……？」

『…あぁ、その通りだとも。リサ！その犯罪者サトリから離れろ！』

　バシュッ！

「………っ！」
　…！？危ないっ！僕は慌てて、後ろへ一歩下がった。直後、僕が立っていた地面に、鉄の矢が土を抉り、深く突き刺さった。
　……よく見ると、動かなくてもギリギリ刺さらないであろう場所に、矢が刺さっている。威嚇射撃か…。

「…良く、僕が、リサさんが。ここに居るって分かったね……ジキルさん」
　両手を顔の横に上げ、争う意思は無いことを伝える。
　それよりも…ジキルさんに見つかった。これは…時間切れだ。
　しかもいつの間にか、リサさんと繋いでいた手を離してしまっていた。僕も、年貢の納め時だね。

「…分かったんじゃない。そして、お前のように心が読める訳でも無いが、ここに来れたのは…私の勘だよ。そこを動くな！化け物め…よくもレオン司令官をやってくれたな…！」
　弓を構えて、僕を睨んでる。迂闊に行動したら、矢で貫かれるね。

「な、なんで、ジキル…」
　不安や驚きを一緒くたにした様な瞳で、リサさんはジキルさんを見ている。

「リサ！…何をしているんだ！来い、私の後ろへ！」
　ジキルさんの低く壮烈な声が、空気と鼓膜を震わせる。
　その声を聞いて、リサさんは…。
「あ…あぅ……私は…私、は………」
　……動けなかった。

「……リサ？どうしたんだ？何をしている…！？」
　ジキルさんが困惑してる。全く、本当にね…正直、リサさんが何を考えてるのか、何も分からない。

　だけど…今が最後のチャンスだってことは、分かる！
「リサさん、聞いて！君が今取れる選択は、2つに1つだ！」
「…喋るな！！」
「うっ……」
　クソっ、駄目だ！初対面じゃないから、ジキルさんには僕の手札がバレている。助かりたいからって、焦ってジキルさんの静止の怒号を無視して、心臓を矢で貫かれたら本末転倒だ。

「ハッ…！まっ、待て、ジキル！優に、話させてやってくれないか…？」
　リサさん…いい意味で、予想外の連続だ。
「リサ…！？落ち着くんだ、コイツは…詐欺師何だぞ？」
　心外だなぁ。
「詐欺師でも犯罪者でも良い！私は…優の、声が聞きたい！ジキル、後生だから…どうか優に、最後のチャンスをやってくれないか…？」
　リサさんがジキルさんの目を真っ直ぐ見て、哀願した。僕は今の都合上喋れないから、リサさんだけが頼りだ。

「ふざけるな……駄目だ！リサ、お前は昔から…他者に優しすぎる！コイツは悪人だ！足をすくわれても良いのか！？」

「違う……優は、優は悪い人じゃない！！私の手を握り返してくれたんだ！優と出会って少しの兄さんに、優の何が分かる！？兄さんの…この……バカぁ！」

「えっ…」ﾎﾞｿｯ
　今僕たぶん意図せず驚嘆の声を上げたんだけど……聞き間違いかな？まぁ(聞き間違えたとか)そんな訳ないし、驚こうか。
　ほげぇぇぇぇ！？ジキルさんってリサさんのお兄さんなの？嘘でしょ！？あとリサさん罵倒の語彙力低す
「なンだと…？バカは俺の台詞だ！たった一日でこんなガキに絆されやがって…リサ！あと30秒以内にさっさと俺の後ろに来い！さもなくば…ガキを討つ！」
　リサさんの言い訳にカチンときたのか、一人称が俺になって言葉遣いも荒くなった……今、ジキルさんの素が垣間見えたね。
　そして僕の命がこのままだと残り30秒で尽きるんだけど、どうしようかな。まぁ僕からはどうしようもないんだけど。

「や、やめろ！優を討つな！」
「ならさっさとこっちに来い！ガキから離れろ、手元がブレて矢がお前に当たったらどうする！？」
　言葉の節々からリサさんを心配してるのが窺える。家族か……僕にはもう居ないから良く分からないけど、良いものだね。

「私は、そっちには行けない！兄さんの言い分も分かるが…そう、貴重な鉄矢を私の血で無駄にしたくないのは分かる！だが」
　…………うん、もう慣れたよね。
「アホか！！そう、じゃねぇよ！！お前昔から察し悪すぎなんだよ！矢が汚れる？その発想は無かったわ！」ﾀﾞﾝﾀﾞﾝ!
　その場で地団駄を踏むジキルさん。心中お察しします。そして既に30秒経ったんじゃないかな。言わないけど。
「え、えっ…じゃあ、どういう事なんだ…！？」

「…いや、ジキルさんはリサさんが心配なんでしょ。君は本当に人の心が読めないね、今回は特に酷かったよバカじゃないの」
　…あっ。

　ヒュガッ！！

　僕の足元に矢が刺さる。そして冷や汗が一雫僕の頬を流れる。これもう絶対に喋ってはいけない異世界転移24時じゃん。

「やめろ兄さん！優に手は出すな！」
「誰のせいだ！……良いからこっちへ来い、リサ！約束してやる…こっちに来さえすれば、そのガキは殺さん！そして、お前の悩みも解決してやる！どうだ、まずは…兎に角こっちに来ないか？」
　はっ、笑わせるね……ジキルさんの余りにお粗末な甘い誘い。リサさんをバカにするのも大概にしなよ。

「なに、それは本当か！？」ｽｯ発進
　バカすぎる！！

「バ…リサさん、それ絶対嘘だから！騙されないで！」
　っと、本音が……。

「えっ！？」ﾋﾟﾀｯ急停止

「ガキィ！黙ってろって言ってんだろ！殺すぞ！」
　弓矢を向けられる。許して。

「……？？わ、私はどっちを信じれば良いんだ……？」ｵﾛｵﾛ
　僕とジキルさんの間を右往左往するリサさん。
　これは不味い……！！半々の確率で負ける！それぐらい今のリサさんには、主体性が無い！

「俺を信じろ！リサ！」
「僕を信じて！リサさん！」

「ぅー…あぅ……あぅ……」ｸﾞﾙｸﾞﾙ混乱

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ーー次回。第22話、『選択』
運命を決めるのは、最早読者に委ねられた。


目次から選んで、優かジキル、どちらかのルートを見よう！

お察しの通りジキルを選ぶとバッドエンドだから、
お前はここで終わりだがな！！ネタバレ
このまま次の話に行くとジキルルートを見るハメになるよ！ジキルルート略して痔ってね！
バッドエンドアレルギーの人は目次から優を選ぼう！
まぁジキルを選んでも実は大して問題ないから、
お前はここで終わりだがな！！













お前はここで(ry