チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第18話、予め想う外

 僕は今、太陽軍本部から太陽寮に向けて、暗い外を息が切れない程度に走ってる。暗いと言っても、月明かりで道は見えてるけどね。時間は4時ぐらいかな、体感だけど。

「ふぁー……やっと着いた……」
 そこそこの距離を走って、太陽寮に到着。思わず気の抜けた声が出た。
 勿論ここまでの道のりは覚えてたけど、レオンさんが発見される迄というタイムリミットが有るのは、幾ら僕でもちょっと焦る。
 もしも、もう少し時間が経てば情報が広がり、この軍関係者のほぼ全員から狙われて、僕は間違いなく、それも呆気なく捕えられる。
 そうなったら一巻の終わり、僕は有刺鉄線で縛られて五体不満足になるまで拷問され、最終的にはホルマリン漬けにされた脳だけの生ける屍と化すだろう。あーこわ。
「ん…?待て、そっ…そこの貴様、動くな!」
 異世界に飛ばされてからすっかり聞き慣れた声が、太陽寮の扉付近から聞こえた。と言うかかなり近くに居る。5メートルぐらい?
「僕は貴様って名前じゃないよ、リサさん」
 何故か泣きそうな顔になってるリサさんに近付いて…気づいたら、意図してない笑みが溢れてた。
 ……と言うかリサさんの服装がジャージもどきから、いつもの軽装備に戻ってた。僕のこと探すためかな、だとしたら楽な服装からわざわざ着替えさせて、悪いことしたかも。
 と言いつつ…リサさんにはもっと悪いことするけど。これから先の行動は全部リサさんの為だけど、当の本人が…はいそうですかと、素直に納得してくれるか…まだ、分からない。
 取り敢えず1つ分かることは、もう戻れないってことかな。



「まぁ再会を喜んでる余裕は無いんだけどね」
 太陽寮の周囲をグルグル回って僕を探してたらしいリサさんに、ひとしきり心配された後、リサさんの部屋に移動したよ。
 時間も無いのでさっさと本題に移る。
「え…!?また勝手に何処かに行くのか…?」
 不安そうな、まるで主人に置いてかれた小動物の様な瞳で僕を見るのは、正直やめて欲しい。罪悪感。
「もう行かないよ。と言うかむしろ僕は攫われ…いや、1から説明してる暇も無いね。リサさん、紙と…書く物ある?ペンとか鉛筆とか」
 レオンさんの為にも置き手紙を残して行きたい。無かったら無かったで良いけど。
「行かないか!そうか、良かった……あ、紙とペンなら、軍に支給された物が…確かここら辺に……あった!」ガサゴソテロリン
 リサさんがクローゼットの中の下段から取り出したのは、素人の僕が見ても価値が分かる……黒を基調にし、華麗な金の装飾が施された万年筆だった。加えて、紙は驚くほどに白く、上質なスクロール紙。
 クローゼットの下段に置かれてた引き出しの中に、めちゃくちゃ雑に仕舞われていた物とは思えない程、高級そうな紙とペンが出てきた……。
「ありがと、じゃあリサさん、そのスクロール紙の裏面の…えーっと、ここにね。レオン司令官へ…リサ・カーペントより…他の者開封厳禁、って書いてくれない?」
 置き手紙、僕が書いたら怪しまれるしね。誰にでも見える所だけは、リサさんに書いてもらう。
「な、なぜ司令官の名を…いや、それよりも。私の名を借りて、この手紙を何に使う気だ?」
 訝しげな表情かおで僕を見つめるリサさん。流石に多少の警戒心は持ってるみたい。あのリサさんでも。
「色々とね、困ってそうなレオンさんを助ける為に使うんだ。何なら僕が書く内容を横から覗き見してくれても構わないよ」
 リサさんは覗き見しないって確信してるからこそ、ハッキリと告げる。ここは、嘘偽り無しって態度を貫き通す。
「んん……そうか。司令官の為…ふふっ、全く、手紙の内容を覗き見などするものか。優が私の名を使って悪行をする…と言うのも、私には想像出来ない。だから…」サラサラ
 そう言ってリサさんは手紙の外面を、高そうな万年筆を使い慣れた動作で巧みに操り……って、うわーぉ!しまった、これ異世界文字だ!文字が読めなーい!!
 いや、え?待って待ってこれはヤバい、完全に予想外なことが起こった。余りにも精度が高くて忘れてたけど、そう言えば僕、翻訳魔法が掛かってたんだった。
「これ…で…よし、私のお手製だ!受け取れ、優!」ニコッ
 満面の笑みでスクロールを僕に渡そうとするリサさん。対する僕の反応?………あそ〜れそれや〜らかしたやらかした〜(思考放棄)。
「ごめん、受け取れない…リサさんの書いた文字が読めない……」
 ちなみに今僕は絶望してるよ。言わなくても分かると思うけど。
「え!?そ、そんなに汚い字じゃ無いだろ!」
 違う、そうじゃない。
「違うんだ、リサさん。僕、そもそもこの世界の人じゃなくて、異世界出身だからさ…文字が全く読めないんだよね」
 正直に無知を晒すのは…ヤバい、恥ずかしい。うー、迂闊だったなぁ……翻訳魔法は文字まで読ませてくれる訳じゃないんだね…。
 僕がそう言うと突然、リサさんの動きが固まって、床にスクロールを落として、ぱちくりと大袈裟な瞬きを数回して、ジッと僕を見た。

「は……え、はぁぁ!?おま、冗談だろう…い、異世界出身って、優が!?ばかぁ!そんな重要なことを、なぜ、今まで黙ってたんだ……!!」
 うるさっ。僕が話した直後、リサさんに両肩をガッチリ手で掴まれた。怒ってるような悲しい様な、悲壮感のある表情で、僕の目を見つめてくる。
「えっ……」
 えっ今更過ぎ……あれ?僕、異世界出身だって言ってなかったっけ…?45000文字ぐらいの思い出を、記憶を頼りに考え直す。
 ……いや、言ってたじゃん!!自己紹介のときに!異世界から偶然こっちの世界に来た高校生…って!
「落ち着いて聞いてリサさん。僕昼間に言ったよね?異世界から来たって」
 具体的には第4話で言ったよね?
「ふぇ…?え…っと……いや、やっぱり記憶に無いぞ。言ったって、どの時だ?」
 僕の両肩に手を置いたままの姿勢で、至近距離で聞いてくる…近くない?
「どの時って…昼間に僕がリサさんの過去を予想したら、リサさんがちょっと怯えつつ、僕に君は何者なんだって聞いて来たでしょ?その時だよ、確かに言ったよ?覚えてないの?」
 そうか…あの時のリサさんは軽くメンタルブレイクしてたから、僕の言葉を聞き流してしまってたんだね。
 割と重大なことをカミングアウトしたつもりだったのに、リサさんの反応薄くね?とは思ってたけど、そういうことだったのか…。

「えっ……ああー思い出した!ほ、本当だ…!ど、どどどどうしよう、このままじゃ…わた、私たち、処刑されてしまうぞ!!」

 ……うそぉ。

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