チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第8話、白花蛇苺

 太陽軍本部。実質的にこの国を統べる大規模な軍事施設。の、中に入ろうとした。けど、門番に止められて無理だった。
 だから今は太陽寮に帰る途中。徒歩で。
「優、本当にすまない…私の力が及ばなかった…」
 リサさん、つまりは太陽の騎士団隊長の権力を持ってしても、身元不明の僕は内部に入れなかった。
「リサさんのせいじゃないよ…寧ろ、僕が建物の中に入れなくてちょっと安心したよ」
 簡単に入れたらこの国のセキュリティを疑うね。だから安心してる。
「だが…私は優に、指揮官と話せると、嘘をついてしまった…」
「気にしてないよ、大丈夫。心配性だね」
 リサさんについての知りたいことはほとんど知れたし、周囲からの扱いもほとんど分かった。
 やっぱり、実際に現場に行かないと分からない事の方が圧倒的に多かった。
 それこそ最初…てっきり僕は、リサさんが軍の関係者全員から無視されるレベルの嫌われっぷりを覚悟してたんだけど、別にそんなことは無かった。
「だが……」
 リサさんは今みたいに少し面倒くさい所を除けば本当に人格者だと思う。
「だがもナイフも無いよ、まずは部屋に戻って、それから今後について話そうよ」
 今後と言っても、リサさんの抱える問題は直ぐに済みそうだけど。
「…それもそうだな。だっ…コホン、その…件の事について、解決の目処は立っているのか?」
 リサさんが孤独(嘘)の事について心配そうに聞いてきた。
「作戦について、迂闊に話すのはちょっと嫌だねー。聞かれたくないから、出来れば個室で話したいかな」
 念には念を。聞かれようが、暴かれようが、どうやっても失敗はしなさそうだけど、億が一って事も、まぁ…無いだろうけど。
「そ、そうか。凄いな、優……よし、早く寮まで戻るか!」
 えっ、走るの!?わわ、恋人繋ぎのまま、走ろうとしないで欲しいなぁ……言わないけどさ。


「……あっリサ隊長、奇遇ですね。会えて嬉しいです!」
 太陽寮の入り口扉を開けた直後に聞こえた、女性の明るい声。
 だけど、どう見ても寮の玄関付近で出待ちしてた様に思える。第一声に奇遇、なんてね。
 とか、考えてたら…うわ、冷たく纏つく様な殺気が……考えでも読まれたのかな。この人は誰なんだろう。
 …と言うか、ここに向かって走ってる途中で少し立ちくらみがした。お腹も空いたし、割と疲れてるし、眠い…言わないけど。勿論、態度にも出さない。隙は見せたくないから。
「あぁ、私も嬉しいよ。む…ローズ、何か運んでいるのか?」
「はい、今度の公開演習の時に使うお花さんを…いえ、それより。リサ隊長、隣の少年は?」
 黒い目にハイライトが入ってない165cmぐらいのローズと呼ばれた長い白髪の女性は、僕を吟味する様にジッと見ている。
 加えて、隠し切れない殺意が漏れてる様な気がする。ほぼ確信してるけど。
 でも凄いなぁ、リサさんの前なのに…あぁそっか。この人恐らく、例のファンクラブのNo.1かな。うーん、油断したら殺されかねないね。
「あぁ、優…良いか?」
 リサさんが確認して来た。勿論おっけー。
「初めまして。僕は内津 優って言う名前で、リサさんとは友だちだよ。よろしくね」
 自己紹介。ローズさんとは争いたい訳じゃないし、穏便に済ませたいなぁ。
「あら…友だち……ふふっ、そうだったんですか。私はローズ・ホワイトベリーと言います。優さん、こちらこそ、よろしくね」ニコッ
 笑顔なのに殺意が凄い……敢えてノーコメントで。
「優、説明しよう。ローズは私の為に何時も料理を分けてくれる、私の大切な部下何だ。ローズ、毎日すまないな…」
 分ける…作ってくれる、の間違いじゃないの?
 それに加えて、毎日…この人が最もリサさんに近付いてそうだ。ファンクラブNo.1ってこと、まだ予想の範疇だけど、間違いじゃなさそうだね。
「謝らなくて良いんです、隊長。私がついつい、作りすぎてしまうだけですから」
「そうか…昨日も、ありがとうな」
 あー、そういう事何だね。
「ふふ……所で、優さん。此処はもう寮内ですけど、何時までリサ隊長と手を繋いでいるおつもりですか?」
 ローズさん、独占欲凄いなぁ。
「それもそうだよね。リサさん、手離そっか」
 絡んだ手と手をスッと離す。
「あっ……優…」
 うわー。名残惜しそうな声は出さないで欲しかったなぁ…今回は本当に。
「ふーーっ……えぇ、私は大丈夫です。お二人がどういう関係であろうと、私は大丈夫ですよ」
 ローズさん、それは真顔で言う台詞じゃないと思う。湧き出る怒りを全力で無にしようとしてるし。
 そろそろローズさんのブラックリストに僕の名前が載りそうだから、ちょっと行動に移そうかな。上手く行けば良いけど。
「リサさん、僕の気の所為かも知れないけど…何だか、名残惜しそうだね。手…繋ぎたい?」
「へ?…い、いや、大丈夫だ……」
 寂しそうなリサさん、露骨過ぎ。あざといのに、わざとらしくないのは凄いと思う。
「そうかな…?僕には」
「優さん、妙な勘繰りはやめた方が良いと思いませんか?」
 …想像以上に食い気味だなぁ。本当に好き何だね、リサさんのこと。
「……ローズさんこそね。少し良い?」ジッ
 少し長めに視界の中心に彼女を捉え、アイコンタクトを送る。彼女からは何だか僕と似た様な、何かを感じるから…即興の目配せでも、きっと伝わると思う。
「…えぇ、構いませんよ?リサ隊長、すみません、彼…優さんと話をしても?」
 察してくれるの、助かるなぁ。
「……?あぁ、優から言ったのだ。話し合うのは良いと思うが…優?私の部屋に戻って作戦を話すのでは無いのか?…何か考えがあるのか?」
 ……うん。リサさんはこういう人だから。
「ソウダネー。考えがあるから…リサさん、先に部屋で待ってて。後で合流するから」
「…分かった、私のために無理に急がなくても大丈夫だからな。また会おう」
「リサ隊長、お心遣い感謝します。また会いましょうね」
 僕達を気遣った言葉を放った後、リサさんは自分の部屋へ向かってくれた。
 ローズさん、優雅な感じがする人だなぁ。未だに目にハイライトが無いことを除けば、まるで白百合の様だ。なんてね。
 ……まぁ実際問題、手強そうな人だ。よーし、頑張ろう。交渉開始だ。

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