チートじみた転生ボーナスを全て相棒に捧げた召喚士の俺は、この異世界を全力で無双する。

ジェス64

第3話、太陽の中の砂漠

「………」
 人通りの少ない離れの道をリサさんと一緒に歩く。
 ……けど、リサさんは無言で、最初の出会った頃と一転して、空気が重苦しいモノになってしまっていた。
 しかも、こうなってしまったのは殆ど僕のせいだから、僕からリサさんに話し掛けるのも、気持ち的に苦しかった。
「……すまない、優。私は、自分の立場も考えず、少し舞い上がってしまっていた様だ……」
 かなり落ち込んでいるリサさんが、申し訳なさそうに話す。
「ねぇ、リサさん。悪いけど……この話の続きは目的の場所に着いてからお願いしても良い?」
 こんな事を言うのは、リサさんを突き放したい訳じゃない。

 ーー僕達の後ろ、誰かにつけられてる。
 誰かは分からない。リサさんは気付いて無いけど、僕は昔から人の悪意には敏感だから、気付けた。
「……ぁ、あぁ!あはは…す、すまない、こっちだ…」
 リサさんが痩せ我慢して、空元気を一瞬見せてきた。けど、途中で折れたみたいだった。
 言い方、少しキツかったかも……もう少し改めるべきだったかも知れない。
 リサさん、出来れば察してくれないかな。
「うん、早く行こう」
「………」
 この場の冷めた空気が辛い、リサさんの痛々しい姿を見ていられない。でも、他人の悪意に対して隙を見せたら何をやられるか分からない。
「……リサさん、分かる?」
 だからこそ、現状を変えなきゃいけない。僕はリサさんの手を握る腕に、ギュッと力を込めた。
「どうした、優……っ!まさか!?」バッ!
 リサさんがハッとした様子で驚き、気が付いたのか、後ろを振り返る。僕を握っていた手は自然と離れた。
 同時に、後方の人の気配が遠ざかる。捕まえるには少し遠いから、追うのは諦めた方が良いかな。
「クソっ…いいか、優!ここから動くなよ!私が奴を捕らえる…!」
 リサさんが走り出そうと身構える。
「あっ待って」
 僕はリサさんの手を握って、動きを止める。
「なんだ!?」
「追わなくて良いよ、リサさん。人影は1人だったし、犯人はきっと君を嘲笑おうとする、下衆な民衆の端くれだから」
 後方の人影はここまで僕らが歩いて来た道の逆の方向へ逃げ出した……ってことは、歩いて来たルート的に、これ以上僕らを追い掛けるのは無理。
 深追いする気は無いみたいだから、犯人の底が知れる。
「し、しかし……」
 リサさんは追い掛けたそうにしてる。意外な反応だ……どうしよう。捕まえようと思えば道は覚えてるし、たぶん行けるけど、捕まえるメリットが薄すぎる。
 やっぱり、犯人確保はやめておこう。
「愉快犯に無駄に時間取られたく無いでしょ?……ほらリサさん、行こう?」
 我儘な子供をなだめる様に、語り掛ける。
「あぁ、分かった……」
 リサさんは苦虫を噛み潰したような表情で、僕を連れ、寮舎へ向かって歩き出した。


 15分ぐらい歩いて、やっと目的のそれらしい建物の前まで着いた。思ってたより遠かった…。
「……着いたぞ、優。紹介しよう、此処こそが私の所属している軍が管理する大規模寮舎、太陽寮だ」
 名前ダサっ。けど、見た目は立派だ。入口の木製の大きな扉が目を引く、屋根とか除いた大部分が白い石作りの大きな建物だった。大理石っぽいけど、まだ確信は持てない。
「すごーい、全然風化してないんだね」
「真っ先にそこなのか……」
 リサさんは呆れている。うーん何でだろう。
「この寮舎って、居住者は何人居るの?この規模なら、多くて100人ぐらい?」
「今居るのは確か…30人程だ」
 予想外に少ない!
「えぇーっ!随分と少ないんだね」
「それは…そうだが……優、立ち話も疲れるだろう。話の続きは私の部屋でしよう」
 人少なすぎな自覚はあるみたいだ。うーん不思議だなぁ。まぁ、詳しいことは後でリサさんに聞けば分かるだろう。

 それから少し歩いて、人とすれ違わないまま、リサさんの部屋の前まで来た。
 と言うのもこの太陽寮、全然他の人を見ない。寮って何だろう。
「ここが私の部屋だ」ガチャ
 ……幾らリサさんと言えど、女性が男性を部屋にこんな気楽に入れて良いものなのかな。
 僕の心配を他所に、リサさんは僕が部屋に入ること事態は全く気にしていない様子だった。
 ちょっと複雑な気持ちになりながら、玄関で靴を脱ぎ、部屋に入らせてもらった。

「うわー、凄いなぁ」
 彼女の部屋の中は砂漠を連想させる程、何も無かった。大きめのベッド。壁に飾られた剣、クローゼット。以上。
 バスルームやトイレは脇に見えるドアの先に有るんだろうけど、メインルームは本当に何も無い。安いマンションの一室より家具が無い。
「少し殺風景かも知れんが、適当にくつろいでくれ」
 多少は思う所があるのか、気恥ずかしそうにリサさんが話す。
「どこで?」
 だけど僕は、何かもう、リサさんの提案に反射的に聞いてしまう。部屋に椅子すら無いのは本当に予想外だった。異常だよ。
「そうだな、そこら辺で待っててくれ」
「いや待って。僕の眼前にはベッドとクローゼットしか無いんだけど、リサさん大丈夫?この部屋と比べたらアリの巣の方がまだ情報量あるんだけど」
 リサさんが目を丸くして此方を見ている。いや何でこの人驚いてるの?驚きたいのは僕の方なんだけど…。
「ゆ……優!人の部屋にそんな事を言ったら駄目だろう!そんな、馬鹿にした様な…!」
 えぇー……怒られた。何で?
「馬鹿にはしてないよ、されるべきだろうけど。聞いて、リサさん。僕は生まれて初めて人の住む部屋を見て砂漠を連想したよ。ハッキリ言って異常だよこの部屋」
「な……なっ、優、貴様……っ!」
 リサさんはわなわなと怒りで震えている。
「リサさん……」
 凄いな、この人……色んな意味で。
「くっ…私の部屋の何が可笑しい!言ってみろ!くだらん理由だったら、許さんぞ…!」
 許さんぞと言うか……許されなくても良いよこれ。思ったこと全部言っていいのかな……まぁ言うけど。
「……まず、玄関の靴置きの上の埃。これ、暫く放置しないと出来ないタイプの埃だから、キチンと掃除して。僕は兎も角、この時点でリサさんが掃除が適当な人だと思われるのも嫌だから…まぁ、百歩譲ってそこは別に良いよ。僕が言いたいのはこっちの部屋…何これ?テーブルとイスは何処に行ったの?このまま強盗の被害届け提出しても無事に受理されそうなぐらい何も無いんだけど。床も砂漠っぽい砂の色した絨毯だし、そもそも光源がね、その、窓しか見当たらないんだけど。おまけに生活感が恐ろしい程に無いのもダメだよね?分かる?本も絵画も暦も時計も、棚や掃除に使う道具も何も見当たらないってどういうことなの?家具がベッドとクローゼットしか見つけられないし、その数少ない家具ですら女性の部屋の私物とは思えないほど装飾が無いし、たぶん僕の予想ではクローゼットの中もアレだと思っ…あっ」

 リサさんが泣きそうな表情で此方を見てるのに、気付いてしまった。ヤバい、完全にやらかした。
「…優、わた、くっ…!私が悪かった…す、すま、なっ……」プルプル
 リサさん泣きそう。別に僕はSっ気のある性格じゃないから、今の事態に焦る心しか生まれない。
「わー!謝らないで、リサさん…僕が悪かったよ、ごめんね?」
「……ふっ、ぐうっ…優、そこまで言ったのだ。むしろ謝るな…謝るんじゃない……!」
 こ、堪えてる……涙を。いや……まぁ、涙以外も色々と堪えてそうだけど。
「うん……大丈夫?背中さすってあげようか?」
「……頼む」
 リサさんが落ち着くまでもう少し掛かりそうだなぁ何て思いながら、リサさんの背中をさする謎の時間を過ごした。

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