シンリーは龍族の子に呪われた

千夜ニイ

噂の真相

 男達が噂の話を続ける。

「世界のあちこちで単独の龍族と魔物がぶつかって戦闘になってるらしい。で、龍族が国外に出て来てるから龍国内は手薄! 魔族はここぞと一気に攻め落とすつもりかもな」

「魔族が龍族を倒せるのか?」

「魔族どもは恐ろしい速さで進化してる。国に溜めてあった戦力全部つぎ込んだとすれば、 龍国に攻められるだろうよ。元々数だけは多い魔族だ、戦力で龍族を上回ったのかもしれないぞ」

「おいおい、それって人間もピンチじゃないのか?」

 不安そうに声を低めた男に、噂を聞かせていた男は明るく言ってみせる。

「龍族も馬鹿じゃない、すぐに戦力を集結させるさ。龍族と戦った後の魔族なんてボロボロかへろへろだろう。そんな相手、人族の勇者様が戦えばイチコロって訳よ」

 安心したと笑い合う男二人に私は奥歯を噛み締め苛立っていた。

(勝手な事ばかり言って。前線で戦うのがどれだけ怖いか。幾度死んだと思ったか。殺さなければ死ぬんだ。魔物は待ってなんてくれない)

 今この場所にだって魔物の襲来はあり得る。
 あの日、何の前触れもなく私の町が滅びたように。

 龍族が強いとは言え、龍国の中には戦わない者も多くいる。
 セーレンの母親のケラフィーなどは戦いとは無縁のふんわりとした女性だった。
 龍国に行ったのはあの日、一度きりだが、龍族については毎日、嫌になる程聞かされてきた。

 末子とは言え、セーレンは他の龍族の子どもとは比較にならない鍛錬を重ねて強くなったと聞く。
 龍国にセーレンほど強い子供はいない、と。

(全部他人任せじゃないか)

 無責任に噂を話す者たちに憤る。
 私の強さは、私が身を切りながら苦しんで得たものだ。

(お前たちの為のものじゃない)

 セーレンの強さはセーレンのものだ。
 龍族の強さはもちろん、龍族のものだ。頑丈だからといって、人族の盾にしていいものではない。

 軍の本部で噂の真偽を確認すると、私は町を飛び出した。
 噂通り龍族と魔族の戦いは始まっているらしい。
 龍国は高い山の頂にある。人間の足で辿り着くには何日もかかってしまう。

「おい、誰か! 誰かいないか!」

 いつも龍族たちの飛んでくる空に向けて大声を出す。
 いらない時は嫌という程来るくせに、今この必要な時に返事がない。

「あら、シンリー様。呼びましたか?」

 しばらく空に向かって呼び続けていると、ふわふわと空からエリカがやってきた。
 セーレンの護衛をしている女性だ。

 いつもなら快活な彼女が、今日はどこか元気がない。着ている服や鱗や翼にも汚れが目立つ。

「龍国へ行きたい」

「シンリー様は婚姻の証を破棄したので龍国には入れませんよ」

 私の言葉を聞いて一瞬目を見開いたエリカだが、すぐに含みを持った笑顔で告げられた。

「くっ。そうだ、なら私を魔族国まで連れてってくれ。行きだけでいい。上空から落としてくれるだけでいいから」

 持ってきた金貨の袋をエリカに押し付ける。危険手当を入れても、十分な額があるはずだ。

「あら〜、そう来ましたか。仕方ないですね。シンリー様を魔族国に届けてはいけない、とは言われてないので承ります」

 エリカは困ったように笑ってから私を抱き上げた。

「急いでいるので飛ばしますよ。しっかり捕まっててくださいね。落っこちたら拾いに行くの面倒ですから。あと口は閉じておいてくださいね、舌噛みますからー」

 言うが早いか、エリカは高速で空の移動を開始した。地面が、森が山が鳥型魔物が、背後へと流れていく。

 しばらくして、地上にいる魔物の数が多くなって来た。

「この辺りでいい。あまり深く行くとエリカさんの帰りが危ない」

 私は飛び降りるつもりなので着地に良さそうな場所を探して体勢を整える。

「私のことは気にしなくて平気ですよ。一人なら高い所をもっと速く飛べますから。それより、折角ですからセーレン様が惚れ直しちゃうような大物見付けましょ!」

 キョロキョロと、急にやる気を出して魔物を品定めするエリカ。

「惚れられた覚えはないぞ」

 エリカの妙なテンションに釘を刺しておく。
 私はセーレンに惚れられたのではなく、呪われたのだ。

「何言ってるんですか、あんな熱烈な求愛を受けて。
 見てる周りが、恥ずかしくなっちゃうくらい分かりやすいじゃないですか。毎日食べ物を貢いで、縄張り内の魔物を退治して、群れの主としての能力を精一杯、あなたにアピールしてますよー」

「求愛? 縄張り?」

 エリカの言葉に理解が追い付かない。

「シンリー様の家の周りはセーレン様の縄張りです。ざっと百キロメートルは」

 だから私の獲物を横取りしていたのか。
縄張りに入る異物の排除のために。

「求愛には覚えがない」

 セーレンから肉は貰ったが、あれは元々私が倒すはずの獲物だった。

「セーレン様に『一緒に死のう』と言われたんですよね?」

「のろいをかけられて、死ぬ時は一緒だと言われたな」

 初めて会った日、グレーライオンの牙に噛み砕かれる直前にセーレンが放った言葉だ。

「強い者から弱い者に言うそれは、龍族ではプロポーズの言葉です。最期の時まであなたを守るっていう意味ですよ」

「守ってやったのは私だったがな」

 バイソンや土竜を素手で倒せるセーレンが、なぜグレーライオンみたいな下位の魔物に食べられる真似をしたのか分からないが、理由はどうでもいい。
 あの時エリカが言ったようにセーレンの変態的な性分なのかもしれないし。

(しかしそうか。あれは求愛だったのか)

 羽を丸く広げた鳥がメスに向けてダンスをする光景が思い浮かぶ。
 鳥の顔がセーレンに変わった。

「いや、私は異種族間はちょっと無理だ、対象として見れない」

 眉間に皺を寄せ私は首を振る。

「そうですかー、セーレン様残念ですね。あんなに人間のこと勉強なさってたのに。
 お小さい頃からこんを詰めて頑張ってたんですよ。他の龍族の子が母親に甘えて泣きついてる年頃に、人間と龍族の歴史について本を読み漁ってましたからね。
 よく考えるとセーレン様はあの頃から変態だったんですね」

 セーレンはさらに小さい頃から変態だった事実が判明した。
 あいつはいったい、どこで道を間違えたのだろうか。

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