シンリーは龍族の子に呪われた

千夜ニイ

龍族の猛攻

 翌日から龍族の猛攻が始まった。

「龍族はいいぞー、寿命が長いってのは最高だぞー。好きなことが沢山できるからな」

 龍族の少年が龍族の良いところについて長々と語ったり。

「お、あんなところに龍族の若者がおる。人間の手伝いをしとるぞ、あんなに重そうな石材を軽々持って、橋をかけてあげたようじゃなあ。龍族ってのは心優しく力の強い種族だなあ」

 髭面の龍族のおじさんが、帽子とサングラスで人間を装い、龍族の良さをアピールしたり。

「龍族の寿命からみればあなたとセーレンの年の差なんてないものも同じでしょう。あなた何歳? え、28?
 やだ、セーレンは27歳よ。龍族の中ではまだまだおしめが取れたばかりの子供なのだけどね、あの子は一人前の大人のつもりで、ロウローと肩を並べようとするのよ。あ、ロウローはセーレンの父親で私の夫ね。
 そうそう、近頃のセーレンは人間の育てるお肉が気に入ったって言って、何かと人間の仕事を手伝いに行くのよ。この間もグリフォンの討伐を依頼されて。
 あ! あなたとセーレンはお互いにそのグリフォン退治に行って会ったのよね?
  もうこれは運命じゃない、結ばれるしかないのよ。龍族と人族の種族を超えた恋なんてっ」

 うっとりと夢見る表情で自分の世界へと旅立ってしまった龍族の年若い母親。

 入れ替わり立ち代わりで、毎日、私のところに龍族が訪ねてくる。
 まるっきり知らない龍族がやって来て、突然「龍族はいいものです」なんて言われた時は流石に呆れた。

 まあ、命令されて来ただけだろう龍族の若者には同情するものがあるので、扉を閉めるだけという対応をしておいた。

「龍族の護衛なんて雑用係なだけですよ。みんな戦えるんですから。ようは、いたずら好きの末っ子の、お守りを押し付けられたんです。
 いつでも体鍛えるために外に出るので休みは少ないし、いきなり魔物と力比べするって言って国外に出て行くし。
 でもここ、人間国の温泉はいいですね!
 お肌つるつるのすべすべですよぉ。何より人族の滑らかな手によるマッサージが、ああっ最高です」

 苦労話から、いつの間にか恍惚の表情で人族の温泉観光地をアピールしていった龍族の美女もいた。

 まあ、彼らが勝手にやってきて一人で喋っていくことについては、多少うるさいのを我慢すればいいとしてまだ許せる。
 私にとって稼ぎの邪魔をされるのが最悪だった。

「こら。雷鳥は私の獲物だ! 肉は狩った者の物だ、これでは私の狩る分がないじゃないか」

「なんだ、肉が欲しいのか。なら俺の分をやる」

 褒めてとばかりに笑みを浮かべて、捕れたばかりの鳥肉を血抜きしている状態で渡してくる龍族の末子、セーレン。

 彼は龍族の中で一番に若い者なので、龍族全体から甘やかされて育ったという。

「くうっ、肉も確かに欲しいが食べる分だけでいい。私が欲しいのは討伐した時の報酬だ! 余った肉は人族の孤児院で常に施しを募集してるから、そこに持っていけ」

 草原に目を走らせて、私は急いで次の獲物を探す。
 目に留まったのは遠くにいる大型の牛魔物、バイソン。
 しかし私が駆け出すよりも早く、セーレンが目敏く私の視線の先を追い、素早くバイソンに駆け寄ると必殺の蹴りをお見舞いする。

「おい、バイソンまで」

 セーレンの一撃で死んでしまったバイソンに、がくっと肩が落ちた。

「どうだ、俺は強いだろう。憧れるだろう?」

 またも褒めて欲しいと言わんばかりに顔を輝かせて私の元へ駆け寄ってくる龍族の子供。

 強い魔物は倒した時の報酬が高い。
 バイソンは人族が苦戦する魔物の一種だ。あれ一頭で一週間の生活が賄えただろう。

「やっぱり龍族は強いだろう。この程度の魔物、相手にもならないんだからな」

 ハハハハ、と得意げに笑うセーレンを無視して私は次の獲物を探す。

 私は、なんとしても報酬を手に入れ、人族が新たに開発した『魔物から取り出した金属』を使った合金で、新しい剣を打ってもらうんだ。
 安くない金がかかるが、その剣を使えば今までよりさらに強固な魔物に挑むことができる。

 セーレンが何かに反応して草原を駆け出す。
 私もすぐにその魔物に気付いて追いかける。

「土竜は私に寄越せ、今日一番の大物じゃないかっ」

 目の前の土が盛り上がり巨大な茶色い魔物が鼻先を出す。

「なぁ見てろよ、シンリー。俺ならこいつを倒すの速いぞ。土の中に逃げる隙もなく退治してやる」

 言うが早いか子どもの細腕で、セーレンは小山ほどある魔物の頭を叩き潰した。

(くぅ、また報酬を龍族に持っていかれた)

 力なく膝をつく私に、セーレンが胸を張って己の強さを誇っていた。

 またある日には、龍族たちが空を舞う。
 ひらりひらりと翼を活かして自在に宙を駆ける。

「吸血大コウモリどもと空中戦なんて、そりゃないだろう。私が戦えないじゃないか」

 悔しさのあまり私は頭を抱えて空を見上げる。

(ああ、報酬が、最新の剣がまた遠のく)

「どうだ、龍族の力がいかにいいか分かったか? 力は強いし、皮膚の鱗は硬いし、空を飛ぶのだって速い。傷だってすぐ治る。この力で龍族は相手を守るんだぞ」

 えへんと、今日も私の前に立ちふんぞり返るセーレン。
 顎を上げ得意満面の出で立ちに苛立ちを覚える。

 最近、まともに戦えていない私の身体は、消化不良を起こしてウズウズしていた。

「俺と一緒に居たくなってきただろ。人間の何万倍も龍族の方が魅力的だからな」

 ニカリと笑う、セーレンの決めつけた言い方に我慢の限界が来た。

「私の仕事の邪魔をするな! 子供は家に帰ってろっ」

 この日、一度も使われなかった剣を、私は気力を込めて振り回す。
 その剣をひらりとかわし、セーレンは不満そうに唇を尖らせた。

「人間の中では最高峰の剣術と、人間の限界を引き出した腕力と身のこなし、脚力、体力、複数の魔物との戦いで見せる瞬時の判断力と戦術の組み立て、あんたは人族で最高の人間だ。宝だ。でも人間はすぐ死ぬから龍族の俺が守ってやるって言ってるのに」

 セーレンの言葉は私の耳に、珍獣を動物園に囲うと言っているようにしか聞こえない。

(うっとおしい)

 頭に昇る血の流れとともに、私は剣を斜めに切り上げる。
 切っ先を避け、バサリと翼を広げて空へと飛び上がるセーレン。

「また来るからな、ちゃんと考えとけよ。龍族がいいってわからせてやるからな」

 バサン、バサンと皮膜を鳴らして帰っていく。

 もう何週間も、私はなんの追加報酬も得ていない。
 こんなの、剣士となって生きてきた人生で一度もなかった。
 生活の崩壊だ。

 セーレンの飛んでいった後ろ姿を目で追いながら、自然と視線は雲の上へと引き寄せられる。

 青空の下、緑の丘。
 ままごとをし、駆け回り、明るい声で笑い合う子供たちは、今もあの時のまま。
 あの雲の上、変わらない風景の中で楽しそうに午後のお茶を飲んでいる。

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