シンリーは龍族の子に呪われた

千夜ニイ

人間と魔族

 グリフォンはこの魔物よりも三回りほど大きな体と、その重い肉体を浮き上がらせるだけの翼、そして人間どころかコンクリートすらも噛み砕く巨大な嘴を持っている。

 二頭の牛をそれぞれの足に掴んで軽々と山並みを超えていくような強靭な魔物だ。

 その鷲型の魔物、グリフォンがこの近くに巣を作ったらしい。
 子育てのために凶暴化して、あちこちから食料を集めている。

 食料とはつまり、人間の育てる家畜や、人間の子供のことだ。
 先日、国の兵士の一団がグリフォンの討伐に向かって半壊したらしい。
 今回のターゲットはグリフォンの中でも長く生きた、頭のいい個体のようだ。

 もちろん、討伐に対する報酬は上がった。
 私は国に雇われている給料制の剣士だが、休日に何をしようと勝手だろう。
 人間国と敵対する魔族を屠って文句を言われる謂れはない。

「おい、人間!」

 また、さっきよりも必死そうな少年の声が聞こえたが気のせいと思うことにする。
 私には血が滾る上位魔物との戦いが待っている。

  人間と魔族は長い戦争を続けている。
 魔族は元は獣族じゅうぞくと言って、とくに何の変哲もない動物たちや、少し知恵のある、それでも動物の域を出ない生き物たちのことだった。

 獣国じゅうこくとはつまり、野生動物を保護する広大な自然環境地帯のことだったのだ。

 それが二十年前のあの時、獣族たちは徒党を組んで人間の町を襲った。

 獣族の中には、流暢に人語を話すものや、人間の作った武器や兵器を自在に扱うもの、今までの生物には存在しない金属細胞などを身に着けた強力な種が現れていた。
 彼らは、人間国との交渉に当たり自分たちを獣族より数段階進化した生命体、『魔族』と名乗った。
 魔族たちが人間側に突き付けたのは次のような条件だった。

 ・人間は獣を食べることを禁止する。
 ・人間は獣を家畜として扱う事を禁止する。
 ・人間が人間たちのための労働に獣を使うことを禁止する。
 ・人間が、獣の住処を許可なく重機などの機械や、爆薬、薬品、兵器などを使って破壊することを禁止する。
 ・人間は獣たちが心地よく快適に暮らしていけるように世話をすることを義務付ける。
 ・人間は獣を殺さないこと。

「これらの条件が飲めない場合、我々魔族は人間を最優先の食料として配下の獣、これより『魔物』と呼称する、この魔物たちに通達する」

 魔族たちと意識を疎通させ、強く繁栄することを理解した獣たちは、喜んで魔族の命令に従う。
 時に人間と共存し、相反し、長い歴史を歩んできた獣という生き物はその時、魔物となった。

 その事は、人間側には強い衝撃だった。
 獣国や獣族などと呼んではいても所詮は動物、知識と技術を持つ人間の方が数段上の生物であると自負していたのだ。
 比べるべきもないと。
 それが、全生物揃っての襲撃である。

  人族と同等の知能を持ち、人間の成し得なかった進化を遂げ、魔族が世界の新たな王者として君臨しようと言うのだ。

 人間側に猶予はない。
 世界中全ての生き物が人間を獲物と定め、今日の食事にと襲いかかる。
 その瞬間を待っている。

 人間側はこの条件を飲めない。
 人間の生活が成り立たなくなる。
 文明は崩壊するだろう。

  人間国は条件の交渉を持ち掛けた。
 しかし、魔族側は頑として主張する。
「人間は獣を殺さず、魔族の言うことを聞くこと」

  交渉は決裂した。
 そうして、人間国と魔族国の戦争が起こったのだ。
 戦いが始まりすぐに人間国は勢力を減らしていた。
 二十年経った今では、世界の大半は魔族たちに占領されてしまっている。

「私が今いるこの場所も、数ヶ月前までは人間の住処だった」

 それが今や、草や蔦が生い茂り、森の一帯として飲み込まれている。
 どんどんと魔族は支配力を広げていく。
 近い将来、人間の食い尽くされる時が来るかもしれない。
 あの日、私の町に起こった出来事のように。

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