勇者時々へたれ魔王

百合姫

第43節 王族

いきなりでなんですけど。


僕は今謁見室にて王様と面談している。


いや、大した理由は無いんだよ。
どうしてもセリアが恩を返したいとか言うからね、まぁ受け取らない理由も特に無いし。
西大陸にいるときはわざわざ礼を受け取りに東まで行く理由が無かったのとお金くらい余裕で稼げると思ってたから別に良いと思ってたんだけど、まぁそこまで言うならね。


「か、かかか、体を求めるというのならその・・・いや、今すぐは無理ですけど、その、心の準備が出来た後なら・・・」みたいなことをセリアは言ってたけどそれは遠慮した。
別に好きでもないのにそこまでしなくていいって言ったら、不機嫌になられたけどまぁこれまた良しとする。
大方、女性としての自身?プライド?といったものからくるものだろう。
ぼそりとセルシーが<にぶちん極まりないことに絶望したっ!>とか言ってたけど、ここまで分かってる僕を相手に鈍いなどと良くも言えたものだ。
この紳士っぷりが分からないとは。
所詮しがない剣だってことかな。
<・・・それでいいや、もう。>
というセルシーのぼやきは聞こえなかった。


で、話を戻すけどその礼を受け取るべく王様に会ってもらわないといけないそうな。
娘を救ってくれた青年に是非とも直接礼がしたいとのこと。
なんでこんな面倒なことを。個人的に凄く会いたくない。王様ってなんか偉そうでちょっとしたことで打ち首というイメージがある。王様の前での礼儀なんて知るわけも無し。
と思わないでもないけど、セリアの父親がどんな人か知りたいというのもあったのでこれはこれで。
例えるなら授業参観に来た友達の親がどんな顔をしてるか気になるというあの感じ。


そして目の前の王様ときたらすごい眼力である。
三白眼ってやつかな?
こっちをすんごい睨みつけてくるような印象を受ける。
髪はセリアと同じ銀色。
その隣でほんわか笑みを浮かべてる王妃様は大層、綺麗でスタイルも良い。
髪は目に優しい感じのピンクだった。
その背後にはセリア含めて三人の娘達が控えている。
王様ときたら一夫多妻。
娘も沢山いると勝手に思ってたけど、三人以外にはいないのかな?
それとも三人は腹違いの姉妹?


そして周りには王様達の側近護衛と思われる数十人の兵士。
顔やら腕やらにいくつもの傷跡があって、顔もいかつい人が多く、ちょっと怖い。


「それで、君が娘を救ってくれたと言うヒビキ殿ですか?」


見た目と反して丁寧な言葉使いである王様。


「は、はい、成り行き上たまたま・・・。」


成り行き上なんてことをいちいち言わなくても良かったかもと思ったけど、言ってしまったからには仕方が無い。
特別な反応はなく、王様は話を進めた。


「渋々という感じですな。のわりには、我が娘が懇意にしている臣下を進んで助けていただいたようだが。」


ティアのことかな?


「それも成り行き上・・・ですか?」
「いや、私に聞かれても困るよ。」
「で、ですよね。」


それを聞いてほほえましい物を見るかのように笑う王妃様。
セリア姉らしき人も軽く噴出したようだ。
セリア妹はこちらを見ていない。なんだか良く分からないけど嫌われてるのか?
顔には嫌悪感が見て取れる。


兵士達は嘲りを含んだ笑み。
本当にこんなヤツが上位竜種を倒す、ないしは竜種から逃げることができたのか?と思っているのだろう。
どうぞ見くびってください。
下手に実力を出して警戒されるなんてごめんだからね。
こっちの世界に来た直後も身のこなしでばれないように隠していたんだけど、ギルドにいたティリアさん
には即刻ばれたっけ。
今更だけど本当にあの人は何者だろうか?
フェローの知人みたいだから悪者ではないんだろうけどさ。




「まぁ良い。して、君は何を求める?
出来る限りのことはしよう。」


見定めるような目で問いかけてくる三白眼の王。三白眼王と呼ぼう。
こう呼ぶと三白眼の人間をまとめてる王みたいだ。
少し考える。


お金・・・はギルドミッションで稼ぐ予定である。
魔術と奇跡の練習も兼ねているからお金があろうとなかろうとやるつもりだ。
となればお金でないほうが良い。
かといってこの世界で欲しい物なんて食べ物とお金くらいで、漫画やゲームなんてものがあるはずもなし。
鳥獣戯画的なものならあるのかな?
あれって確か、最古の漫画・・・みたいなことを言われてた気がする。
刀・・・なんてものも無いだろうな。多分。
そもそも右手の力で刀が生えてくるし。
少し黙考。


これで良いか。
うん。




「名前を教えていただけますか?」
「・・・は?」




ぶっちゃけ、心中とは言えど三白眼王と呼ぶのは語呂が悪い。
文字数も多い。(漢字の読みとして)
出来ればジンとかトーマスとか短い名前であることを祈ってこんなことを聞いた。
その程度の理由であり、他に理由は無い。
王都と言う地にいるにも関わらず、その王都を治める人間の名を知らない。
民主主義ならばともかく、この世界は王政だからして結構な不敬罪にあたるのではないか?
しかもそれを本人に聞くと言う暴挙。
要はそれを許してもらうことを礼ということにしたい。と暗に言っている。
周りの兵士達にもざわめきが広がる。
王様はもちろん王妃様も少し呆けて、セリア姉はぷっと噴出し(またか)、妹のほうは始めて僕と目を合わせる。
セリアは頭を抱えていた。口の動きから察するに「ばかです」と言ってるように見える。


こ、ここまで驚かれることだとは思ってなかったよ・・・うん。
もしかして僕って結構やばい?
やばいことやらかしちゃったっ!?
でも仕方ないじゃん!!
もともと異世界人の上に西大陸にいたんだ・・・もの・・・?
あれ?下手したら東大陸の人間じゃないってバレんじゃない?


多分、僕が勇者として召喚されたとまでは言ってないはず。
戦争中の上に勇者は東大陸の人間の頭を悩ませてる種だろうから。
多分だけど、西大陸に潜入してまで世界を見て回る酔狂な東大陸人・・・みたいな感じに伝わってると思う。
でも東大陸の人間がその国の頂点である国王様の名前を知らぬはずが無い。
ひょっとしなくてもやらかしちゃったのか・・・な?


「くくく・・・はは・・・あはははははははははは!!」


うぉっ!?
突然笑い出した三白眼王様。
あまりの怒りに一週回って喜びに変わったのだろうか?


「い、いや、失礼・・・くく、ふふ・・・」
「は、はぁ・・・」


腹を抱えて苦しそうに笑いを抑える三白眼。
いや、もう王様って呼べば良くない?
別に三白眼つけなくてもいいじゃん?
三白眼王という表現にこだわる意味が無くないっ!?
今更そんなことに気づく僕。
というわけで、もう名前を知らなくて問題なしです。
いりません。
やっぱり無かったことにしてください。


「す、すいません・・・えと、あれは、僕の故郷の冗談でして・・・なんちゃってみたいな?」
「い、いや・・・くくく、くふ・・・よ、良い。良いよ。良いな。」
「は、はい?」


「す、すまない。そんなことを王である人間を目の前にして言ったと言う輩を今まで聞いたことがなくてな。」


や、やっぱり凄く失礼なことだったのか?
いつの間にか”ですます口調”も無くなっている。


「気にしなくて良い。娘と臣下の恩人だ。無礼などと口が裂けても言えまいよ。
私の名だが、私の名はバルムンク・メル・グランデ。
君の名を改めて聞いて良いか?」
「あ、はい!?
えと・・・僕の名は山瀬 響。
響が名で、山瀬が氏です。」
「ふむ・・・珍しいな。ファミリーネームが前に来るのか。」


興味深げに頷くバルムンク王。
どちらにせよ名前は呼びづらかった。
心中ではバルっちと呼ぶことにした。
いや、やっぱり止めておこう。そんなことをしてバルっちなんてニックネームで間違ってでも呼べば今度こそ首が飛ぶかもしれないし。


「夫が名乗り出たのだから私も名乗り出なくてはなりませんね。」


王様の次は王妃様だと言わんばかりに王妃様は口を開く。


「私の名はフーリエ・メル・グランデ。この人の妻でもあるけど、貴方と仲の良いセリアの母でもあります。よろしくね。」


にこりと笑いながら自己紹介する王妃様改めフーリエさんはとても艶っぽく、色っぽく感じた。
もう少しすればセリアもこうなるのだろうか?
上手くいえないけど凄く”妻”って感じのする人だ。
将来的にはこんなお嫁さんが欲しい物だけど、難しいだろうな。
まずこの人レベルの女性に出会う機会がそうそう無いだろうから。
あったとしても相思相愛になる確率なんてどのくらいだろうか?


というか他の兵士さんたちの顔が怖い。
「テメー、何王妃様と気軽にいちゃこら話してんだオラオラァ」とか「調子のんなよボケガァ」といわんばかりの視線を放ってくる。
怖いと言っても、その辺の魔獣と比べれば赤子のようだが。
人相手は慣れてるのだ!
良くも悪くも姉さんのおかげでなぁ!!
余談だけど、ドラ○エあたりでボケガァという名の呪文があってもいいような気もする。


これで終わりかなと思っていると、娘達が前に出てきてなにやら名乗り出した。
セリアはともかく他2人にまで聞いたつもりはないんだけど?
ていうか知らなくて良いです。
名前を覚えるのは苦手なんだから・・・王様と王妃様の分で一杯一杯だもの。


「レヴァ・メル・グランデです。以後よろしくお願いしますね?
白馬の王子様。」
セリア姉がそう名乗る。
白馬の王子様?


「ふふふ。セリアがあなたのことをーーー」
「ね、姉さまっ!?
そ、それは言ってはいけないことだと思いますっ!!」
「あら?どうして?」
「い、いや・・・恥ずかしいですから・・・」
「別に恥ずかしいことではないわ。殿方を慕うという行為に恥ずかしいことなど何も無いのよ?」
「べ、別にっ!?
・・・は、恥ずかしいというわけでは・・・」
「恥ずかしいのか恥ずかしくないのか、どっちなのよ・・・それに顔を真っ赤にして言っても説得力が無いわ?」
「ね、姉さまの意地悪。」


レヴァさんから、ぷいとそっぽを向くセリア。
ちょうど僕のほうへ向いて、目が合う。


「ち、違いますからねっ!?」
「な、何が?」


いきなり何を言ってるの?


「こ、こほん。
改めまして。
私のフルネームはセリア・メル・グランデと言います。
その・・・今まで隠しててごめんなさい。」
「別に気にしてないよ。
隠さなきゃいけない事情があったんでしょ?」


まぁ、やんごとない身分だってのはバレバレでしたけど。


「そういって貰えると嬉しいです。」
「そんなことで嫌われたら困るものね。」
「ね、ねね姉さまっ!?
な、何を言ってるのかわかりません!!」
「あら?私は貴方を応援するつもりよ?多分母様も。」


よく分からないけど、応援するという言葉を聞いたのか母様もとい、フーリエ王妃が親指をグッと立ててにこやかに笑っている。
意外とフランク?


そして最後、僕と最後しか目を合わせなかった三女、セリア妹。
今現在も不機嫌そうに横を向いて僕と目を合わせようとしない。
僕は初対面のはずなんだけど。


「レイフォン・メル・グランデ。」


・・・それだけ?
よろしく程度はあってもいいんじゃないかな?
子供好きの僕としては10歳くらいの女の子にワケもなく嫌われるのは堪えた。
ちなみにレヴァさんは20くらいに見える。




「だ、ダメですよっ!?レイ!!
この人は私の恩人です。いくら男の人が嫌いだからと言って・・・」
「い、いいよセリア・・・様。」


一応、王族だから様付けで。
すくなくとも王様の前だしさ。


「ですけど・・・さ、様?」
「うん。男嫌いなら嫌いで無理にとはね。・・・様は呼び捨てはまずいかなと思って・・・問題ないでしょ?」
「ええ、別にないですけど・・・」
「けど?」


「他人行儀で好きじゃないです。」
「い、いやでも・・・」
「私からもお願いできる?
白馬の王子様。」


白馬の王子様は止めて欲しいです、レヴァさん。


「私としては構わんよ。王族だからとそこまで特別視する必要はない。」


とバルムンク王。
嬉しいような悲しいような複雑な表情をしてるが、何かあったのか?
対するように王妃はヤケに幸せそうだ。
幸せそうにフーリエ王妃は言った。


「私も構いませんよ。普段からそう呼んでいるのなら別ですけれど。」


王様と王妃様に許可してもらえるなら別にいいかな。


「分かったよ、セリア。これでいい?」
「は、はい!」


たかだ呼び捨てでここまで満面の笑みを見せてくれるなんて・・・女の子は良く分からないな?


後日ベリーやフェロー、エンデに「普通にため口のくせに今更何を言ってんだ?バカだろテメー」的なことを言われたのは言うまでも無い。


そして、結局礼としては不十分だと言うことで、せめて王城に泊まっていけという好意を素直に受け取り、現在は先ほどの一室に戻っている。
しばらくシロとじゃれていたけどーーー白竜は東大陸でも珍しく、ずいぶん騒がれた。特にメイドさんたちーーーそれも飽きてきたので、エンデたちの部屋を訪ねることに。


近くのメイドさんに場所を尋ねーーーメイドさんがシロを抱きしめて恍惚とした表情をしてたーーー案内された部屋をノック。


「なんじゃ?」
「なんじゃとはご挨拶だね、フェロー。」


ドアから出てきたのはフェロー。


「他の2人は?」
「一緒に風呂じゃ。
部屋に備え付けられてるとはさすが王城といったところかのう。」


そ、そうなのか?
広い家ならどこもどうだと思ってた。
ちなみにこの王城には大きな共同風呂もあるらしく、執事やメイドさん、兵士はそちらに行くらしい。


「ところで・・・なぜ来たのじゃ?
また覗くのか?」
「の、覗かないよっ!?」


何を言い出すのこの人は!?
人じゃないけどっ!


「なんじゃ、つまらん。」
「・・・もう勘弁だよ。
また面倒なことになる。」


ベリーはともかくエンデに無視されたくは無い。
前回は恥ずかしかったとのことだが、今度こそは愛想付かされるかもしれないし。


「別に嫌がることはまず無いじゃろうが・・・」
「はっ!何を言ってるのさフェロー!!
女の子なのに乙女心がわかってないね!!」
「たわけが。」
「ぶはっ!?」


久々のビンタ!?
なおかつ魔力入り。
超痛いっ!?


「おぬしだけには言われとう無いわ。」
「・・・ご、ごべんなざい。」


え?なんで?
僕って結構わかってるほうだと思うよ?
男にしては。


「ふむ。
ちょうど良いし、あやつらが風呂から上がるまで少し詳しい話をしておこうか?」
「ん?
何の詳しい話?」
「精霊契約のことじゃ。
簡単な話しかしてなかったじゃろ?
といっても特に難しい話をするつもりは無い。
これまた簡単なメリット、デメリットについて話すだけじゃ。」
「ふぅん。もちろん聞くよ。」
「うむ。」




といって聞いたのはホントに簡単だった。
精霊契約のメリットは以下の通り。
身体能力の上昇、治癒力の大幅な増進、契約した精霊の魔力と霊力が扱える、寿命が平均化(高位精霊の
寿命は500年。日本人の平均寿命は70~80年。合計580年分だとしてざっと300年生きることになる。高位精霊の寿命を契約相手に分け与えるということ)、魔術と奇跡の才能が少し添加される、老化防止。
以上6点。
デメリットは精霊と契約した者本来の魔力ないしは霊力が使えなくなることと、契約した精霊が死ねば自身も死ぬと言う連動性。
これは単に寿命が延びてるのが精霊の魔力、霊力の恩恵のため、人間の歳が人間本来の寿命を過ぎているとこういう結果となる。
またどちらかが死ぬまで契約が解消されることは無く、やり直しが効かないという点。


ふむふむ。
メリットのほうが大きいね。
寿命の部分で少し戸惑ったけどまぁ300年くらいなんてことは無いだろう。
歳を取れば時間は早く過ぎるというし。


ちなみにセルシウスキャリバーことセルシーによる擬似精霊契約はデメリットが無い代わりにメリット部分が肌身離さず持ってる間のみという限定的な条件があるために擬似と呼んでるみたい。


ついでに軽く中級魔法のいくつかと上級魔法を一つ、二つ習ってなかなか風呂から上がってこないエンデとベリーに明日またくるとの言伝をフェローに頼んで、今日は寝ることにした。




追伸
メイドさんが夕食を部屋に運んできてくれたのだけど、なかなかに美味だった。
エンデには劣るものだったけど。
エンデの料理の凄さが改めて分かったものである。









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