勇者時々へたれ魔王

百合姫

第42節 心配とストリップおばさん

「セリアっ!!
無事についてて良かったよっ!」


これが僕の第一声である。
無事に戻れたようでなによりだ。
いきなり抱きつかれたのは予想外だったけど、そこまで懐かしんでくれていたということかな?
忘れられてなくて良かった。
少し思っていたことだったので、安心した。


「無事についてて良かったよ・・・じゃないですっ!!」
「ぐえっ!?」


セリアは抱きついた現状を利用して、そのままサバオリを決めてきた。
え!?
なんで怒ってるのっ!?
と、というか、胸がーーー胸が押し付けられて、あれだ。
あれなのだ。
非常に気持ちいいような、居心地が悪いような。
とりあえず離れて欲しい。
背後から冷たい視線も感じるし。




「お嬢様・・・ここはいささか・・・」
という付き人らしき声。
良く見ると、リネティアさんだった。
上位竜種に襲われて、助けを求めていた人だ。


「リネティアさんもお久しぶりです。」
「・・・呼び捨てで良いと言わなかった?」
「そうだったね、ティア。」
「はい、久しぶり、ヒビキ君。
それはそうと場所を移して良いかしら?
つもる話もあるでしょう?
護衛をする立場としても移動してくれると嬉しいわ。」
「う、うん、わかった。」
「では王城へ来てください。
その方が遠慮なく怒れると言うものです。」


セリアが?
誰を?
怒ると?


「ヒビキを怒るに決まってます。」


HAHAHA。
一体何を言ってるんだ、ジョージ?


「誰ですか、ジョージって!?」
「いや、なんでもないです。」


なぜ、また彼女はここまで不機嫌なのだろうか?


「お友達の皆様も是非に来てください。」


ティアがそう言うと、エンデ達も当然だとばかりに胸を張る。


「お邪魔させてもらうかの。」
「言われるまでもなくマスターと一緒に。」
「・・・説明してもらうからね。」


フェローは面白そうに。
ベリーは努めて振舞うように。
エンデは不機嫌に。
三者三様のリアクションを見せてくれる。


微妙な空気になったのはどうしてだろう?




☆ ☆ ☆


「通してください。」
「はっ!!」


王都グランデ、王城前、正門。
警備兵らしき人がセリアの一言でビシッと直立姿勢のまま了解の意をしめす。
先導されるまま、中へ。


案内されたのは客室である。


女性と男性で分けたらしく、僕は1人で客室とは思えない豪華さを誇る一室にいる。
いや、一人と一匹か。
シロを街の馬引きのところへ預けようとしたのだが、急ぎの話がセリアからあるみたいでその暇も与えられなかった。
一緒にいればいいとのこと。


まぁ僕としては構わないんだけど、元の世界で言うなら家畜を自分が寝る部屋と同じ場所で飼うということである。
結構豪胆なことを言ってのけたのは、彼女の器か、よっぽど話したいことがあったか。
どちらにせよ非常識なことなんだろう。
セリアの言葉を聞いたティアが呆れた表情をしていたし。
ちなみにセリアとティアはローブを着替えてくるとのこと。
お忍びでの城下町探索をしていた・・・ってところかな?
とか振り返っていたら、バックパックからいつのもように(?)声が上がった。


<ふふふ・・・私もいることを忘れて貰っては困るのよっ!!>


毎度おなじみ(?)喋る剣。セルシーである。
たまには外に出たかろうと久々に出してあげた。


「そういやいたね。」
<最近・・・酷いよね。扱いが。>


いや、悪気は無いんだよ。
ついつい忘れてしまうのだ。
バックパックに突っ込んでたし、ここ最近はクルトとゴルバさんという第三者がいたし。
必然的にあまり喋れない。
武器として使うわけでもないからついつい忘れがちになる。
この声はファンタジー漫画によくある”頭に直接語りかけてくる”とかではなく、剣の刀身が震えて大気を振動させて声を出しているため(こっちの方が凄いと思うのは僕だけじゃないだろう)他の人にも聞こえてしまうのだ。


<まぁいいわ・・・いつものことだし。>


認めてしまうとこのまま影の薄いキャラが定着しちゃうよ?と思ったけど、言わないで置く。
世の中知らなくていいことなんてザラさ!うん!!


「ぐるる。」
<慰めてくれるのね・・・私の気持ちを理解してくれるのはもはやあんただけなのよっ!・・・ぐすり。>


シロは鼻先をこすりつけて「大丈夫大丈夫。私は忘れないからね。」みたいなことを言ってる。ような顔だ。


「ん?」
外から足跡が聞こえる。
セリアかな。


「また黙っててくれる?」
<もう少し違う言い方はないの?苛められてる気分になるわ。>
「悪かったよ・・・まぁセリアなら構わないと思うけど、ここは王城だしね。王女様が見知らぬ人間を連れてきたとなると、どこで聞き耳をされてるか分かったもんじゃないし。」
<ここでこうして話してること自体、すでに手遅れな気もするけどいいのね。>


まぁそれはそうだけども。
今更ながら結界を掛けてから喋ればよかったと後悔。
いざとなれば独り言をついつい喋ってしまうイタイ子としてデビューを飾ればいいかな?
いや、そんなアホな言い訳通用しないだろうし、元々そこまで秘密にする理由もないしまぁよしとしよう。
セルシーをバックパックにしまい直したところでセリアが入ってくる。
ティアはいないようだ。
護衛役がいない状態は信用されてるってことかな?
それとも国王の下には子供が沢山いて、あまり重要視されてないポジションだとか?
第13位王女とか?


「さっそくですけど、なぜ私が怒ってるか分かっていますか?」
「わかりません。」


セリアの疑問に即答する。
本当に分からないのだから仕方が無い。


「アースヘッド・・・これで分かりますか?」
「・・・えーっと?」


アースヘッドと言えば懐かしい。
先も言ったように(思ったように)ティアをピンチに陥れた上位竜種の名前がそれだったはずだ。
忘れもしない。
忘れられない。
なんせこの俺様を死の一歩手前まで追い詰めた強者の名だかな!ふふふっ!!
とバトルジャンキーてきなことを言ってみたものの。
実際は二度と会いたくないです。
普通に致命傷だったし、今更ながらに生きていることに感慨深い思いを抱かされる。
次に会うことがあったら、少なくとも軽く身がすくむくらいには怖い。


「ティアを助けるために上位竜種に立ち向かったことを私は怒ってるんです。」


というか、なぜまたセリアは知ってるのかな?
てっきり知らされる必要の無いことだと思ってたのに。
わざわざ知らせて無駄に不安を煽る・・・というのは護衛兼友達というリネティア、ベリルの2人から見ればあまり必要性の無いことだと思うけど。
僕には知る由も無いことだったが、セリアはティアから聞いたそうな。
あの時、ティアがベリルから聞いたのは「勇者として召喚されたけど、西大陸に組する者じゃない人間が助けに行く」といった概論のみ。
ベリルから聞いたのは僕がどんな人物か?警戒はしなくていい、というだけだそうで、セリアと僕に面識があるとは思わなかったらしい。


そしてティアが「あの人がうんぬん助けてくれた」とその時のこと、僕の名前を言ってしまったことも相まって無駄に心配をかけることになったみたい。
僕の「勇者の力があるから先に行け」みたいな死亡フラグをたてるであろうカッコいいセリフを聞いてティアはセリア達とロロリエで待つことを考えていたそうだけど、セリアから僕は勇者の才能が無くて捨てられたという話を聞くと同時に、先にここグランデへ戻ることにしたそうな。


死ぬ可能性が高いから。
少なからず急いでたらしいから、生きて帰ってくるか分からない相手を待つわけには行かなかったんだろうね。
当然と言える選択だ。
実際、フェローがいなかったら死んでたし。




「聞いてるのですかっ!?」
「ご、ごめんなさいっ!?」


つまりだ。
彼女が怒ってる理由とは、無謀にカッコつけといて人に心配かけてんじゃねぇゴラァと言うことなのだろう。
そりゃ、付き合いは短いかもしれないが見知った人間が死ぬかもしれない阿呆な行動にでるとなれば心配の一つや二つするよね。


後日ベリルとティアから聞いたことだが、セリアが助けに行くと言ってベリルとティアの制止を聞かないためにセリアを気絶させて東大陸に向かうことになったとのこと。
アスタナシアの森を抜けるしか無かっただろうから、大変だったろう。
王城に戻ってからと言うもの、王城を出るまでは優しさと明るさで評判だった王女の姿は見る影もなく。
泣く、とまでは行かなかったが大層気落ちしていたとのこと。
そんなところに僕がひょっこり現れたらね~。
誰だって抱きつくくらいはしますよね。
普通なら気持ち悪い男同士だったとしても多分、抱擁を交わすかも知れない。




申し訳ないことしました、本当に。




「ーーーというわけでして・・・聞いてますかっ!?」
「ひゃ、ひゃいっ!?
す、すいませんでしたっ!!」


そしてザ・説教タイムへ直行中の今現在。
心配してくれていたのは嬉しいけれど、コレには少々うんざりだ。
セリアが将来、家庭を持ったら旦那さんは尻にしかれそうである。


「・・・。」
「な、何?」


いきなり言葉を止めて、じっと見つめるセリア。
照れるじゃないか・・・。
おい、や、やめろよぉジョージ。


「だから、ジョージって誰ですか・・・はぁ。
人の気も知らないで・・・。」


もうこれ以上は無駄だと分かったのか?
僕が反省してないように見えたのか?
いや、真面目に聞いていましたとも。
しかしですね。
徐々に似たような内容になっていき、後半は同じことを繰り返し言ってるような説教になってくるとこちらとしてもうんざりするといいますか?
飽き飽きしてくるといいますか?
正直、本当ごめんなさい。


と思う反面、ここまで心配してくれる友達が出来たことが嬉しくて嬉しくて、ついニヤけてしまうのは仕方がないと言えよう。
冬香もこのくらいわかりやすかったらなぁ・・・彼女ってまぁ分かりづらいから困る。
冷淡と言うか、希薄と言うか。


とにかくそんな理由でニヤけているのであって、決して反省してないわけじゃないことを言っておこう。
そもそもこんな無茶はもうしないだろうし。
あれは僕の力なら最低でも逃げることくらいできるだろうと思ったから請け負っただけであり、死ぬような怪我を負うとは思ってなかったからだ。
お人よしではない僕としては命を掛けてまで誰かを助けようとは思わんっ!!多分。


「・・・本当に心配したんですからね。」
「ごめんなさい。」


とりあえずへりくだって謝ります。
心配ってかけられるほうはともかく心配するほうはシャレではないんだよね。
久しぶりに姉さんの話をするとしよう。


あれは姉さんに稽古をつけられ始めて間もない頃。
真剣をまだ使ってないくらいのときだった。
このときから、姉さんの武者修行旅行が始まった。
ふらふらと出かけてく姉さんを見ては「どこにいくんだろ?」と子供心そのままに疑問を抱いた物だったけど、今思うと知らなくて良かったことだった。


まぁそれは関係ないのだ。


当時、近所では”ストリップおばさん”という奇怪な生き物・・・奇妙奇天烈な生き物が残存していた。どこから発生したのか?どこから出没するのか?もしくはメルヘン的な世界から唐突にやってきた侵略者なのか?まぁそれはどうでもいい。


このストリップおばさんだが、これはおばさん自身がストリップするという露出狂ということではなく、道行く人を包丁で”服のみ”を切り裂いて強制ストリップさせるという迷惑極まりない、超絶阿呆的犯罪者のことを指す俗称であった。
このおばさんはショタコンだったようで近所の小学生の男の子が主なターゲットっとなっており、僕もターゲットの1人になりそうだったのだ。
それはたまたま姉さんとの買い物帰り。


軽く薄暗くなっていても、姉さんの強さは子供ながらに理解していたためまるで怖くなかった。
そんな時、目の前にそのストリップおばさんが現れたのである。


「ほうほう・・・これはこれは女の子のように見えるが・・・男の子の・・・可愛い可愛いぞうさんの臭いがするぞぉ」
と僕を睨みながら不気味にのたまうストリップおばさん。
長いのでストさんとする。


というか、生粋の変態である。


「だがしかし・・・ふむ。ウサギだと思って狩りに出てみれば・・・厄介な物を引き当てた物だ。」


とぼやくストさん。


僕の隣には警戒心バリバリの姉さんが。
どこからだしたのやら、木刀を携えている。


「が、難しい狩りほど萌え滾るというものよ。」


こいつは生粋の変態であり、類を見ないバカじゃないかとこの時点で思った。
発言があまりにもあほ過ぎて恐怖よりも呆れが強かったことも覚えている。


「弟に何か用ですか?」
「いえ、何。
ストリップさせようと思ってね。」


その返事は明らかに無い。
というか子供の僕にはツッコメなかった。
あまりにもツッコミどころが多過ぎて。
というか、凄くアホらしい。
が、姉さんはあくまでも真剣な表情と構えを崩さない。
というか始めて見る真剣さだった。


「さぁ脱がそうか。」


というストさんの開始の合図が聞こえた瞬間にギャギャンと金属がすりあうような音が聞こえ(打ち合うにしても姉さんは木刀のはずなのに)、次の瞬間には姉さんが肩膝を付いていた。
あのときの僕の技量ではまず捕らえられなかった。
後にも先にも姉さんを心配したのはこのときだけである。


このときの僕の不安振りときたら。
始めて姉さんが膝を付いたのもそうだけど、脂汗を垂らして必死な表情の姉を見た瞬間に姉さんが殺されてしまうかもという心配で胸が押し潰れそうになって・・・今まで無敵だと思ってた姉さんへの幻想も一緒に打ち砕かれた。そして僕がした行動といえば姉さんの前に出て、結果姉さんを守るけなげな弟という構図が出来上がった。


まぁこのときの心配と似たような物なのだろう。
セリア、ごめんね。




・・・ちなみに。
僕の姿を見たストさんは「強くなれ、少年」と場面が場面なら少年漫画の見せ場ともなる名台詞を吐いた後にどこへとなく消えたのだが、状況的にも会話の流れ的にもわけが分からないし、尚一層「こいつバカだ」という気持ちを強めただけだった。


ストさんの話はそれ以降出てこなかった。
それ以来。
あの街にこんな噂が出るようになった。
「妙齢の麗人と、なぞのおばさんが踊り狂うのは満月の夜」と。
響く金属音は打楽器顔負けの音の旋律となり、舞う血風は踊り舞う舞姫を飾る化粧となり、高らかに響く笑い声は天使をも魅了する歌声だと言う。








僕は何も知らない。
知ってたまるものかっ!!







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