勇者時々へたれ魔王

百合姫

第41節 再会を中国語で言うとしたらツァイチェン

☆ ☆ ☆


ぼ、ぼぼぼぼ、僕は!!
一体、何をやらかしてしまったのかっ!?


それが朝起きて第一に思ったことである。
昨日は自分でも不思議に思うほどゆっくり眠ることが出来、体調的には快調なのだけれど。
精神的にはパニックも良いとこの大暴落(?)だったりなんかしたりして!!


タオル一枚の女の子と抱き合い、頭を撫でる。
こうして完結にまとめてみると大したことない・・・こともないが、恥ずかしすぎて死にそうだ。
空気的に自然とあんなことをしてしまった、いや、しでかしてしまったわけだが本当にあの対応で大丈夫だったのだろうか?
今思うと殴られなかったのが不思議なくらいだ。


あの後、しばらくしてエンデが落ち着いたと思ったら慌てて風呂場から脱したエンデ。
恥ずかしかったのかな?
とてつもなく今更過ぎると思わないでもないけど、昨日の今日でどんな顔で会えば良いのだろう?


「うむぅ・・・」


とか唸ってると、シロがやってくる。


「ぐる?」
「あ、いや、なんでもないよ。」


僕の考え込む顔を見て、「どうかしたかいなワレ?」とつぶらな瞳を潤ませて首をかしげるシロ。
嗚呼・・・癒される。


シロを見てると、にとり(ミドリガメ)をいやおうがなしに思い出させてくれる。
同じペットだからかな?
ペットとして扱うには無理があるほど賢いけどさ。
母さん、カメプロス(ミズガメ用の餌。)の補充をしてくれてるかなぁ。
そろそろ切れる頃合だったし。


とか取り留めの無いことを考えていると、シロがパジャマの裾をひっぱってくる。
ちなみにパジャマはもちろん、イチゴ柄。
他にカボチャ柄とバナナ柄がある。
これらは最近ベリーに編んでもらったもので、見事な出来である。
魔法で合成繊維を作り出し、(そのための魔法は僕が開発した)ベリーがそれを編んでいく。
時に手で時に魔法で。その手並みは鮮やかの一言。
特にイチゴ柄パジャマは秀逸の一言である。筆舌に尽くしがたい。
元々パジャマであるベリーにはパジャマ作りという、一見無駄な特殊技能があったのだ。
元はパジャマだからって何でそんな特殊技能がつくんだよ?と尋ねられても困る。
「お前ってどうして人間として生まれてきたの?」と聞くのと同じくらい変な質問だよそれは。
生まれてきたんだからしょうがない、パジャマだからしょうがない。
そういうわけである。


とにかく、一見無駄としたのは冒険においてたかがパジャマが一体何の役に立つ?と思うのが普通だろうからだ。
だがしかし、よくも考えてみてほしい。
この世界の服の品質はまぁ良い。
もともとはあっちの世界で言うカイコを大きくしたような魔獣、”シルクル”から取れる繭を使って糸を繰り、それが服の素材らしい。(どうも、もともとはパジャマだったせいか、服にやたら詳しいベリーは一見してこれを見抜き、ゴルバさんにシルクルのことをやたら尋ねていた。元が服だっただけに服飾関連に興味があるのかもしれない。)
このシルクルから取れる糸は非常に上質で、肌触りがかなり良い。
それは認めよう。
だがしかし、科学先進国日本生まれの僕としてはおなじみ合成繊維のあの肌触りが良くてパジャマを愛用していると言うのにこちらの世界では普段着と寝巻きの違いがまるで無い。


つまり何が言いたいのかと言うと、慣れ親しんだパジャマに使われている合成繊維の肌触りでもって初めて安眠が出来る僕としてはこれって非常に重要なファクターなのである。
残念ながら、フェローとエンデには不評だったけれどいつか認めさせてやろうとひそかに決意してたり。


「ぐるるっ!」
「あ、ごめんごめん。」


とか考えていたらシロがより強い力で僕の裾を引っ張る。
朝ごはん前だからか、「あたちはもうお腹と背中がくっつきそなのっ!早く行こうよお兄たん!」と言いたげな目を向けてくる。


重ねて言おう。
癒される、と。


「とはいえ・・・憂鬱だな。」


どんな顔して行こうか?
いっそのこと仮面でも付けようかなと真剣に検討してみるが、仮面が無いので却下。
とりあえず目を合わせなければ良いよね。うん。


☆ ☆ ☆


結論から言えば、気にしすぎだったと言わざるを得ない。


至って普通の受け答えをされて、むしろそれで戸惑ったくらいである。
ニヤニヤしながら見るフェローとニヤ成分と不機嫌成分が半分づつ表情に出ているベリーが印象的だった。
一体なんだっていうの?


「お、おはよ、エンデ。」
「う、うん!おはよう!」


ふあぅっ!?
笑顔がまぶしいっ!?
一体なんなの?
このエンデのご機嫌モードは?


少し頬が赤いのを除けば、絶好調といった感じである。


「今日も私が作ったから・・・冷めないうちに早く食べてね。」
「う、うん。」


食事当番的なものがあったが、ここ3日くらいは連続でエンデがやっている。
もともとローテーションを組んでいたのに、こう連日作ってもらってると悪い気がしてくるのだけど、そのことを聞こうにも彼女のこのご機嫌具合の中、水をさすようなことを僕が言えるはずも無く。


とりあえずご飯を口に入れるとこれまたおいしい。
嫌がらせのように多かった料理は普通の量に戻っていて、内心ほっとした。
僕の好きなシジミの味噌汁の量だけが多かった気がするのは気のせいかな?


結局のところ昨日のあれで許してもらえたのだろうか?
いや、本当は怒ってないって言ってたっけ?
許すも許されるも無かったと言うわけだが、許していたなら許してるとはっきり言って欲しかったよ。
今思うと、僕かなり手ひどいことになってたよね。
具体的に言うとシロにーーーっとまぁ、具体的にはいいよね、うん。


ちなみにこの朝食時には僕達以外にはゴルバさんのみが呼ばれ、クルトははじき出されていた。
エンデ曰く「殺したくなるほどに気持ち悪いことを言ったから。死ねば良いのに。」とのこと。
シクシク泣いていたクルトを見て、本当にキングなのか疑ったのはやむをえまい。
一体なにをしたんだ?


「ご、ごちそうさま。
あいもかわらず・・・というかどんどんおいしくなっていってない?」
「お粗末さまでした。
当然だよ、好ごにょごにょ・・・に作る料理だからね。」
「ん?」
「べ、別になんでもない。」
「別の意味でお腹一杯じゃな。」
「ええ、これでよかったのでしょうけど・・・アレはやりすぎです。グランドマスターがとめなければ・・・私が引き剥がしに言っていたのに。」
「そういうな。もともとの引き金はおぬしの悪戯心じゃろ?」
「・・・はぁ、分かっていますけどね。」


話してる内容は良くわからないけど、珍しくベリーがしおらしい。


てな感じの朝食タイムが終わり、今日は王都への道をえっちらおっちら馬車で走っている。
余談であるが、ドラム缶は泣く泣くインゴットに戻して持ち運ぶ。
あのままじゃ持ち運べないことに後々ながら気づいたのである。
遅すぎるよね・・・うん。せっかくの僕の作品がおじゃんだ。


そんなこんなでそこそこ順風満帆に王都への街道を進んでいくと、昼食を食べ終えた後すぐに中位竜種に出くわした。




ええ、驚きましたとも。


「うおぉおおっ!?
なんでこんなところに竜種がっ!?」


ゴルバさんの驚きの声。
僕も驚いてるけど、フェローとベリーはなんのその。落ち葉の下にダンゴムシがいるのは当たり前、それと同じく竜種がいきなりでてくるのも当たり前。と言わんばかりのノーリアクションぶりだ。
エンデも少し身が縮こまっているけれど、表情は普通。
頭では危険がないと分かっているけど、それでも怖いものは怖く、体が微妙に反応してしまう。そんな感じだ。


僕は一杯一杯である。
いや、もちろん食われはしないし、能力的に考えれば殺せるだろう。
最悪でも逃げることは120パーセント間違いなく出来る。
殺さないように倒すのだって出来そうだ。
それでも怖い物は怖いよね。うん。
お化けを見たこともないのに、お化けを怖がる子供と同じーーーって言えば分かりやすいかな?


そんな中、意外や意外。
クルトは平然としていた。
実は座ったまま気絶とか、そういうオチではないことを祈ろう。


中位竜種の名は”ギルブラ”。
上位竜種が持つ、おなじみ魔力による防御膜とブレス。
霊力による超感覚。
それを中位の竜種でありながら普通に使ってくる竜種だそうで、ワイバーン科。
一般に言うワイバーン的な形で、鱗は黒色。
口吻や爪、翼膜の部分などの鱗が生えてない部分は赤というメリハリの付いた配色をしている。
大きさは大型トラック二台分ってところ?
現在地が開けた丘の上なので、空を飛ぶ生き物にとって非常に狩りのしやすい場所なのだろう。


空からブレスを撃ち、獲物を軽く焼き上げてから巣に運ぶと言う習性を持つらしい。
いやな習性だ。


「妾が行くかの?
空に向けて放つなら、周りに被害は出ないじゃろうから。」
「私がいきましょう。せっかくですから魔術の練習がしたいです。」
「よ、余裕ね。わ、私はヒビキがいてくれるからここまで余裕でいられるんだけど・・・」
「言っておくけど僕はそこそこ一杯一杯なんだよ。いや、倒せるかどうかで言えば・・・倒せるだろうけどさ。」


とかいう僕達の言葉には耳を貸さず、ゴルバさんはクルトに助けを求める。
まぁ、強い方を頼りたくなるのは当然だよね。
ランクで言えば僕はナイトだし、フェローのルークは自称だし。
最高ランクであるキングのクルトに頼るのは必然か。
とはいえ、なんか面白くない。


「だ、大丈夫ですか!?クルトさん!?」
「ああ、はいはい。いけますいけます!
まかせてくださいな、ゴルバさん。
俺様にかかればこんなトカゲの一匹二匹余裕だから。
女の子達は俺が守るっ!!」




とやけに顔を決めてギルブラに相対するクルト。
最後の一言が余計だったみたいで女性陣がまぁ冷たい目でクルトをにらむ。


「守ってもらえずとも構わんぞ?」
「・・・クルト様は冗談が下手なようで。」
「男の人って独りよがりよね。概ね。」


これを聞いて泣きそうになるクルト。
く、クルトよ!
僕だけは応援してやろう!!


「あ、えと、がんばってください。」


とりあえず適当に応援してみた。
あわよくばそのまま倒してくれれば良いと考えて。
食後はあまり動かない主義なのだ!


「くぅ~っ!?ひ、ヒビキちゃんだけだよっ!!俺様に好意的なのはっ!!
俺様、君だけは絶対守っちゃうよっ!?」


あれ?
この人いまだに僕のことを女だと勘違いしてる?


「・・・死ねば良いのに。」
「あれ!?なんか俺様変なこと言ったっ!?いきなり怨嗟の言葉が聞こえてくるよっ!?」


というかそろそろわかってよ!?


「それだけヒビキの容姿が男の子離れしていて可愛いんでしょ?」
「そうじゃろうな。」
「ですね~。」


ははは。何を言ってるのやらこの人たちは。
あっちの世界じゃ間違われたことなんてないんだZEっ!?


という言葉にはパジャマとして向こうの知識を持っているベリーが応えた。


「普通にオカマとして見られていたのでは?もしくはその逆か。」
「ほわっつ?」


あれ?この子何言ってるの?


「その顔で男子の制服を着ているのを見ていれば、ご学友は間違えないでしょうけど・・・普通の人から見たらコスプレ、もしくは女になりたくて整形手術をした学生、男の格好をしてる女性。これらのどれかと思われていただけでしょう?
私服の場合は男の格好が好きな女の子・・・ですかね?」


・・・まっさかー。


「というか、関西人ならともかく。
都会の人は他人への関心が薄いですからね。ないしは気になってもわざわざ”貴方は男?女?”とか聞かないでしょう?」
「た、確かにそうだけど・・・」
「・・・それと、”お茶しない?”とか”道に迷ってるの?”とか声をかけられたりしませんでしたか?」
「結構・・・というかかなりある。」


そういう声をかけられるたびに都会もまだまだ捨てたもんじゃないな、と思ったことがある。
フランクだなぁ・・・とかわざわざ声をかけてくるなんて親切な人だとか思っていた。
いきなり何の話をしだすんだろう?


「それ、ナンパですね。」
「・・・なんーーーですとっ!?」


あ、ありえん・・・いや、確かに親切にしてはヤケにしつこくまとわりつくなぁとか、聞いても無いことを語りだすし、なんか目の前でどっちが僕と遊ぶかなんてことを言い争い始めた人たちもいた。
親切やフランクという言葉では説明がつかないとは思っていたけど。


な、ナンパだったからか?
普通は男が女を誘うところを男が男を誘う。
これが噂の”逆ナン”というやつかっ!?


「違います。」
「ひぅぐっ!?」


スパーンと張り線でツッコミをされた僕。
一体どこから、というか特にボケてないよっ!?


「ハリセンって意外と痛い・・・というか、僕なんらボケてないよ?」
「はぁ・・・自覚が無いんですね。」


何の自覚!?


「話を戻しましょうか。
とにかく、マスターは非常に女の子らしいです。
マスターが認めずとも、私が認めます。
保証します。保障しても良いです。」


・・・いやな保障です。


「結論を言えば、勘違いしてもしかたないってわけです。」
「ほ、本当にそうなの?」
「本当です。」


フェローとエンデもうんうんと頷いている。
ついでにここぞとばかりにセルシーもうんうんとーーーこちらは頷くのではなく、口で言っていた。


<いくら部外者がいるからと言って、私をずっとしまいこんでおくのは酷いと思うよっ!?>


というのは彼女(?)の後日談。


<ご、後日じゃないよっ!?今、今話してるじゃない!?>


というのが彼女の最後の言葉だった。
彼女の行方を知るものはもういない。


<な、なんで行方不明者にっ!?>


いなくなったはずのセルシーの声が頭に響いてくるっ!?
こ、これは僕が彼女を心の奥底では求めていたからだろうか?
もう彼女ほどの剣に出会えなくなると思うと確かに悲しいが・・・もう終わったんだっ!
彼女とはっ!!
僕はもう過去を振り返らないと決めたっ!!


<別れた恋人同士みたいなことを言い出し始めたっ!?>
「はい、これくらいで終わりね。今度のお相手は王都に付いてからということで。」
<ちょ、ちょっとっ!?私の相手の仕方がひどくおざなりになってるよっ!?>
「仕方ないじゃないか。ほら、クルトさんはもう竜種を片付けたようだからセルシーは黙っててね。」
<・・・ぜ、絶対、ひどい扱いに異議を申し立ててやるんだからっ!!>
「はいはい。」


クルトが戻ってくると彼は片腕でトラック二台分はあろうかという大きな竜を引きずっていた。
剥ぎ取るのが面倒なのでこのまま引いていくと言う。
元々竜種の素材は内臓や肉、爪や牙はもちろん鱗の一つまで使えないものは無い。
分け前を約束に、シロに引かせることに。
一部はその場でシロのおやつと化した。












☆ ☆ ☆


夕方頃。
王都”グランデ”に到着。


王都に入り、ゴルバさんとクルトと別れて(もちろんクルトからの分け前は受け取った)すぐにローブを目深に纏った人達に出くわして睨まれたが、とりあえずスルー。
睨まれる心あたりなんて微塵もないので、気のせいだろうと断じてローブの人達の脇をとおり抜こうとしたら片方からいきなり抱きつかれるから驚いた。


「ひぃあっ!?何っ!?」
「な、何者じゃ!?おぬしはっ!?」
「・・・殺しますか?」
「だ、誰!?」


ローブがはらりとめくれて、出てきた顔は知った顔だった。
この世界で始めてできた友達。














セリアだった。



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