勇者時々へたれ魔王

百合姫

第35節 ベリーとミッション

「それで、貴方達だけで来たのね?」
「は、はい・・・ティリアさん。」


現在の場所は冒険者チェスギルド。
帰りづらいので、ギルドミッションで時間を潰す。


「マスター。この胸肉の塊は誰でしょう?」
「さすがにその表現は初体験よっ!?
というか、この子初対面の人に遠慮しないのねっ!?」
「す、すいません、ティリアさん。」


さしものティリアさんもこの斬新な表現には驚いたようだ。
僕も驚いた。初対面の人間相手に胸肉の塊と称する人間は今のところベリー以外に知らない。


「まぁ良いけどね。
せっかくだからビショップクラスのミッションを選んでみる?
響君は昨日持ってきた魔獣の素材の納品で結構なポイントが加わったからね。
もう少しで現在のナイトからビショップにランクが上がるから・・・ここで一発、ドカンといっちゃうのが良いと思うなお姉さんは。」
「もうそんなにですか?」
「ええ、そんなによ。
ビショップまでは比較的楽なのよ。
それでも響君くらい速いのは前例が無いのだけど・・・ちなみに次のランクであるルークになるためには結構なポイントを稼がなくちゃいけないからね。
安心して良いわよ?それなりの苦労を味わえるから。」
「あははは。
僕、あまりランクには興味ないんです。
あまり上げると半強制ミッションが入っちゃうでしょう?
楽と言うなら特に目的も無いですし、別に構わないんですけどね。
苦労してまで上げようと思いません。」
「あら、残念。もう少しミッションを受けるがてら私に会いに来て欲しいのに。」


残念そうに言うティリアさん。


「マスター、わたくしもギルドに登録します。」
僕がティリアさんと話しているとベリーがやや不機嫌に話に割り込んでくる。
仲間はずれが嫌だったのかな?
だとしたら見た目相応の可愛げもあるものだと思っーーーーー


「マスターが楽しそうにしてるのは不愉快です。」


ったりなんかしないね!!
うん、もちろん!!
いや、きっと照れ隠しに違いないっ!!
実は兄貴分的な僕が見ず知らずの女性と仲良くしているのが気に食わないだけ。
そうに違いない。
人の不幸を楽しんでる?
ばか~なっ!
こんな可愛い子がそんなSっ気満開な女の子のはずが・・・


「マスターの困ってる顔のほうが私は好きです。そそられます。」


ははは。
幻聴だ幻聴。
すべて幻聴。
幻聴に決まってる。
確かにベリーは割合きついことを言う子だ。
まぁSっぽいことは認めよう。
だがしかし!!
だがしかしだ。


何のマスターかは知らないが僕にだけ”マスター”と他に無い呼称で呼んでくれるのはきっと何らかの信頼の証に違いない。
信頼しているに違いない。
親愛の顕れにきまっている。
きっと嫌いではない。
仮にも好意を寄せてる相手に相手の不幸を願うようなセリフを吐くだろうか?
答えは否だ。
普通に考えてーーー無い。
昨今のツンデレだってここまで嬉々とした笑顔で”困ってる顔うんぬん”などとは言わない。
あ、でも昔のツンデレにはあるかもしれない。
となればだ。
これはツンデレであり、今はツン状態ということになる。
すなわち、困った顔が見たいと言うのは”決して”(ここ大事)心底から僕の不幸を願ったわけではない。
むしろ情愛を感じているからこその照れ隠しであり、本音は”お兄ちゃん!!私をほったらかして他の女の人と仲良くするなんて許せないよっ!!私以外に余所見をするお兄ちゃんなんて不幸になればいいんだ!!”といういわば愛情の裏返し。
ちょっとだけ兄に恋愛感情を抱いちゃってる可愛い妹ということに他ならない。


素直になれないお年頃というヤツだろう。
なんだ。
そういうことなら初めからそう言ってくれればいいのに。
可愛いやつめ。
ただのツンデレじゃないかーーーー




「マスター。先ほどの言葉に他意はありませんよ?」


他意って確か・・・
他意ーーーーー「別の考え・意味」。




うん、これもツンデレだね。
新手のツンデレ。
ふふふ。
分かってるって。
特殊なツンデレだよね?
本来あるはずの他意は無いって言うただのツンデレ。
他意はない。
そこにデレはない。
・・・あれ?


「確かに・・・私はマスターのことを愛しています。女性としても男性としてもです。」
「僕のどこに女性としての部分がっ!?」
愛してるという爆弾発言よりも僕的にはそっちが気になるよっ!?


「ですが・・・それとこれとは”別”です。というか、好きだとか嫌いだからとかじゃないです。」


そう言い切った後、ベリーはとんでもないことをのたまいました。


「好きな女の子を苛めてしまう男の子がいるでしょう?
私の”これ”はそれを定着ーーーーもとい完全な性癖としてーーーー私のパーソナリティの一部としてあるものですから・・・ぶっちゃけて言ってしまうと。


好き嫌い関係ない私個人の性格です。
すなわち、ツンだろうとデレだろうといじることには変わりないということですね。」


というベリーの顔はーーーーーありきたりの表現で申し訳ないが、それしか思い浮かばず適さずで。




うん。まぁ。
天使のようだった。




結論を言おう。
誰かをいじったり不幸を見て楽しむのはベリーの趣味である!!
以上!!




ベリーはちょっと変態だった。






☆ ☆ ☆


気を取り直してギルドミッションへ行くことにしよう。
肉体的な行使・・・ムチでひっぱたいてくるとかが無いだけありがたく思おうじゃないか。
「マスターに本気で嫌われない程度に苛めるのが私の生きがいです」との声が背後から聞こえるのは気のせいである。
気のせいに決まってる。


結局、依頼ミッションは時間を適度に潰せそうな薬草探しに決まった。
今の時間から日帰りで出来そうな依頼はこれぐらいしかなかったとも言える。
比較的簡単な依頼ミッションなのでビショップになるにはポイントが足らないが問題は無い。
強いて言えばティリアさんの落胆ぶりが問題である。
初めてギルドに寄ったときから良くして貰っているので、ちょっとだけ心が痛んだ。
僕のランクの問題であるからして別に痛む必要も、彼女ががっかり来る必要も無いのだけど、ギルド職員として優秀な冒険者チェスが欲しいといったところだと思う。




「マスター、このあたりでは?」
「みたいだね。」


場所はアスタナシアの森。
近いし、当然だろう。


しばらく探していると指定された薬草を見つけた。
ついでに魔獣も一緒に見つけた。


頭に結んでいるダーインスレイブーーー今更だけど血を吸う呪い武器をリボンとして使うなんて気持ち悪くないのかな?ーーーを解いて魔力と霊力を込めたベリー。
するとダーインスレイブはベリーの右腕に数10センチ分が巻き付き、残りは剣をかたどった。
伸縮自在らしいから体中に巻き付ければ絶対防御を誇れそう。


結構な魔力と霊力を込められてるのが目でわかる。
それを喜ぶかのようにダーインスレイブはブゥゥンとモスキート音を発て、ベリーは戦闘準備を終えたようだ。
僕もバスタードソードを構えていつでも飛び出せる準備をした。
最近覚えた魔術。武器に魔力を流し込む”付与エンチャント”も使用している。
剣の耐久度や切れ味が増す魔術だ。


敵は三体。
ツリーザードという魔獣だ。
日本に居たヤモリというトカゲをそのまま大型化させて緑っぽい配色にしたような魔獣で、大きさは赤ん坊くらい。
そこそこ大きい。主に昆虫系の魔獣を餌にしてるらしく、元の世界でもあるように”トカゲの尻尾きり”が健在。
トカゲの尻尾きりとはヤモリやカナヘビといったトカゲには”自切”という習性があり、自分の尻尾を掴まれた際に、自ら切り落とすことである。
自らといっても自分で噛み千切るわけではない。
切れやすいように”節”が存在してるため、簡単に切れるとか。


そして、切れた尻尾はしばらくそのままで動き飛び跳ねる。
それに捕食者が気を取られてる間に本体はまんまと逃げ出すということだ。
これは元の世界でのトカゲの習性。
ツリーザードという魔獣は生き残るためにさらに一段階進化したらしく、自切する尻尾を”美味しく”したのだ。
尻尾は囮とまでは地球のと一緒。
でも、この世界のヤモリはその尻尾を美味しくすることで捕食者にそれを食べさせ、より時間を稼ぐ。
その間に逃げるらしい。
魔獣自体の戦闘力は弱く、ポーンⅡだ。


こういった生態を聞くたびに魔獣学者の道を歩むのも悪くないなと思った次第である。
ちなみにツリーザードの尻尾は珍味として高値で取引されるとか。
「マスター?」
「・・・あ、ごめんごめん。
ちょっと面白いことを思いついてね。」
「そうですか。
私は未だにどうやって面白くするか考え中です。」
「あまり聞きたくないけど、一応聞いておこう。
”何”をーーーいや、”誰”を面白くするつもりなのかな?」
「マスターに決まってます。」
「・・・お手柔らかに頼むよ。」
「なんとか女装に持っていくのはお手柔らかの内に入りますか?」
「入らないよっ!?
結構手厳しいよっ!?」
「ふふふ、そのリアクションがすでに面白いですね。」
「手の平の上で踊らされてる僕って可哀想っ!!」
「悲劇の主人公気取りのマスターもカッコいいです。」
「”気取り”言うなっ!
そして、そのどこにカッコいい要素がっ!?
『あ・・・良く考えたら無いですね。滑稽なだけでした。』って顔やめてっ!!」
「今のは上げて落とすという高等テクニックなのです。」
「ずっと下げ続けでしたよっ!?」
「上げてました。」
「どこの部分に上げがっ!?」
「腕とか上げてました。」
「古典的すぎるっ!?」
「あげぱんが食べたい。」
「思いっきり話飛んだねっ!?」
「私の食嗜好においてワースト3に入っています。」
「なぜそこまで嫌いな食べ物を食べたくなったのっ!?」
「あげぱんだからです。」
「あげぱんであるということが理由っ!?」
「とりあえずあげぱんは消えれば良いと思います。」
「そして、あげぱんの存在否定っ!?」
「私がここまで、あげぱんを嫌いになったのは私の師匠であるスイカ柄パジャマ、”スイ”ちゃんがあげぱんによって殺されたから・・・」
「生きてるよっ!!
僕の部屋のクローゼットに大切に保管してあるよっ!?というか、パジャマにとっての生き死にって何っ!?」
「マスターは知らないのですね・・・クローゼットの中には莫大なあげぱんで埋め尽くされているということを。」
「何その斬新なクローゼット使用法っ!?
てかあげぱんネタしつこいわっ!!」
「そうですね。こんな漫才をやってるうちに・・・左を見てください。」
「左?
何があるって・・・うぉあっ!?」


まさにツリーザードが襲い掛かってきたところでぎりぎり半身になって避ける僕。
すぐにバスタードソードを構えて迎え撃つ。
といっても着地した瞬間を狙って、頭を貫くだけである。


残りの二匹は?と振り返るとベリーが一体をすでに斬り捨てて、もう一体の離れた場所に居る個体を伸ばしたリボンで刺し貫いたところである。
戦闘はあっという間に終わった。


「まぁ、あれだけ騒いでいればこうなります。
反省してください、マスター。」
「発端はベリーだったと思うんだけども・・・」


尻尾と牙を切り取って回収。
薬草もとって、後は帰るだけ。


「なんか疲れたな。」
「私は楽しかったです。」


にんまりと笑う幼女見た目天使。
人間中身が大切!
そんな言葉が身にしみた一日である。


「エンデとフェロー”には”もう少し優しく接してよ?」
「もちろんです。個人的には好きですよ。」
「・・・好きな子ほど苛めちゃうというその変態性がなければなぁ・・・」
「マスターがあのお2人の分まで苛められるというのなら我慢しますけど、どうしますか?」
「・・・面白がってるでしょ?」
「分かります?」
「わからいでかっ!?」


帰ったときには機嫌が多少良くなっていたフェロー。
本当に良かった。


☆ ☆ ☆




「さて?
それで、おぬしはこれからどうするのじゃ?」


朝一番。
フェローはそう言った。




「ううん・・・とりあえず特には決めてないんだよね。
お金は十二分だし、セリアに会いたいってのはあるんだけど・・・どこにいるかわかんないし。
でも、前々からちょっと考えていたことはあってね。東大陸の街を適当に廻って見て行こうかなと思ってる。」
「うむ。そうか。」
「フェローやエンデ、ベリーは何かしたいことはある?」
<私には聞かないのかにゃっ!?
ヒー君っ!?剣女差別だっ!!徹底抗議するぞっ!!>
「剣女差別って何っ!?」


剣と女性を差別?
剣も女性として・・・異性として見ろということだろうか?
難しいね。かなり。


「セルシーはおいといて、妾は別にどうとでも構わぬ。
響の好きにすると良い。響に付いていくだけじゃ。」
「私もそうです。マスターあるところに私あり。」
「私も特には無いかな。むしろ望むところよ。東大陸なんて初めて来たしねっ!!」
<しがない剣には聞いてくれないのね。>


とりあえず反対意見は出なかった。
セルシーに聞かなかったのは単に忘れーーーーごほん。
忘れてないよ?うん。


「最初の目的地は王都にしておいたほうが良いじゃろう。」
「どうして?」
「王都ならば今以上に良い装備が手に入るかもしれぬ。そのためじゃ。」
「なるほどです。どうせ各地を飛び回るなら、装備の質がどこよりも良いであろう王都で装備をしっかりしてから旅をするというわけですね?私より背が高い割いくせして私より胸の無いフェローさんにしては良い着眼点です。」
「ふ、ふざけるでないわっ!?
着眼点に背も胸も関係ないじゃろっ!?
そもそも胸だってほんのちょっとはあるぞっ!!」


そのセリフは逆に哀れみが増すだけだとなぜに気づかないのっ!?フェロー!!
そんな可哀想なフェローを尻目に見つつ。
僕は王都へ向かうことを次の目標にした。




願わくば何も起こりませんように。

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